緊縛強盗が怖いので発声練習をしたら警察が来た話
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☆最後にイラストがあります。
「……と、闇バイトによる……緊縛強盗……警察は……」
時計を見れば11時前。
いつも通りに起き、猫の「はんぺん」さんにご飯をあげてから、もう一度寝てしまった。
遅く起きた日曜日の朝。
よく寝たと言うより、寝過ぎてだるい。
パジャマに成り下がったの首の伸び切ったトレーナーとショートパンツ、モコモコの靴下。
どこにも出かける予定もないので、着替えるつもりもない。
ゆるゆる気分のまま朝食なのか昼食かわからない食事の準備をし、聞こえてくるテレビのニュースに耳を傾ける。
「怖いよなぁ…緊縛強盗」
最近多い緊縛強盗に恐怖を感じる。
お年寄りを狙って…などと言うがハンマーを持っている時点で、年齢関係なくやられてしまうだろう。
ニュース番組ではコメンテーターや防犯専門家が「狙われやすい家」や「防犯対策」など、あれこれ話していた。
『すぐに警察に電話して、警察が来るまで時間稼ぎをしてください…』
強盗の目の前で警察に電話出来るかなぁ…。
とても自信がない。
そして、咄嗟の時に手元に携帯がある可能性が低い。
普段から携帯をついそこら辺に置きっぱなしにしてしまい、どこにあるかわからない。
いや、携帯がどこにあるかわかっていても取りに行けないのではないか。
そんな事を考えながら、ふと窓際に眠るはんぺんさんを見やる。
きゃわわ!
寝顔を写真に収めたい!
「携帯…」
ほら。もうどこだかわからない。
はんぺんさんの可愛さを写真に撮りたくても携帯が手元にないから、心のカメラのシャッター爆押しで済ます。
両親は数年前にリフォームした母親の実家で田舎暮らしを満喫している。
この家は私とはんぺんさんしかいないのだ。
「この家とはんぺんさんは私が守る!」
胸に拳を当てテレビに向かって宣言する。
さて。その手段をどうするか。
携帯は…あてにならない。
笛?
だめだ…笛さえ咄嗟に出せない自分に自信がある。
「いざとなったら頼れるものは…このカラダ1つ…」
戦うのは無理だから、助けを呼ぶ声を出せるのが最大の攻撃になるのでないか。
犬が吠える家は泥棒は避けるらしいし。
閑静な住宅地でありながら人通りはなかなか多い。
大声で緊縛強盗に襲われてる事を知らせ、誰かに警察を呼んでもらおう。
閑静な住宅地であるが故に使える技だ。
「よし。いざという時のために発声練習しよう」
「あー。あー。うん。うん。よし」
その場でジャンプを3回して気合いを入れる。
大きく息を吸い、声をだす。
「あーえーいーうーえーおーあーおー」
発声練習と言えばこれ。
かーけーきーくーけーこーかーこー
…3巡目には飽きてきた。
あ〜えーいーう〜えーおーあーおー…
か〜けーき〜くーけーこ〜かーこー…
さ〜しーすーせーせ〜そーさーそ〜…
た〜すーけーてーて〜とーたーと〜…
たーす〜けーてーて〜と〜たーとー…
……つまらない。
だいたい「助けて!」と言えれば良いわけだし、よく考えたらあいうえおは関係ない。
よし。練習は「助けて」と「警察呼んで」を重視しよう。
あ…通行人が外国の人だった場合は英語のほうが良いかも。
英語バージョンも練習しよう。
「あーい〜うーえーお〜まーわーり〜
たーす〜けーて〜て〜とーたーと〜
へ〜る〜へ〜る〜へーるーぷ〜み」
違う。もっと臨場感が欲しい。
「ヘルプ!お巡りさん!ヘイヘイ!ヘルプミー!ポリス!ポリスメーン!カモンポリスメーン!」
そそ、こんな感じ。
「ヘイヘイヘーイ!ポリスメーン!カモ〜ン!ポリスメーン!ウェルカム!ハンペンサン!カモン!」
「たーすーけーてーてーとーたーと。おーまーわーりーてーとーたーと。
おーまーわーりーさーんーにーでーんーわーしーてーかーわーいーいーはーんーぺーん」
イングリッシュバージョンも練習。
「へーいーへーいーポーリースメーン。カモンハンペンサーン!テレフォンプリーズコールミー。ウェルカムポリスメーン」
これが咄嗟に使えるようになれば緊縛強盗にも撃退出来そうな気がする。
個人的には英語バージョンに力を入れたい。
「ヘイヘイヘーイ!ポリスメーン!カモンカモン!ハンペンサーン!ウェルカムウェルカム!」
何度も繰り返すうちに調子が出てきた。
「かーきーくーけーこーいこーい、おーまーわーりーてーとーたーとー、はーんぺーんばっちこーい」
よし来い!よし来い!乗ってきた!
「はんぺんてとたと!カモンはんぺん!おいではんっぷぇ〜ん!」
♪ピンポーン
来客を知らせるインターフォンの音がした。
「チッ。いいところだったのに」
なんか注文してたかな?
インターフォンのカメラを見ると制服をきたお巡りさんらしき人が3人いる。
「すみませーん、高木さん!いらっしゃいますよね?〇〇警察の者です〜」
むむ、怪しい。
まさか緊縛強盗じゃない?開けたらダメなやつ。
居留守を使おうと決めた時、警察だと名乗る人物が言った。
「ご近所の方から高木さんが叫んでいると通報がありました。何かありましたか?大丈夫ですか?」
ぐわっ!!
恥ずかしい!叫べば警察来る件を立証してしまった!
「きゃー!すみません!今出ます!」
ヨレヨレのパジャマのままお巡りさんの前に出る事になるとは…
カチャリ…
少しだけドアを開けて顔を覗かせる。
女性のお巡りさんがにこにこと話しかけてくれる。
「ご近所の方が心配されてましたよ?大丈夫ですか?あ、ちゃんとドア開けてもらえると嬉しいです」
覚悟を決めてドアを開ける。
「大声で「お巡りさん」とか色々叫んでいたそうですね?何かありました?良かったらもう一人の方もこちらに呼んで頂きたいのですが」
「は?もう一人?」誰の事?
「はい。たぶん…男性の方…でしょうか?あ、着替えが必要であれば服を着て来てくださいね」
「え?服…?誰?」
そこまで言うと背後に控えていた男性のお巡りさんが、痺れを切らしたように口を挟んできた。
「パートナーがいるでしょう?隠すと後々大変ですよ。ファンペンさん?外国の方?お二人から話しを聞きたいんです」
「ファンペン?えっと…私一人だけです…ファンペンって誰です………あ"…」
「「「あ"?」」」
「あ〜…あ〜…は…ファンペンさん、ファンペンさん寝てます。今連れてきます」
急いで部屋に入り、窓際で寝ているファンペンさんをそっと抱く。
「重っ!」
玄関までファンペンさんを抱いて行く。
寝ていたところを起こされて、ファンペンさんはえらく不機嫌であった。
「ファンペンさんです」
。。。
その後、緊縛強盗対策として発声練習をした事、気分が乗ってきたのでつい大声になってしまった事を説明し、ついでにファンペンさんの可愛さを伝える。
「わかりました。確かに大声は強盗に襲われた時は有効かもしれませんね。でも大声で練習しすぎると、本当に強盗が来た時に「また発声練習か」と思われるかもしれませんよ。練習はご近所に迷惑をかけない程度でお願いします」
「はい。わかりました。すみませんでした」
ぺこぺこと頭を下げる。
パタリと玄関が閉められた。
「ふ〜〜。まさか本当にお巡りさんが来るとは…」
発声練習も侮れない。
でも。
「パトカーが来るような家には強盗は来ない気がする…」
お巡りさんと仲良くなった事で、謎の安心感をゲットした。
緊縛強盗、怖いですよね。
年末年始、泥棒もやる気を出す時期です。
戸締り、大声、安全確認を怠らないようにしましょう。
お読み下さりありがとうございました。