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デートとは美味しいものだった

「はぁ……美味しかったなぁ……」


トリスタンとの初デートを終えた夜。

ベッドに入ったアネットは恍惚とした表情を浮かべて今日の余韻に浸っていた。


「とっても美味しくて素敵なお店だったわ……」


トリスタンが連れて行ってくれたレストランは王宮近くにあるこぢんまりとした古いレストランだった。


老舗という分類に入る店だが、低価格で美味しくて質の良い料理を提供するのが評判の店らしい。

低価格とはいっても貧乏人にしてみればそれなりのお値段はしていると思うのだが。

(トリスタンが支払ってくれたので料金がわからない)


そしてその“低価格”で……という謳い文句が貴族のプライドに障るのか客層は平民のやや裕福な層が多いらしい。


レストランの店主はトリスタンの母方の遠縁に当たる人だそうで、何も気にせず好きなだけ食べたいものを食べればいいとトリスタンに言われた。


「……ジリス次長からお前は気取らない気さくな店の方が好むと聞いたからな。べ、べつにジリス次長を頼りにしたわけじゃないぞっ……ただ、ジリス次長の方がキミのことをよく知っているから意見を参考にしただけだっ」


などとトリスタンは店のチョイスの言い訳めいた事を必死になって言っていたが、服装で気後れせずにいられる(全くではないが)店を選んでくれて、アネットにしてみれば感謝しかない。


それに、店の年配ウェイターやウェイトレスたちに“トリスタン坊ちゃん”と呼ばれる度にトリスタンが「もう坊ちゃんと呼ぶなっ」と返していたのが面白くて、アネットは久しぶりの外食にも緊張しないでいられた。


かといって初めて訪れるレストランで何を注文すればよいのかわからず困ってしまう。

するとトリスタンがさり気なく「俺がいつも頼んでいるコースと同じものでいいか?」と言ってくれたので渡りに船とそれでお願いすることにした。


それからトリスタンがそのコース料理を注文すると、ウェイターが「いつもの坊ちゃんコースオーダー入りました」と厨房に向かって言っているのを聞いたトリスタンが「そのオーダーの伝え方はヤメロ」とムキになっていたのがツボにハマってしまった 。


ころころと笑うアネットを見たトリスタンが、不貞腐れながらもその後の店の者たちの坊ちゃん呼びを許していたのが不思議だったけど。


そうして運ばれてきた“いつもの坊ちゃんコース”は、

前菜にローストビーフのサラダ。

店主がじっくり煮込んで作った琥珀色のコンソメスープ。

ポワソン…と見せかけて魚料理ではなく驚くほど柔らかなトマトソースの牛のトリッパ。

からの~オレンジのソルベ。

そしてヴィアンド(メインディッシュ)はシャトーブリアンのステーキだった!

(どうやらトリスタンは大の牛肉好きらしい)


───シャ…シャシャシャシャシャトーブリアンっ……!?


その時のアネットの心の中がどういう状況になったかは、想像に容易い事と思う。


希少部位であるシャトーブリアンなど来世で食べられるかどうかも定かではないほどアネットにとって縁遠きもの。

それを口にする日が来ようとは。

パティスリーの菓子といシャトーブリアンといい、今日は東方の国風に例えるのであれば“ボンとショーガツがいっぺんにやって来た”というヤツである。

そのくらいアネットにとっては今日は天変地異の連続であった。


そしてシャトーブリアンのその美味しさたるや!


その後のデザートのショコラフランボワーズムースの濃厚かつ爽やかな酸味と甘みと香りの記憶が残らないほどであったのだ。

(しっかりと覚えている)


そしてトリスタンが、「カトラリー捌きが美しいな。テーブルマナーは完璧じゃないか」と、初めて褒めてくれたのがこれまた本当に美味し…じゃない、嬉しかった。


レストランの店主もスタッフもみんなが優しくて親切で、アネットは本当に、本当に幸せな時間を過ごしたのであった。


帰りは当然、トリスタンがアパートまで送ってくれた。


アパートを見たトリスタンの口が一瞬パカンと開きかけたが、アネットが今日の礼を告げると「何度も礼を言わなくていい。……また誘う。戸締りはきちんとしろよ」と言って、彼は帰って行った。


そうしてアネットとトリスタンが婚約者同士となって初めてのデートは美味しく、そして幸せに終えた。


アネットはベッドの中でうっとりとつぶやく。


「デートって……美味しいものなのね……。ふふ、しあわせ……」


アネットは今日という日を絶対に忘れないでおこうとそう心に誓い、眠りについた。









終始アネットの食レポで終わったデートだったような。

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