罪の果実を食らいあう仲
「悪かったね、待たせたかな」
「いえ。私も丁度来たところなので」
「じゃあ行こうか」
差し出された手を一瞬躊躇い、重ねた。
銀座のアップルパイを食べたいと申し出たのは私の方からだった。
今までは優雅に私の手を握り締める男の希望した場所に赴いていた。
しかし行く場所、招かれる場所、目が飛び出るような料金だったり、一生訪れる予定などなかった世界に連れていかれたり。驚くことさえ最近は疲れてきてしまった。
私がそれなりの場所を指定すればいいのではないか。提案した結果、銀座集合となった。
「君が望むなんて珍しいから。たまには君に合わせるのも悪くない」
男の言葉に傷口から滴る血で足元すくわれ、堕ちるところまで転がりそうになる。
アップルパイを食べたいと口にした時。男はすぐに自分の知る限りの高級店に連絡を取ろうとしたのだ。もちろん制した。不服そうな表情はしていたが。
「あの子と違って慎ましいね」
そっと撫でられた首筋にちかちかと目が眩んだ。いつだって間違えてしまいそうになる、昏い心にぐっと下唇を噛む。
「お店はすぐ近くのビル中です」
「ふぅん。調べてみたけどいろんな味があるね。最早アップルパイじゃないのもあったな。スイートポテトアップルパイってどっちの味なんだろう。小倉チーズなんて和洋のぶつかり合いだしね」
「国によっては下生地がなかったり、ロールケーキのように巻かれていたりするんですから」
「それはパイかな?」
でも俺らにぴったりじゃない。
男が残酷に微笑む。
「罪の果実で作られたお菓子なんて」
引っ張られるように視界が黒ずむ。
時折忘れてしまいそうになる事実を突きつけられる。
この男と何故茶番を演じているか染み渡るようにはっきりと思い出させてくれる。
私は親友の身も心も恋愛で食い潰し、殺した男と逢瀬をしている。
復讐のために近づいた私を、この男は愉快に受け入れて偽りの愛で堕とそうとしている。
迂闊にも私は陳腐な罠に掛かりかけていた。