第3話 弟くんと恋の予感。
駅前でヒナちゃんと別れた私とともくんは、いつものようにいつもの電車で学校へと向かっていた。
「――そういえばさあ、ともくんが入学してもうひと月以上経つんだよね。どう、ともくん? 学校にはもう慣れた?」
「うん、まあまあかな。授業も面白いし。今のところは順調かな」
「友だちはできた? いじめられたりとかはしてない?」
「大丈夫だよ、心配しなくても。登校初日から友だちが出来たし、今じゃ、お昼ご飯を一緒に食べたりとか、一緒に帰ったりする友だちもいっぱいいるから。だから、心配しなくっても大丈夫だよ。――そうそう、うちのクラスって、面白い子とか、変わった子がいっぱいいるんだよね。例えば……」
そんな風に、友だちについて語っているともくんの顔は、本当に楽しそうな感じだ。お姉ちゃんとしては、ひとまず一安心だ。なにしろ私、麻生家のみんなからともくんのことよろしく頼むって言われているもんね。これでみんなに、安心して報告することができる。
……そうだ。ついでにヒナちゃんとかが気にしていたことも、この際だから聞いてみようかな。
「そっかあ、友だちが多くてそれはなにより。でさあ、ともくん?」
「なあに?」
「その友だちの中に、ともくんの気になる子とか、いたりするの?」
「……気になるって、どういう意味で?」
「そりゃあさあ、決まってるじゃん? アオハル的な意味って言うかさ、思春期の少年の甘酸っぱい感情のなにがしとかさ……」
「それってもしかして、僕に好きな人ができたかってこと?」
「あ、うん。ハッキリ言っちゃうとそう、かな……」
ヤバい。なんだか聞いた私の方が照れてきた。
考えてみたら、私、ともくんとこんな会話したことなかったな。って言うか考えてみたら私、誰かと恋バナなんかしたことがそもそもなかった。
するとともくん、私に向かってポーカーフェイスでにっこりと微笑むと、
「ノーコメントです♡」
とだけ、一言言ってきた。
「あっ、そうですか……」
なんか、あっさりとかわされてしまった。
「どうせ、ヒナちゃんだとか他のみんなになんか言われたんでしょ?『トモに好きな子ができたのか聞いてこい』とかなんとか。そんなこと聞いてくるの、セイちゃんのキャラじゃないし」
「あははははっ……」
なんか、バレてました。ともくんってば、鋭い。
「あの人たちは僕のこと、余計なことまで心配し過ぎなんだよ。『トモはこんなにかわいいのにモテないのはおかしい』とか、『もしも女の子以外を好きになっても全く恥じることはないんだよ』だとかさぁ。僕の好きなのは女の子だし、僕がモテないのはこんな見た目だからクラスの女子に男子扱いされていなかったってだけの話なのにさぁ……」
珍しい。普段は大人っぽい態度のともくんが、年相応の男の子みたいな感じで不満を述べている。
なんだかこういうところを見ていると、やっぱりともくんも、まだまだ中一の男の子なんだなぁ、って思ってお姉ちゃん的には妙に安心してしまう。
「それだけみんな、ともくんのこと、大事に思っているんだよ。だってともくんは、麻生家の、そして私のかわいいかわいい末っ子の弟だもん。かわいすぎて、いろんなことが心配になっちゃうんだよ」
「まあ、その気持ちはうれしいけどさ、僕だってもう中学生なんだから、少しは放っておいてほしいんだよね。大体、付き合ってもいないうちからそんな話、するわけないじゃない。だって、付き合う前からあの子が好きだって言って、もしうまくいかなかったりしたらさ、恥ずかしいし、ちょっぴりみじめじゃない?」
……あれ? 今の言い方って……?
「もし、僕に彼女が出来たら、その時初めて、みんなに報告するからさ、だからセイちゃん、それまでは僕のこと、放っておいて欲しいんだ。ねっ、お願い☆」
そう言うとともくんは、含みのある笑顔で、私にウインクをしてきた。そんなおちゃめなことしてくるタイプじゃないのに、なんだか珍しい。
だけど、その様子を見て、私は直感した。
いくら恋バナに疎い、ニブい私でもさすがにこれくらいのことはわかる。
ともくんが最初に言った「ノーコメント」って言い方は、否定でも肯定でもなくって、ただただ質問に答えたくないときの定番の答え方だ。付き合っている芸能人とかが良く言うやつだ。
それに、その後の言い方も、「自分には意中の相手がいるから、上手くいくまでは放っておいて欲しい」というニュアンスを感じる。
それってつまり、やっぱりそういうことでいいんだよね……?
ともくんの成長と初めて訪れた恋の予感に嬉しくなった私は、思わず彼のことを目を細めて見つめてしまった。
「……ともくんも大人になったんだね……。お姉さんは、なんだかうれしいよ……」
「セイちゃん……。なに一人でブツブツ言いながらニヤニヤ笑っているの? なんだかとっても気持ちが悪いんだけど……?」
それから数分後。電車が聖玉館前の駅に到着した。
(――ピンポーン、ピンポーン……)
いつものように、チャイムとともに電車の扉が開く。
そして、いつものように私たちは電車を降りたのだったが……。
……なんだか、ホームの様子がおかしい。
「……あれ? あそこで何やってるんだろう……?」
なにやら階段のあたりに、人だかりが出来ていて、ざわついているみたいだ。それに、なんだかこのあたり一帯が、何とも言えない異様な雰囲気に包まれている。
その雰囲気に私たちは、思わず目を見合わせてしまった。




