ガーデンパーティーにて ①
ガーデンパーティー当日。
朝早くからトリスタンが手配してくれた美容院のスタッフが様々な道具を持参してアネットのアパートを訪れた。
事前に言われていたように美容スタッフが来る前にシャワーを済ませておく。
そして訪れたスタッフが高価そうな香油で全身をマッサージしてくれた。
「色白でキメが細かくて、絹のようなお肌ですね。きっと会場中の誰よりもお美しくていらっしゃるわ。自信を持って今日に臨まれてください」
とスタッフが褒めてくれる。
初めてのパーティー出席に緊張しているアネットの、体だけでなく心も解してくれる優秀な美容スタッフだ。
そして、「お嬢様、項を出していきましょう、項を!トリスタン坊ちゃんがしゃぶりつきたくなるようなこの美しい項を武器にして攻めていきましょう!あ、あぁ…でもホルターネックのドレスでしたね。坊ちゃんめぇ……誰にも見せるつもりが無いと見た……ぬぬぬ」
ここでも坊ちゃん呼び。
そして項がどうとか摩訶不思議な発言をしていたけど、それでも魔術でも用いたかのような素晴らしいメイクテクニックとヘアアレンジでアネットを別人へと変身させてくれた。
ピンクベージュのドレスに合わせたオレンジ系のメイクに、編み込みを駆使してふんわりと結い上げたアップスタイル。
そして仕上げは……
「ま!坊ちゃんったらスケベ!」
何がスケベなのか解らないが、淡く美しいアメジストのイヤリングとブレスレットをスタッフが着けてくれた。
このアクセサリーもトリスタンがドレスとセットで贈ってくれたものだ。
「キレイですね……トリスタン様の瞳の色みたい……」
アネットが自身の手首を彩るブレスレットを見ながらそうつぶやくと、スタッフが「ね?ホントにスケベなんだから」と言って頷いた。
そして「奥様に報告、報告ぅ♡」と言いながら帰って行ったのだった。
それと入れ替わるようにトリスタンがアネットを迎えにアパートまでやって来る。
「おはようございますトリスタン様。わざわざお迎えに来ていただいて恐縮ですわ。……トリスタン様?」
玄関のチャイムが鳴りアネットがドアを開けて出迎えると、トリスタンは目を見開いて固まってしまった。
呆然と立ち尽くすトリスタンに不安になったアネットが言う。
「あの……そんなに変ですか?似合って…ませんか?言葉も失うくらい……」
アネットのその言葉にようやく我に返ったトリスタンが慌てて口を開く。
「こ、言葉を失うというか、言葉にならないほど驚いてしまっただけだっ……その……とてもよく似合ってる。き、」
「き?」
「キレイだ、と思う……」
「あ……あり、がとう……ゴザイマス……」
トリスタンの照れがアネットにも移ったのか、二人で互いに顔を真っ赤に染め上げてモジモジとしてしまう。
「ゴホン、では行くか」
トリスタンはそう言ってアネットに腕を差し出した。
その腕にそっと手を添えてアネットは答える。
「はい。今日はよろしくお願いします」
そうしてアネットはトリスタンが手配した馬車で共にパーティー会場となる王都の一流ホテルへと向かった。
ホテルに着き、係りの者に庭園に案内される。
そこが今日のガーデンパーティーの会場だそうだ。
庭園は既に沢山の招待客で賑わっていた。
アネットは会場や招待客を見て、トリスタンに言う。
「とても華やかなパーティーですね。お庭もとてもキレイだし、皆さん美しく着飾って、まぶしくてまるで別世界に居るようですわ」
生まれて初めてパーティーなるものに出席するアネットはさらに緊張して気後れしてしまう。
「そうか?パーティーなんてこんなものだろう」
華やかな場に慣れているトリスタンが何でもない事のように言う。
「それはトリスタン様は慣れていらっしゃるから……でも私は何か粗相をしないか心配です」
「キミは気遣いが出来るし周りの状況や人の心の機微にも敏感だ。粗相だなんてそんな事態には陥らないと思うぞ?それに……」
「それに?」
言葉の途中で口篭るトリスタンにアネットは続きを促す。
トリスタンはまた小さく咳払いをしてから、ぶっきらぼうなもの言いで口早に告げた。
「ゴホン、た、たとえ何かあったとしても俺がついてる。キミのことは俺が守る……よ」
「トリスタン様……」
「ま、まぁ俺の同伴者なのだからなっ!それが務めというものだっ!」
珍しくデレツンだったトリスタン。
アネットにとっては何よりも頼もしく、そして嬉しい言葉だった。
アネットははにかみながら礼を言う。
「ありがとうございます、トリスタン様」
「う、うむっ。な、何か飲み物を取りに行こうっ」
明らかに照れ隠しでそう言ったトリスタンに連れられて、アネットは会場に足を踏み入れた。