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第十二話 数奇な出会い

「ちょっと休憩しよう……」


 私は日陰にある手ごろな岩にもたれかかる。ひんやりとしていて気持ちがいい。

 さらに竹で作った水筒で喉を潤す。

 すっかり温くなってしまっていたが、乾いた体に水が染み込んでいく。心地よい潤いに、ホッと一息つくことができた。


「ずいぶん歩いて来たな」


 改めて辺りを見回してみる。


 どこを見ても木ばかりだ。それもそのはずで、ここは阿の国の山の中だ。


 なぜこんなところを一人で歩いているのかというと、新たな素材を探すためだった。


 「土粉」は軽くて扱いやすく、非力な私にはもってこいだ。

 おまけに魂を抜くと、粘り気のあるものに変化する。そのため、うまくやれば敵の動きを封じることができるかもしれない、という優れものだ。


 ただ、柔らかすぎるのが難点だった。


「位の高い仏総には、おそらく通用しないだろう」


 千世界先生から言われたことだ。

 実際に「土粉」に触れた悟悟(サトルサトリ)先生は、わざと捕まったフリをしてくれていたらしい。


「その気になれば、いつでも逃げられたんだぞ。でも、生徒が頑張って考えたトラップだからな。あっさり抜け出しちゃうと、やる気をなくすかもしれない。だからもがいてるフリをしてたんだ──いい先生だろ? |サトル先生はいい先生だって、保護者の人たちに言いふらしておけよ」


 ……何はともあれ、早い話、使い物にならないってことなのだろう。


 そもそも「土粉」は、「砂粉(すなこ)」と混ぜて粘り気を取り除いてから使うものらしい。

 本来の用途は、試作品を作る時に使われる素材で、武具として魂入れをするものではないそうだ。


 そんなわけで私は、「土粉」同様に扱いやすく、一度捕まえた敵を逃さないくらいの粘度がある素材はないかと、山の中にまで探しに来たと言うわけだった。


(もっと奥へ行ってみようかな)


 休憩を終えた私は、リュックを背負い直すと再び歩き出す。


 ただ、この時の私はとても大切なモノを見逃していた。


 草むらの中に、倒れた看板──


 そこには消えかかった文字で『立ち入り禁止』と書かれてあったのだった……。


 そして歩くこと十五分──


「もしかして……」


 背中に嫌な汗が滴り落ちていくのを感じていた。


「嘘よね……誰か、嘘だと言って……」


 単に山を歩いていた時に起こる生理現象とは、また別の汗であることを自覚していた。


 辺りを見回す。

 どうやら認めざるを得ないようだった。


「私……道に迷ったみたい……」


 右を向いても左を向いても、すべて同じ景色に見えるのだ。


「ど、どうしよう……」


 無意識にポケットを探る。が、スマートフォンはない。


 ここに来た時に、なくしていたのだった。待ってたものは、祖父から待たされたナイフと、配達する予定だった仁王像だ。


「助けを呼べるようなものないし……困ったな──ん?」


 たまたま手をついた木の表面が、ヌルッとしているのだ。


(木の蜜?)


 手についた液体の匂いを嗅いでみる。


(どこかで嗅いだことがあるような気がするな) 


 私はハッとする。


(これってもしかして──)


「それは『派天(ぱて)の木』です! 触れてはなりません!」


 振り返ると、女性が立っていた。


 天女──私の頭の中に浮かんだのはそれだ。


 息を呑む美しさ、とはまさに彼女のために作られてのだろうと思わせるほどだった。


「その木の樹液に触れると、体が痺れてやがて動けなく──あら?」


 女性は黒目がちの大きな目を、さらに大きく見開いた。


「なんともない……ようね」


「は、はい。どうやら私は、ここではかなり特異な体質みたいで」


「もしかして貴方──鈴木沙羅さん、かしら?」


「ど、どうして私の名前を!?」


 すると女性は口に手を当てて微笑んだ。なんとも上品な所作だ。


「沙羅さんは、この阿の国ではかなりの有名人ですよ。異世界から召喚された『とてもユニークな子』だと」


「ハハハッ……そうなんですね……」


 かなりオブラートに包んではくれているが、要するに「変な奴」というわけなのだろう。


「沙羅さん」


「はい」


「よろしければ、私の自宅に来ていただけませんか?」


「アナタのご自宅に?」


「ええ。そこで沙羅さんのことを、少し調べさせていただきたいのです」


「調べるって、一体何を……」


「沙羅さんはかなりユニークな体質なので、その秘密を知りたいのです」


「はあ……」


「まだなんとも言えませんが、私としては、沙羅さんの体質を解明することができれば、もしかすると流行病や怪我の治療に活かせるかもしれないと考えているのです」


「そういうことなら、ぜひ協力させてください!」


「ありがとうございます。そう言っていただけると助かります。では、早速ですが、山を降りましょうか」


「はい!」


 女性の後ろをついて歩くと、前方から数人の男性たちがやって来るのが見えた。


「いた! おーい! ここにいたぞ!」


 先頭の男が後方に向かって叫ぶと、一斉に人が集まって来るのだった。


「困りますよ、勝手に抜け出されては」


「あら? 声をかけましたよ」


「嘘を言わないでくださいよ、運慶さま」


 私はハッと女性を見る。


 ウンケイ サマ?


 彼女は肩をすくめると、ペロリと舌を出す。

 その仕草はまるで、イタズラがバレた少女のようだった。

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