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支配と理解  作者: 御中御庭より
1章 学園編

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第16話 噂と接触

朝の空気が、少しだけざらついていた。


騒がしいわけではない。

けれど、会話の端が、どこか噛み合っていない。


「聞いた?」

「……ああ、あの人だろ」

「研究者とか言ってたけど、教師じゃないらしい」


主語は出ない。

名前も出ない。


それでも、話題が一つに集まっているのは分かった。


俺は廊下を歩きながら、その断片を拾っていく。


「学園に、外部の人間がいる」

「役員でも、王都の使いでもない」

「でも、許可は通ってるらしい」


矛盾した情報が、同時に並んでいる。

誰も確かめていない。

けれど、誰も否定もしない。


――また、そういうやつか。


理由を説明されない存在。

説明しなくても、処理だけは進む。


この学園では、珍しいことじゃない。


中庭に出ると、いつもより視線の動きが多かった。

集まるでもなく、散るでもなく、

ただ、同じ場所を一度だけ見てから逸らしている。


そこにいたのは、男だった。


年は、俺とそう変わらない。

制服ではないが、学園に浮くほどでもない。

ただ、服装の意図が読み取れない。


――研究者。


そんな言葉が、頭に浮かんだ。

根拠はない。

そう見えただけだ。


男は誰かと話すわけでもなく、

中庭の中央で立ち止まり、周囲を見回していた。


観察、というほど露骨ではない。

けれど、目的を持っているのは分かる。


一瞬だけ、目が合った。


男は、すぐに視線を逸らした。

こちらに関心がある様子はない。


それでも。


見られた、という感覚だけが残る。


授業が始まり、話題は散っていった。

誰もそれ以上、口にしない。


昼休み。


記録補助の指示で、資料室へ向かう途中だった。


「君」


声をかけられて、足を止める。


振り返ると、朝の中庭にいた男が立っていた。


距離は、取りすぎない。

近づきすぎもしない。


「記録補助係、だよね」


断定ではなく、確認。


「そうです」


短く答える。


男は軽く頷いた。


「この学園、変な噂が多いね」


独り言のような口調だった。


「最近さ、

 女子生徒が三人に囲まれたって話、知ってる?」


心臓が、わずかに鳴った。


――具体的すぎる。


「詳しいことは、知りません」


嘘ではない。

噂は聞いている。

だが、事実は誰も知らない。


男は、それをどう受け取ったのか、少しだけ考える素振りを見せた。


「そうか」


それだけだった。


「違和感があったら、教えてほしいな」


頼みごと、というより、

情報収集の延長のような言い方。


「困ってる人を助けるの、嫌いじゃなくてさ」


口元が、ほんの少しだけ緩む。


その笑みは、柔らかい。

けれど、どこか噛み合っていない。


助ける。

何を。

誰を。


基準が、見えない。


「……分かりました」


そう答えると、男は満足そうに頷いた。


「ありがとう」


名前は、名乗られなかった。

俺も、聞かなかった。


男はそれ以上何も言わず、

別の方向へ歩いていった。


背中を見送りながら、思う。


噂は、形を変える。

けれど、こうして集める人間がいる限り、

消えることはない。


帳面を開き、今日のことを書く。


・外部の人間

・役職不明

・女子生徒の噂を知っていた


黒い紙は、沈黙したままだ。


それでも、胸の奥に残る違和感は、消えなかった。


これは、ただの噂じゃない。

誰かが、意図的に近づいている。


そう思った。

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