第1話 女神との対話
目を開けると、白かった。
床も、壁も、天井もない。
上下の感覚も、距離も、よく分からない。
――ああ、これ。
死んだんだな、と妙にあっさり思った。
痛みはなかった。
恐怖も、驚きも、後から追いついてくる気配がない。
前方に、人の形をした何かが立っている。
白い光の中で、輪郭だけが浮かび上がっていた。
「……女神?」
口にしてから、少し笑いそうになった。
いかにも、それっぽい。
「目覚めたか」
返ってきた声は、感情がなかった。
怒りでも、慈悲でもない。
ただ、確認するためだけの音。
「ここは?」
「説明は不要だ」
即答だった。
少し拍子抜けする。
もっとこう、ありがたい言葉とか、導入的なやつがあると思っていた。
「……俺、死んだんだよな」
「死んだ」
「で、ここは?」
「次の世界へ送るための場所だ」
あっさりしすぎていて、逆に現実味がない。
――異世界転生、ってやつか。
正直、少しだけ胸が躍った。
剣と魔法。
人生リセット。
今度こそ、ちゃんとやれるかもしれない。
「能力とか、ある?」
思ったより軽い声が出た。
女神は、こちらを見ているのかいないのか分からないまま答える。
「与えられる」
「内容は?」
「説明しない」
……ああ、そういうタイプか。
前世で何度も経験した。
結論だけ渡されて、理由は共有されないやつ。
「使命とかは?」
「ない」
「世界を救え、とか」
「ない」
期待していた分、肩透かしだった。
ヒーローじゃないなら、何をすればいいんだ。
「じゃあ、俺は――」
言葉に詰まる。
何を聞けばいいのか分からなかった。
質問の選択肢が、最初から用意されていない。
「生きろ」
女神は、それだけ言った。
短く、曖昧で、投げやりにも聞こえる指示。
生きろ、って。
それができなかったから、ここにいるんじゃないのか。
「……それだけ?」
「それだけだ」
視界が揺れ始める。
足元から、身体の感覚が遠のいていく。
「待って」
思わず声が出た。
「俺は……変われるのか」
前世で、何度も飲み込んできた言葉だった。
変わりたいと思って、結局何もしなかった。
女神は、少しだけ間を置いた。
「それを決めるのは、お前だ」
即答ではなかった。
だからこそ、その言葉がやけに残った。
光が強くなる。
身体が縮み、重くなっていく。
――赤ん坊になるんだな。
妙な実感だけが、最後に残った。
次の人生。
次の世界。
うまくやれるかは分からないけど――
とりあえず、今度はもう少し楽しめたらいい。
そんな軽い考えを抱いたまま、意識は途切れた。




