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第十六話 相棒を救え!

「峯曹家の跡取り息子ともあろう者が」


 湛慶は心底がっかりした、というように俯き加減でかぶりを振った。


「まさか牢屋に忍び込む愚行を犯すとはな。これは相当な罪だそ? お家取り潰しの処分となってもいいのか?」


 上目遣いに双樹たちを見ながら、一歩前に出る。それに合わせて結ちゃんと夏くんは後ずさるのだった。


 やはり迫力に気圧されてしまうのだろう。


 無理はない。


 私もニラまれた時は、震えて動けなくなった。気持ちは痛いほどわかる。

 警務部隊ということは、警察のようなものなのだろう。しかも運慶さまの命令を受けずに動けるということは、かなりの地位にいるということだ。ということは、実力も相当なものなのだろう。


「天」になった私たちでは、到底相手になるわけがない。


 だけど、双樹だけは一歩を引かなかった。


 むしろ負けじと前に出る。


 湛慶は「フッ」と短く笑った。


「勇敢だな。その点だけは褒めてやろう」


「自分の佛師を護るのは、魂師として当然のことだ」


「ほう。それは殺された貴様の祖母も同じ意見か?」


 双樹の表情がこわばる。触れてはいけない部分に触れられたのだろう。

 次の瞬間、双樹は湛慶に向かって突進して行くのだった。


「双樹! ダメ! その人は危険──」


 私はそこで言葉を切る。

 湛慶の足元の石畳の床の一部に違和感を覚えたからだ。


 あそこだけ少し色や質感が違うような──


「若いな。あの程度の安い挑発になるとは」


 向かって来る双樹に拳を繰り出す。

 それは的確に顔面をとらえた──が、ゴツイ拳はどんどん双樹の顔にめり込んでいく。やがて双樹は泥のように崩れていくのだった。


 私はハッとする。


 あれって、任務の時に私が土粉で作ったものだ! でも、ずいぶんデキが良かったような……。


 薄暗く少し離れた牢屋の中から見ていた私はもちろんのこと、目の前で見ている湛慶が騙されるほど双樹に瓜二つだったのだ。


 明らかに私が造ったものじゃないよね?


 とうなると──


 湛慶は腕に絡みつく粘着物をしげしげと見つめる。


「なるほど。宗が造形に手を貸したようだな。見事な出来だ」


 私は声を上げそうになって、慌てて口に手を当てる。


 湛慶の背後の床──ちょうど質感が違う部分──が盛り上がっているのだ。


 それを見てピンときた。


 これも初任務の時に、悟悟(サトルサトリ)先生が使っていた戦術だ。


 双樹が飛び出して来る。


 完全に背後を取った。

 しかも湛慶は腕には粘着状になった土粉が張り付いている。完全に動きを封じるのは無理でも、多少は反応が遅れるはずだ。


 行け! 双樹!


 私は心の中で叫ぶ。

 が、まるで事前にそのことを知っていたかのように、悠々と振り返る湛慶。

 腕の粘着物にいたっては、初めからなかったような動きだった。


「呆れるな。この程度の戦術しかもたぬまま乗り込んで来るとは」


 いとも容易く双樹は捕まってしまう。

 首を鷲掴みにし、決して小柄ではない双樹を片手で持ち上げているのだった。


「グッ、は、離せ!」


 宙に浮いた状態の双樹は足をバタバタさせるものの、湛慶にはまったく意に介する様子はない。むしろ余裕すら見て取れる。


「親父殿に言っておけ。相変わらず造形の腕は大したものです、と。だが、床の造形に関しては話にならんな」


 湛慶にニラまれ、夏くんが口をへの字にした。


 そうか! あの床は夏くんが造ったものなんだ!

 

「どうした? 大切な佛師を助けるんじゃなかったのか?」


「クソ! 離せ!」


「それにそっちの二人は見てるだけか?」


 結ちゃんと夏くんは、完全に気圧されてしまっていて、動けないようだった。

 やはり訓練の延長だった初任務とは違い、実際の戦闘は威圧感や迫力がケタが違う。しかもこの湛慶からは、なんとも形容し難いオーラのようなものを感じるのだ。

 あえて表現するのなら、「死」ということだろうか。

 イタズラに触れた途端に、命が奪われる──死線を超えた経験のない私でさえ感じ取ることができたのだった。


「嘆かわしいな。これが『天』とは。我が国の育成システムも落ちたものだ」


 湛慶は言い終わると、ギロリと視線を巡らせた。

 私たちは一様に体をこわばらせる。


「貴様らのような軟弱な者は、この国にはいらん。ここで俺が始末してやる」


「湛慶殿!」


 慌ててやって来たのは如意だ。


「どうした?」


「大変です! 運慶さまが、何者かに襲われました!」

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