エピローグ 都鳥
「————レイゼル隊長! 三番隊! 全員無事本日の任務終了しました!」
ロードサージェント本部でレイゼルは前髪を揺らしながらその金眼を緩ませる。
「そう。良くやったね。それじゃ明日は久々に休暇といこうか」
部下は敬礼をビシッと決めて去るが、その足取りは部屋に入って来るより軽かった。
レイゼルはエルフウイルスの特効薬の精製法を導きだし、尚かつネルドゼスト教のアジトを壊滅に追いやった功績が讃えられ三番隊隊長へと昇進した。
「もう……半年か」
窓の外に視線を投げる。遥か彼方に二羽の鳥を見つけた。そしてフッと笑うとまた書類に目を通し始めた。
「————ガードンさん! これ発注かけてないっすよねー!」
「あ! しまった! おいジェス! 大至急発注頼む! そして取りに行ってきてくれ!」
「そ、そんな! 無茶苦茶なー!」
ジェスが肩を落とすとエマが楽しそうに手を叩いて笑った。ガードンは一時、捕まったものの、レイゼルの計らいによって直ぐに解放されて店に戻る事が出来た。ユナから渡された薬のメモに走り書きでガードンと言う男が捕まっているはずだが、それは誤認逮捕なので直ぐに釈放してやって欲しいと追記されていたからだ。
ジェスが肩を落としながら店を出て行く様をガードンは笑って見送ると、ふと窓の外に目を投げる。
二羽の鳥が楽しそうにローグタウンの空を駆けていくのが見えた。
ガードンはその二羽の鳥が視界から逃げていくのを見送ると、何かを思い出したようにガハハと笑いだして、エマの頭を撫でた。
「————ちょっとイレイン! 何でこんな訳の分からない変な花なのよ! あんたこういう時の作法も知らないの?」
「うるせーなーもー。だったらユナが行けば良かっただろー」
「私は掃除とか色々やってたのよ! あんたやり方わかんの? ちゃんと出来んの?」
「わかったわかった。また後で買って来るよ。ほら、取り敢えず手を合わせようぜ」
ユナがイレインの言葉にグッと口を噤むと、二人は何も言わないまま互いに体を前方に向き直してしゃがんだ。
二人が同時に手を合わせて目を瞑ると幾ばくかの静寂が訪れる。
……しばらくするとイレインは先に瞼を開ける。ふと、見上げた空に二羽の鳥を見つけた。
「……ん? 何かいたの?」
程なくして目を開けたユナはイレインの視線の先を同じように見上げた。
「いや、別に」
イレインはフッと微笑んで立ち上がった。さっきまでいた鳥はもうどこかへ行ってしまっていた。
ユナも立ち上がり、イレインと顔を見合わせる。そよ風が覆面から覗く前髪を揺らした。
二人の足下には綺麗な金色の花が添えられていた。
真新しい墓石には整った文字体で〈アリサ・エンバール〉と刻まれていた。
ユナはもう一度墓石に視線を落とし、浅く息を吐いて覆面の下、ほんの僅かに微笑んだ。
「ま、いっか。さ。そしたらちゃんとした花を買いに行きましょ」
「はーいよ」
踵を返すユナの後をイレインはついて行く。
二人の旅はまだ終わらない。