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ガーデンパーティーにて ②

「やぁ!来たねアネット。と、ハイド」


「ジリス次長、俺はオマケですか」


「まあね」


「ふふふ」


ガーデンパーティーの会場にて、ライブラ・ジリスがアネットに声を掛けに来てくれた。

よく知った顔に会えてアネットはホッとする。

ライブラの隣には優しげな笑みを浮かべる、人柄も恰幅も良い旦那様が立っていた。


「ジリス子爵ご夫妻様、ごきげんよう」


ご夫婦で出席されているので、魔法省でのライブラの肩書きではなく子爵夫妻として挨拶をするとライブラは嬉しそうに微笑んだ。


「ごきげんようアネット。と、ハイド。やぁ本当に綺麗だよアネット!ドレスがとても良く似合っている。この庭園に妖精が舞い降りたのかと思ったよ……!」


「まぁ……ふふふ、ありがとうございます」


女性の扱いに長けた男性も顔負けであろうライブラの賛辞に、アネットは思わず頬を赤らめてはにかむ。

それを見たトリスタンはライブラにジト目を向けた。


「……よくそんな歯の浮くようなセリフが言えますね」


「キミが言えない事を代わりに言ってやってるんだよ。どうせ褒め言葉の一つも、この愛らしいアネットに言ってやれてないのだろう?」


「なっ……言いましたよっ、き、」


「き?」


「キレイ、だよ……と……」


口篭りながらもトリスタンがそう言うとライブラは大いに破顔した。


「言えたのか!いや、アネットの美しさに自然と口から出たか?キミも成長したなぁ!あはは!」


「……」


若干口惜しそうにしつつも泰然としているトリスタンだが、彼の耳が真っ赤に染まっているのを見てアネットはとても微笑ましく感じた。


「ふふ。トリスタン様、ありがとうございます」


「………べつに……」


アネットの笑みを見て、トリスタンは毒気が抜かれたように醸し出す雰囲気が柔らかくなった。


その時、一人の若い女性がいきなりアネットとトリスタンの間にすっ…と横入りして来る。


女性はアネットに背を向けて目の前に立ち、トリスタンに近い距離で向き合った。

そして華やかな笑みを浮かべてトリスタンに言う。


「お久しぶりですハイド様。以前、ご一緒にお仕事をさせていただいた以来ですね。その節はお世話になりました。あの時から、ハイド様の魔法関連の博識の高さには感服しておりましたのよ。是非あちらで二人だけで魔法のお話を聞かせていただきたいわ」


女性の口振りから魔法省の職員か関連機関に勤める者だろう。

しかしあからさまにアネットを無視してトリスタンを誘うとは、かなり自身の魅力に自信のある女性なのだろう。


思わぬ横入りに驚いて目を瞬かせるアネットに、ライブラがこっそりと言う。


「今まで女性を毛嫌いして寄せ付けなかったトリスタン・ハイドがアネットを連れているのを見て、これは自分もイケるとでも思ったんだろうね。アネットに向ける柔らかな表情にも勘違いをしたのだろうね。それにしても自信過剰だなぁ」


「まぁ……」


しかし自信過剰になるのも頷けるほど綺麗な女性だ。

トリスタンと共に仕事が出来るほどだ、きっと全てにおいて優秀な女性なのだろう。


トリスタンはどう答えるのか。

つっけんどんだが優しいトリスタンの事だ、女性の誘いを断らないかもしれない。

それに魔法関連の話ならきっとトリスタン自身も興味があるはず。

二人が話をするなら、アネットはその間どこかに移って待っていた方がいいのだろうか。


アネットがそう思った時、


「……誰だ貴様は?」


というトリスタンが放った冷淡な言葉が聞こえてきた。


「え……?なんとおっしゃったの?」


女性はその冷たい声が自分に向けられたとは思っていないようで、トリスタンに訊き返した。

トリスタンは声だけでなく温度を感じさせない冷たい視線を女性に向ける。


「俺は貴様なんぞ知らん」


「知らんって……えっ、だ、だって以前仕事で……」


「そうか。仕事で絡んだ事があったのか。しかし俺の記憶に掠りもしないという事は余程大した事ない、低レベルな仕事だったんだろうな」


「なっ……!」


───まぁ……!


トリスタンの辛辣なもの言いに女性だけでなくアネットも目を丸くする。

それに反してライブラは「ぶはっ!」吹き出した。

そしてアネットに耳打ちする。


「やはりトリスタン・ハイドはトリスタン・ハイドだな。相手が女だろうと気に入らない奴には容赦がない」


「あらあら……」


アネットも見合いの初っ端にあけすけな本音をズバッと突きつけられたが、こんなにも冷たい感じではなかった。

そしてそれ以降のトリスタンはぶっきらぼうでも常に優しく穏やかだったのだ。

だから今の彼の態度は只々目を瞠るばかりである。



「しかし貴様はなぜ我がもの顔でそこに立っている?俺の婚約者を押しのけて何様のつもりだ?魔法の話?なぜ俺が貴様なんぞに語って聞かせてやらねばならんのだ。魔法の話が聞きたいのであればまた一から学校に通えばいい。そうすれば少しは無能を返上できるかもしれんぞ」


「なっ、なっ、なっ……」


「邪魔だ、退け。化粧臭くて敵わん。鼻がもげるわ」


「ひ、酷いわっ……そんな事言う人だなんて思わなかった……!」


「なら知れて良かったな。知識はいくらあっても無駄にはならん。脳が正しく機能していればの話だがな。……邪魔だ、いい加減にそこを退け」


「なっ、なによなによっ!誰よトリスタン・ハイドに付け入る隙が出来たなんて言った奴!相変わらずのブリザード男じゃないっ!酷い恥をかかされたわ!」


途端にムキになって喚き立てる女性を見て、トリスタンは呼気だけで身が凍るような嘆息をし、女性を無視してアネットに告げる。


「とんだ邪魔が入ったな、おいでアネット。向こうにあのパティスリーの菓子が並んでいると聞いた。今日は魔法大臣の金で食べ放題だ」


「え、よ、良いのですか?」


アネットがちらりと女性の方を見ると、彼女は忌々しそうにアネットを睨みつけ……ようとしたが、隣に立つライブラに気付き舌打ちをして立ち去って行った。


「挨拶もなしに舌打ちとは……あの顔、しかと覚えたぞ」


とライブラが女性の背中を見ながらつぶやく。

トリスタンはそれら全てに興味がないようでアネットに言った。


「良いも悪いも魔法大臣の金だ。遠慮せずに好きなだけ食べればいい」


アネットの“良いのか”はそういう意味ではなかったのだが、まぁもう既に女性は立ち去ったのだし良いとしよう。

そう考えてアネットは気持ちを入れ替えてトリスタンの元へと寄った。


「では遠慮なく。楽しみですわ」


「ではジリス次長、我々は移動しますので失礼します」


トリスタンがそう言うと、ライブラは頷いた。


「ああ。アネット、楽しんでおいで」


「はい。ジリス様もよい時間をお過ごしください」


そう言葉を交わし、アネットとトリスタンはライブラ夫妻と別れた。


そうしてその後はトリスタンが他の職員と顔を合わせ挨拶をしたり、トリスタンお勧めのホテルの軽食に舌鼓を打ったり庭園を散策したりと、アネットはとても楽しく有意義にパーティーを楽しんだ。



「疲れたんじゃないか?」


トリスタンがアネットに訊ねると、


「そうですね、少しだけ……」


そう答えたアネットにトリスタンは頷いた。


「テラスに休憩用の椅子が並べられていた。そこで少し座って休憩しよう」


トリスタンがアネットを促すように背中に手を添えて歩き出す。

だけどその時、ふいに身なりの良いホテルの従業員がトリスタンに声を掛けてきた。

何事かとアネットから少し離れたトリスタンに従業員はそっと耳打ちして、彼に何かを告げる。


「……オスライト卿が?」


トリスタンはそう小声で答えて何やら従業員と言葉を交わしている。


そしてやがてアネットの元に戻ったトリスタンがこう告げた。


「すまないがキミを休憩スペースへと案内したら少しだけ席を外す。……構わないか?」


「え、ええもちろんですわ。ベンチにゆっくりと座ってお戻りをお待ちしております」


「変な男に声を掛けられても絶対に相手にするなよ?」


「大丈夫ですよ。私になどわざわざ声を掛けずとも、この会場には華やかで綺麗な女性が沢山()られますもの」


「……無自覚なのも如何なものかと思うな」


「え?」


「とにかく、美味い菓子をやるからと言われても絶対について行ってはならんぞ」


「まぁ、子供じゃないのですから」


「子供じゃないから心配してるんだ。とにかく休憩スペースには女性スタッフも沢山居るから、絶対にその場を離れないように」


そうしてトリスタンはアネットを休憩スペースへ連れて行き、

「すぐに戻るから」と告げて足早にどこかへ向かって行った。


アネットはその背中をぼんやりと見送る。



トリスタンは“オスライト卿”と口にした。


オスライト伯爵。

法務部の部長でトリスタンの直属の上官。


そして先日立ち聞きした、トリスタンの新たな縁談の相手かもしれないご令嬢の父親だ。


トリスタンはそのオスライト卿に呼ばれたに違いない。


一体、何のために。


アネットはベンチに座りながら彼が戻ってくるのを待つより他なかった。






でもトイレには行きたくなるよね。

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