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【短編小説】誰も知らない

掲載日:2025/12/14

 スマホに留守電の通知が表示されていた。

 今時珍しい。

 見覚えの無い番号だったが履歴には名前の表示がある。

 犬山……?

 その名前に見覚えは無い。

 ひとまず留守電を再生すると、不愉快な音声案内がゆっくりと録音日時を伝える。

「2024年、1月、12日、午前、11時、45分、です」

 

 むかしからこの音声案内がきらいだった。

 携帯電話になってからは着信履歴があるのだし、日時なんてスキップして内容を聴かせてくれと常々思う。

 舌打ちをこらえながら録音内容を再生すゆと、男の声で「もしもし」と言うのが聞こえた。

「いや、急にすまん。俺だよ、俺。覚えてるかな」

 誰だよ、と言いそうになった。

 犬山という名前にも声にもおぼえがない。



「あのさ、変な話していい?」

 おまえからの電話がそもそもとして変な話なんだよ。

 声の感じからは同い年くらい、話し方からすると同級生だろうか。

「年末にさ、お前は来てなかったけど、同窓会あったんだよ」

 相変わらず記憶にない犬山という名前の男を記憶から掘り起こそうとしていた。

 やはり同窓生か。

 葉書が届いてたのを思い出した。

 最初から顔をだすつもりもなかったので返事もしなかった。



「そんでさ、久しぶりに顔を見たくなって行ったんだけど、変なんだよ。

 何かさ、よく怪談話とかであるだろ。

“あいつと遊んでだけど”

“え、誰それ”

 みたいなの。

 自分が一緒に遊んでた友達を同級生の誰も覚えてない、みたいなやつ。

 あんな感じでさ、いや、少し違うんだけど誰も俺の事を覚えてねぇのよ」

 違和感がひとつの明確な形をもって背中を這い回る感覚に身震いをした。

 おれもこの男を憶えていない。


「でもさ葉書も来てたし、出した返信の招待状も貰ったんだぜ?

 なのに余所余所しいんだよ、みんな。

 最初はふざけてるのかと思ったけどさ、なんかマジなんだよ。

 受付に名前がないのは何かのミスだとしてもさ。

 おれはたしかに目立つタイプじゃなかったけど……でも桜井とかさ、田辺とかさ、あいつらも憶えてないみたいでさ、すっげぇ愛想笑いで誤魔化してんだよ」


 桜井と田辺の名前を聴いて、なんとなく20年以上前の教室が立体的に甦ってきた。

 カーテンに同系統の色ペンで書き込んだカンニング、煙草の吸い殻で詰まらせたベランダの排水口、洗わず干さずでカビの生えた体操服。

 しかし相変わらず犬山という男のことは思い出せなかった。

 


 犬山の声は今にも泣きそうになっていた。

「俺もいずらくなっちゃってさ、後から来た先生は俺のこと図々しい店員だと思って怒り出すし。

 何なんだろうな。

 なぁ、お前は俺の事、覚えてるよな?」

 そこでメッセージは終っていた。

 覚えていない。

 犬山ケンタロウ。表示されている履歴の名前には憶えがない。



 俺は慌てて電話帳を漁って桜井に電話をした。

 出ない。

 田辺は?

 出ない。

 なんとなく思い出してきた同級生の名前を検索していく。

 柴田、藤原、杉田。

 案外と連絡先を知っていたことに少しの安堵感を覚えたが誰も電話に出ない。

 

 最後に思い出した寺沢に発信する。

 何回かの発信音の後、寺沢が恐る恐ると言った感じで電話に出た。

「あぁ、忙しいとこすまん。おれだ、西村だ。覚えてるか?手短に終わらせるから聞いてくれ。お前、犬山ケンタロウって知ってるか?俺らの同級生みたいなんだけど」

 一気に巻くしたてる。

 背筋を這い回る蟲の形をした不安が首筋あたりでピタリと止まった。

 


 寺沢があからさまなため息を吐いた。

「……なんかこないだの同窓会に来てたって奴だろ」

「そう、そいつから留守電があって」

「お宅どちら?西村ってだれ?誰からこの番号聞いたか知らないけど変ないたずらやめろよ」

 相手はそれだけ言うとぶちっと通話が切れた。

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