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来栖さんちの家庭の事情。……plus麻生さんち。  作者: 根岸佳孝


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第10話 たけのこと大問題。

 ……大きな問題が発生してしまった。


 この間、騎士くんからもらったたけのこが原因で、おじいちゃんとの仲が若干険悪になってしまっている。騎士くんからもらったたけのこを、調理がめんどくさいという理由で麻生家に全部あげてしまったことで、おじいちゃんがへそを曲げてしまったのだ。

 あの後、騎士くんがわざわざたけのこのことをおじいちゃんに知らせてしまったことで、おじいちゃんが騎士がくれたタケノコはどこなんだ、と私に聞いて来たのだ。

 それで調理ができないから全部麻生家にあげてしまった、と正直に言うと、おじいちゃんはブチ切れてしまった。

 何で騎士が俺たちにくれたものを全部あげてしまうんだ、麻生家にあげるのはいいけれど一個ぐらい残しとけばいいじゃないか……と。

 そうはいっても、料理の下手な私たちじゃ確実に持て余すし、それに正直言って、あの今の騎士くんを象徴しているような忌まわしいたけのこの山を、一刻も早く私の目の前から消し去りたかったというのも本音だ。

 まあ、確かに、麻生家で作ってもらったたけのこ料理をおじいちゃん用にもらってきてもよかったかもしれない。よくよく考えたら、おじいちゃん、おばあちゃんが作るたけのこ料理、好きだったし。

 それについては、完全に私のミスだった。


 でも、騎士くんも悪いと思う。

 私たちが料理ができないことはわかってるんだから、料理ができるようになったんだったら、生の丸のタケノコじゃなくって料理したものを私たちにくれればよかったんだ。……現に、のえるん達にはそうしてたじゃん。

 あいつは、そういうところが気が利かない。


 ……だけど、ホントはタケノコのことはきっかけに過ぎないのかもしれない。なぜなら、すでに私とおじいちゃんの二人っきりの共同生活は、すでに限界に達していたからだ。

 料理のこともそうだけど、問題は圧倒的なコミュニケーション不足にある。

 考えてみたら、私はおじいちゃんのことを実はよくわかってなかったかもしれない。

 私にとってのおじいちゃんは、あくまでカッコいい刑事さんで、世のため人のために働いている人、みたいなイメージだ。

 だけど、素の、本当のおじいちゃんについては実はあまりよく知らなかったのかもしれないし、特に今まで知ろうともしてこなかった。

 だって、普段のおじいちゃんのことをかまうのは、おばあちゃんや騎士くんの役割で、私はそこまで深く付き合う必要はなかったし。

 小さいころは木登りとか水泳とか自転車乗りとか、いろいろ教えてもらったけど。

 そう言えば、あの当時のおじいちゃんはかなりスパルタだった。

「ケガをしたなら運動して治せ」みたいなお相撲さんみたいなことを言って、おばあちゃんやお母さんから大目玉を食らったりしてたっけなぁ……。今思い出した。

 あの頃のおじいちゃんはとっても怖かったけど、でもなんだかんだ言って優しかったから、好きだった。

 だけど……。

 小学校に入って、私は次第に女子とばかり遊ぶようになっていき、そして、麻生姉妹と付き合うようになると、私とおじいちゃんと一緒に遊ぶ機会は次第に少なくなっていった。

 おじいちゃんと孫娘なんてそんなもんなんだろうし、そのこと自体については、今まで特に何とも思っていなかった。

 おじいちゃんは騎士くんがかまってくれてたし。

 だけど、二人暮らしをするようになって、今までのコミュニケーション不足のツケが来てしまった。

 今までまともに話してこなかったから、お互い遠慮してしまっていて、本音で話すことができないから、それで気が付かないうちにお互い口に出せない不満がどんどんたまっていったのだ。

 だから、タケノコのことがなくっても、いずれは何かのきっかけで爆発してしまっていたのかもしれない。それがたまたま今回だったというだけで。


 でも、どうしよう、このまま気まずいままだと、さすがに共同生活をしていくのはかなりキツイ。どうにか仲直りのきっかけがつかめれば、いいんだけれど……。


 そんなことを考えながら、私はとぼとぼと、学校へと続く長い坂道を歩いていた。

 その時だった。


「――あ、セイちゃん先輩、おはようございます♡」

 今の私の気持ちとは正反対の、キラキラ輝くまぶしい笑顔。

 由奈ちゃんが私にあいさつしてくれた。

「……って、どうしたんですか? なんか元気がないみたいですけれど……」

 落ち込んでいる私の姿を見て、私のことをまるでお母さんのように心配してくれる由奈ちゃん。

「あ、ううん、大丈夫だよ、別に大したことじゃないから……」

 いけない、いけない。私の方がお姉さんなんだから、妹ちゃんの由奈ちゃんには、余計な心配をかけないようにしないと。

「そうですか? でも、悩んでることとかあったら、遠慮しないで言ってくださいね? 誰かに話すだけでも、心が軽くなることだって、ありますし……」

 そう言って、私に優しく微笑みかけてくれる由奈ちゃん。

 やだ、この子、本当にお母さんみたい。

 年下なのに、このあふれ出る包容力は何なんだろう。

 こんな優しい笑顔を見たら、思わず、甘えたくなってしまうじゃないの……。

 そして、そんな由奈ちゃんに対して、私は…………。


「――そうですか、おじいさんと……」

 ……由奈ちゃんの好意に、思わず甘えてしまった。

 私は、お姉ちゃん、失格です。

「確かに、食べ物の恨みは怖いですからね。私も、マ……おかあさんの取っておいたお菓子とかをうっかり食べちゃったときとかには、かなりめんどくさいことになりましたし……」

「まあ、それもあるんだけど、最近私とおじいちゃんって、あんまり会話がなかったんだよね。お互いどこか遠慮していて、本音で話せる感じじゃなかったし……」

「なるほど、そうなんですか……」

 私の話を聞いて、自分のことのように考えを巡らせている様子の、由奈ちゃん。ありがとう、こんなダメダメなお姉ちゃんのために、親身になってくれて……。

「あ、そうだ。たけのこですよ。たけのこで起きたトラブルは、たけのこで解決するんです」

 突然、由奈ちゃんが思いついたように言った。

「たけのこで……って、どうやって?」

「先輩がおじいさんにたけのこで料理を作ってあげて、それをコミュニケーションのきっかけにするんですよ。この間、私が先輩に料理を教えるって言ったじゃないですか。その料理を、たけのこ料理にしましょう」

「無理無理無理っ! こないだも言ったけど、私料理は苦手なんだよ? そんな私が、タケノコなんて、そんな高度な食材……」

「大丈夫ですよ。たけのこは、最初の下処理とアク抜きさえできれば、むしろ何をやってもいい、万能で初心者向けの食材ですから」

「そうなの?」

「はいっ! ですから先輩は何も心配しなくっても大丈夫ですっ! 大船に乗ったつもりで、私に任せてくださいっ!」

 そういって、由奈ちゃんは自信満々に自分の胸をポンッ!と叩いた。

 ホント由奈ちゃんてば、頼もしい。

 見た目はゲームのお姫様みたいな感じなのに、いちいち行動と言動が男前、かつ肝っ玉母さん的で、メチャクチャかっこいい。

 これは、あくまで私の武道家としてのカンだけど、由奈ちゃんて、なんていうか、修羅場をくぐってきたようなニオイがする。そうでなければ、この男前、かつ肝っ玉母さん的な風格は、なかなか出せない気がする。なんで私もこんな印象を由奈ちゃんに持つのかわからないけれど。


「それじゃあ、先輩。明日、お昼の二時に、下竜沢しもたつざわの駅前で待ち合わせってことで、お願いします」

「あれ? 私、由奈ちゃんにどこに住んでるかって言ったっけ?」

「だって先輩、麻生くんの幼なじみじゃないですか」

「あ、そうだった。ともくんの幼なじみだったらフツー、おんなじ街に住んでるって思うよね。うっかりしてたわ、私」

「それじゃあそういうわけで。またあとで連絡しますねっ!」

 そう言って、由奈ちゃんは一年生の教室の方へと向かっていった。

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