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来栖さんちの家庭の事情。……plus麻生さんち。  作者: 根岸佳孝


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第4話 人命救助と後輩ちゃん。

 駅のホームにできていた、異様な雰囲気の人だかり。

 何があったのかと思って、私とともくんがその中を見てみると、その輪の中心で、一人の若い男性が真っ青な顔をして、あおむけになって倒れていた。

 見た感じ、自発的な呼吸をしていないように見える。

 まわりの人たちはその人を遠巻きにして見ているだけで、どうしていいのかわからなくて困惑している感じだ。

 そして、その人たちの中から助けようとする動きはない。

 その様子を見た、私とともくんは決心する。

「――ともくんっ!」

「――了解っ!」

 私とともくんは、そう言ってその場でお互いにアイコンタクトを交わし、その人のそばへと急いで駆け寄っていく。こういう時、息がぴったりだと話が早い。

「――大丈夫ですかっ! ……聞こえてますかっ!」

 私はその人の耳元で声をかける。……反応はない。

 事は一刻を争うと思った私は、ともくんと共に、この場でその人に心臓マッサージをすることに決めた。

 柔道部の部活やともくんちの道場で、何回かこういう時の救命方法の訓練を受けたことはあるけれど、もちろん実践は今回が初めてだ。

 ぶっつけ本番だけど、ここには私たちしかできる人がいない以上、私とともくんの二人でやるしかない。

 私は、訓練で教わった通りに、その人の横にひざまずき、肋骨と乳首をつなぐ十字線の中心に片方の手を当てて、反対側の手をその手に組む。そして、その腕を垂直に伸ばし、自分の肩がその人の真上に来るように位置を調整する。


 ……ヤバい、冷や汗が出てくる。


 練習では何回もやったことではあるけれど、横に指導者の先生がいないところでのぶっつけ本番はさすがにちょっと、いや、メチャクチャ緊張する。

 そして私は、手のひらの部分に自分の体重を乗せるようにして、その人の胸が四・五センチ程度沈み込むように、圧迫を繰り返す。その数は、一分間に約百回。

 それを三十回ワンセットで繰り返し、ワンセットごとに私とともくんとで交代しながらおんなじことを繰り返していく。


 ――ともくんが一緒で良かった。私一人だけじゃ、この作業はかなりキツイ。肉体的にも、精神的にも。


 ……なかなか呼吸も心臓の音も復活しない。

 人工呼吸は……。ダメだ。泡を吹いているし、直接マウス・トゥ・マウスは二次感染の恐れもある。

 ここはAEDの出番だと思うけれど、ホームの上には設置がなさそう。だとしたら周りの人に頼むか、私かともくんがダッシュで事務室まで走っていくか……。

 ……どうしよう。頭の中がパニックになってきた。

 そんなことを考えながら、一瞬頭が真っ白になりかけていた、その時だった。


「――AED持ってきましたっ!」


 一人の聖玉館の制服を着た女の子が、タイミングよくAEDを持って私たちのところに駆けつけてきてくれた。

「――五十嵐さんっ⁉ 何でここにっ……⁉」

 その子のことを見て、驚くともくん。

「麻生くんが救命活動をしているのを見て、これは絶対これ(AED)が必要だろって思って、急いで事務室まで飛んでいったのっ!」

 息を切らせてそう話す女の子は、なんだかともくんと知り合いっぽい感じがする。もしかしたらクラスメートかな?

 でもナイス後輩ちゃんっ! 君のファインプレーだっ‼

「――サンキュー後輩ちゃんっ! それを急いでこっちにっ!」

「はいっ!」

「……すっ、すみません、遅くなりまして……」

 女性の駅員さんが、後輩ちゃんに遅れて到着した。

「すみません、わたし、入社したばかりでこれ(AED)の研修、受けてないんですけど……」

 そう言って申し訳なさそうにしている駅員さんに、

「大丈夫です。AED自身がどうやればいいか教えてくれますから」

 と言った。

 そして私は、AEDを倒れている人の頭の近くに置いて、電源を入れる。すると、AEDが自動音声で話し始めた。

『……衣服をどかして胸をはだけてください。』

 私は指示通りに衣服の上を脱がせる。

『……タブを引いてパッドを取り出します。』

 そして私はパッドを引き出し、機械の指示通りの場所にそれを張り付ける。

 そして、機械が心電図を測り、私たちにこう、命じてくる。

『患者から離れてください。電気ショックが必要です。患者から離れてください。オレンジ色のショックボタンを押してください。』

 そして私は、指示通りに電気ショックのボタンを押した。


 ――ショックっ‼


 ――男の人の体がドンッ、という音とともに、大きく跳ねる。

『電気ショックが行われました。心肺蘇生を始めてください……』

 機械が再度、心臓マッサージをするように指示をしてくる。

 その指示に合わせてともくんが再びマッサージを始める。

 そして、再び私と交互に、マッサージをし続けていると……。

「――あなたたち、大丈夫?」

 一人の女性が横から私たちに声をかけてきた。

 緊迫した雰囲気の中で、この人一人だけ冷静にふるまっている。

 ――この雰囲気って……。しめたっ! この人って、もしかしたらっ……⁉

「私は聖玉館附属病院の医師。私も手伝うわ」

 ――ビンゴっ! うちの大学病院の先生だっ!

 プロが来てくれれば百人力だ。

「ありがとうございます先生。それじゃあ一緒にお願いします……」

 そう言いかけた時だった。

「――グハァッ!」

 男性の息が、突然、復活した。そして、口から何かを吐き出した。

 そして、不規則ながらも、自発的に呼吸をすることができるようになった。

「――先生っ!」

「よしっ、私に見せて」

 そう言って、先生はその人の瞳孔の状態をチェックする。

「……かなりの興奮状態ね。とりあえずは大丈夫だけれど、この様子だとおそらく胃の洗浄と、それから検査が必要ね。救急隊が到着したら、うちに回してもらうようにお願いするわ」

 そして先生は附属病院の方に電話をかける。

「――もしもし? 見出みでだけど……」

 ……よかった、ひとまずは安心だ。

「――すみませんっ! 患者はこちらですかっ!」

 救急隊もホームに到着した。これで、素人の私たちができることはなくなった。あとは、プロの皆様にお任せすることにしよう。


「――あなたたち、お手柄ね。その制服って、付属中の子でしょ? って、あれ? みんな、どこに行っちゃったのかしら……?」


 私たちは、救助の邪魔にならないように、こっそりとその場を立ち去った。

※作中の心臓マッサージ及びAEDの描写に関しましては、日本医師会様、北海道医師会様及び株式会社ヤガミ様のホームページを参考にさせていただきました。

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