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うるさくてウザくて疲れる生徒

『うるさくてウザくて疲れるトモダチは何を想ったか』を見てからのほうが、読みやすいです。

 俺は数年間同じ高校で、教壇に立っていた。今年入学したある一人の生徒に、俺は担任としてかなり気になった。

 彼は、『有寿輝(ゆずき)』や『有寿(ゆず)』といつも一緒に奈月輝(なつき)くんにそう呼ばれていた。

 有寿輝は殻に閉じこもるようにして自分を守っていている。

 そこから出る時は、奈月輝くんとしおりさんが彼を挟むようにいるのが条件のようだった。

 奈月輝としおりは、彼とは付き合いが長くて隣がとても居心地そうにしてるのが印象に残る。

 そしてクラスでも美男美女と人気があり、彼との橋渡し役になっていた。

 

 入学した月に、有寿輝たちが俺に声をかけてくれた。教室に俺たち以外には誰もいなかった。

 

「先生、今いいですか? 」 

 

 奈月輝がそう言ってる後ろで、また挟まれるようにして有寿輝としおりといった順に並んでいた。

 

「あぁ、大丈夫だよ」  

 

「すみません、有寿輝から話しがあるみたいです」

 

「ほら、有寿くん」  

 

 彼らに(うなが)されるように、有寿輝は一歩踏み出した。

 

「先生」 

 

「うん」 

 

「僕、迷惑をかけると思う」 

 

 正直、これを聞いたときは驚いた。でも、それを隠して話しをした。

 

「どうして、そう思うの? 」 

 

「それは……」 

 

 有寿輝は、俯いてしばらく何も言わなかった。

 

「ゆっくりでいいから、教えてくれるか? 」 

 

 有寿輝は、うなづいた。

 

「僕、もう高校生で男なのに、馬鹿な理由で泣いてしまうから」 

 

「教えてくれてありがとう。また、ゆっくりでいいから。先生の質問に答えて欲しいけど、大丈夫? 」 

 

 有寿輝は、またうなづいた。

 

「一つ目の質問。何で高校生で男だから泣いて駄目だと思うの? 」 

 

 有寿輝は、不思議そうに俺を見た。もしかしたら、誰かに言われたのかもしれない。

 

「もう、小学生みたいに小さくない」 

 

「そうだね。今は、大人に近いね」 

 

「男は泣いたら駄目って、昔からいうから」 

 

「そうだね。昔からそう聞くな〜」 

 

 有寿輝は、ポツポツと短く質問に答えてくれた。それに習って、俺も出来るだけ短くてゆっくりと話した。

 

「二つ目の質問、馬鹿な理由で泣いてしまうの? 」 

 

 有寿輝は後ろにいる二人をチラッと見て、それに彼らはうなづいた。

 

「僕、出来ないや分からないがあったら、辛くなるんだ」 

 

「辛くなったら、泣いてしまうの? 」 

 

「半分正解」 

 

「良かった、半分正解なんだ」 

 

 有寿輝は、うなづいた。

 

「残りの半分を教えて欲しい」 

 

「呼吸がしにくくなって、しんどくなって涙が止まらなくなる」 

 

「それは、しんどいね」 

 

「うん」 

 

 有寿輝たちの中学からも入学前に、色々と聞いていた。その時の担任も分からないなりに心配していからだ。

 

「それって、変でしょ」 

 

「何で? 」 

 

「ミンナ、そうならない」 

 

「人そ……」 

 

()()()()()って、言葉嫌い! 」 

 

 有寿輝は、急に大声を出した。急いで、有寿輝を落ち着けようと奈月輝としおりが駆け寄った。

 

「有寿輝、俺たちを見て」 

 

 有寿輝は俯いたまま、頭を掻きむしっていた。

 

「有寿くん、大丈夫ね? 」 

 

 有寿輝は手を頭から離して、辛そうな声を出した。

 

「奈月くん。有寿くんの飲み物とタオルをカバンから出して」

 

「おう」 

 

 しおりは有寿輝を優しく抱きしめながら背中をさすり、奈月輝に指示をしている。有寿輝は彼女の腕にしがみつき、その手には力が入っていた。

 彼女に従って、奈月輝は言われたものを出して渡していた。

 二人は何も出来ない俺をおいて、テキパキと動いている。

 有寿輝は、もらったアイテムで一生懸命に落ち着こうとしている。

 

「先生、有寿輝を保健室に連れていきます」 

 

 奈月輝に介抱されながら、有寿輝は教室を出ていった。

 

「先生。有寿くんが突然すみません。たぶん、入学して緊張とか疲れとか過去とかで、一気にしんどくなったみたいです」 

 

 俺が中学から聞いてたよりも、なんと言っていいのかすごくて驚いた。

 

「嫌なことを聞くと思うけど。大丈夫? 」 

 

「はい」 

 

 一人、教室に残ったしおりはまっすぐに俺を見つめた。

 

「さっき、彼が言ってたのって本当なんだね? 」

 

「はい」  

 

「二人は、慣れてるの? 」 

 

「慣れてないです」 

 

「えっ? 」 

 

「だんだんと、しがみつく力も強くなって痛いです。何で有寿くんが辛くなってしまうか、その度に手探りで対応してます」 

 

 身体が大きくなると、どうしたって男女の力の差が出てきてしまう。

しおりに、しがみつかれた腕を見せてもらうと赤くなっていた。

 しおりの顔は、苦しみと悔しさでいっぱいだった。

 

「私や奈月くん以上に、辛いのは有寿くんです。さっき、有寿くんが言っていたじゃないですか」

 

「教えてくれていたね」  

 

「私と奈月くんだけでも、有寿くんの味方で落ち着ける居場所になろうと反省しながら、今までそうやって生きてきました」 

 

「教えてくれてありがとう。まだ信用出来ないかもしれないけど、先生はみんなの味方だ。そして、有寿輝くんの味方になりたい」 

 

 お互いが視線を外すことなく、まっすぐと真剣に見つめ合った。

 

「先生、お願いします」 


「はい」  

 

「有寿くんだけが、特別扱いのように扱わないでください」 

 

 俺は、その言葉になんて返せばいいのか分からなかった。どれがそれに当たるのか、基準が難しいからだ。

 

「有寿くんが、過ごしやすくする助けは、他人から見たら特別扱いになるんです。あの子はしてもらえるのに自分はしてもらえないって、イジメる人がたくさんいました。()()()()()で出来る能力が違うけど、この子はミンナより出来なくて()()()()()だからしょうがないと、周りの大人たちが有寿くんに言っていました」 

 

 俺はハッとして、彼があんなに取り乱していた理由に気がついた。その過去が有寿輝を今でも苦しめているんだ。

 

「有寿くんは特別扱いしてもらおうとして、演じてるわけじゃない。本当に出来なくて辛くて、呼吸がしにくくなって泣いてしまうんです」 

 

「特別扱いの基準は、本当に難しいね」 

 

「はい」 

 

「がんばって、教えてくれてありがとう」 

 

 しおりは、俺の目をまっすぐ見て話しても手は震えていた。

 

「私は、いいんです。有寿くんが今度こそ楽しく学校に通えたら、嬉しいんです。それは、きっと奈月くんもそう思っているはずです」 

 

「先生も、みんなが楽しくこの学校で過ごしてくれると嬉しい」 

 

 しおりはホッとして笑ってから、荷物を持って教室を出ていった。

 

 俺はまだ何も会ったばかりの有寿輝や奈月輝としおりが抱えてきたもの知らない。身体は大人になってきたとしても、子供であるには変わらない。

 付き合いが長い彼らの方が、俺にとって有寿輝を支える先輩だ。

 だから、俺は二人を何度も呼んで、何が良いのか悪いのか相談をした。本人が嫌がることは何があってもしてはいけないから。

 有寿輝が嫌う()()()()()をしなければ、彼はここにいることが難しいと思った。

 

 あの日から数日後に、有寿輝に教えてもらった。

 

「先生、あの時はごめん」 

 

「いいよ。先生が傷つけること言った思うから。先生の方こそ、悪かった」 

 

 有寿輝は、コクっとうなづいた。

 

「昔からアレ言われ続けて、なんか壁を感じるんだ。お前は何をやってもできない人間だって。言葉の暴力を振るわれているみたいで……」 

 

 有寿輝は、あの五文字を言いたくなかったのか言葉を濁していた。


「そう感じるんだね。教えてくれてありがとう」 

 

「先生って、すごいね」  

 

 突然有寿輝が、俺を褒めたから驚いた。

 

「何が? 」 

 

「先生がありがとうって、言うところ」 

 

「そう?教師と生徒だからって、関係ないよ。当たり前だよ」 

 

「やっぱり、先生すごい」 

 

「先生は、素直に相手がしてくれたことを感謝しているんだ。だから、ありがとうって言うんだよ」 

 

「ありがとうって、なかなか言わないよ」 

 

 この時の有寿輝の雲がかった顔が気になった。

 

「中学の時は、先生に言われなかった? 」 

 

「心からのありがとうじゃなくて、形式的なありがとうはあるよ」

 

 有寿輝は、同じ『ありがとう』でも違う意味があるのを知っている。そして、生徒に心からのありがとうを言えるのがすごいと言っていた。

 

「自分や大切な人のことを言うのって、すごく勇気のいることだよ」 

 

「そうかな」 

 

「そうだよ。何かあったら、先生に教えて欲しい。奈月輝くんやしおりさんを通してでも大丈夫だから、有寿輝くんの気持ちを知りたいんだ」 

 

「そこまでしなくて、いいよ。僕のためなんかに。僕には、価値なんてないよ」 

 

 有寿輝は視線を下に向けて、低い声で冷たく言った。

 

「先生は、みんなの味方だ。そのみんなに有寿輝くんがいるんだ。これだけは、覚えていなさい。人の価値は、たとえ自分でもないって決めつけたらいけない」 

 

「ふーん」 

 

「今、分からなくてもいいから覚えておいて欲しい。もし有寿輝くんに価値がないとしよう」 

 

「いや、ないもん」 

 

「例えばの話だから、最後まで聞いて」 

 

 有寿輝は、どこか面倒くさそうにしている。

 

「有寿輝くんに価値がにないとしたら、どうしていつも支えてくれる奈月輝くんやしおりさんがいるんだ? 」 


「えっ? 」 

 

「価値がないなら、いいやって誰も側にいたがらないだろ」 

 

「確かに、そう」 

 

 有寿輝は、なるほどと頷いた。

 

「有寿輝くんのことが、大好きで大切だから側にいるんじゃないのかな? 」 

 

「だからって、価値があるなんて言えないよ」 

 

「その基準って、曖昧で難しいんだ。先生は、人を価値で決めて欲しく無い。その人が自らいなくなろうとするのは、とても悲しいんだ」 

 

「先生、経験あるの? 」 

 

「あるよ」 

 

 俺の頭に、ある子が浮かんだ。

 

「聞いてもいい? 」 

 

「少しだけならな」 

 

「うん」 

 

 俺は、姪の自殺未遂のことをかいつまんで話した。変に影響されないように、考えながら伝えた。

 

「その子、良かったね」 

 

「えっ? 」 

 

「だって、辛くて大変でも、場所(そこ)から離れて生きていけるのがいいな」 

 

 この時の有寿輝が何を言っているのか、分からなかった。

 いや、フラグのようで怖くて分かりたくなかった。

 

「先生、ありがとう」 

 

「ん? 」 

 

「先生も、勇気いったんでしょ」 

 

「そうだよ」 

 

 有寿輝は、俺がさっき話したことを覚えていた。これから少しでも、俺たちの想いが有寿輝に届いて欲しいと心からそう思った。

 

 俺は三人から聞いた話をまとめて上司に相談し、会議でも他の教師に伝えた。

 理科系の教師たちとは元々仲がよかったから、その教室を使わない時に有寿輝が利用しても良いことになった。

 

 有寿輝は、入学して間もない頃から、本人が言うような状況が何度も起こった。 

 その時は、午前授業だったからなんとかなったが、午後の授業が始まってからはてんてんと休むようにもなってしまった。

 学校側も中学に上がったばかりで環境の変化に体調も悪くなる生徒は、毎年いるから長い目で見ようと認識をしていた。

 俺は、奈月輝やしおりに彼のことで連携をとったり、家に電話をしたりして居場所をつくろうと必死にした。

 それも、から回ることもあったが、有寿輝は手をこちらにのばした。

 

「やっぱり、助けて」 

 

「おう! 」 

 

 俺は、奈月輝としおりにその時々の彼にはどんな声かけや対応をしたらいいのかを話し合った。 

 それを元にまた上司に報告し、出来る限りのことはして良いが報連相はするのが条件になった。

 それを有寿輝に話して、彼からの意見を聞いては修正をした。

 俺は、理科系の教室以外にも居場所を作ろうと考えた。保健室はいてもいい時間に制限があるからだ。


 そして、ひと目を気にするだろうから屋上の鍵を渡した。教師も偶に気晴らしに行くため、安全管理は出来るという建前で許可をもらった。

 

 学業にはいつもグループ活動があった。出来るだけ奈月輝やしおりが一緒か交互に出来るようにした。いや、これも必然かもしれない。

 クラスでは、この三人は異質な扱いを受けていた。奈月輝としおりはクラスとの人間関係を器用にこなしているが、一方では有寿輝の係と言われていた。


 有寿輝はクラスの中のお荷物で、みんなは遠目に彼を見る。一緒にいるのも面倒で、グループの中で外れものとして扱いになる。

 そこに奈月輝やしおりがいれば、彼らに間に入ってもらい意思の疎通が出来る。

 

 クラスで、彼らは様々なことを言われている。


「高校になって、こんなことで泣くの? 」 

 

「アイツ、何に言ってるのかわからん」   

 

「あの二人、かわいそう」   

 

「あの二人、良いのに。アイツに足を引っ張られてる」 

 

「アイツ、変だ」 

 

「あの二人に、任せればいいよ」 

 

「アイツ、なんか障害持ってるんじゃない」 

 

「アイツとよくいれるよな〜」 

 

 三人は、今まで数えきれないほど言われたのだろうか。

 他人(ひと)は、平気で人を苦しめることをいう。それは、自分に言われないと分からないのだろう。

 いや、それで分かったとしても、自分の行いがどこに悪かったか分からないのだ。

 

 俺は、授業の二コマをもらってクラスで、ある話をした。それは俺が高校生の時についてだ。

 

「先生が、みんなより年が少し上の時の話をしようと思う。今の君たちが、どれほど()()()()()なことをしてるか分かるとの思う」 

 

 俺の言い方が悪いとは思うが、今はこれぐらいは言ってこちらに意識を向けさせる。

 

「先生と同じクラスに、色白で小柄な女子がいた。彼女の成績は、それほど良くも悪くもない。高校生活の最後は、いつも(ひと)りだった。でも、友だちは数人いたよ」

 

 彼女は数人の友だちとクラスで楽しく話していた。しかし、気がついた時には独りだった。

 

「先生と彼女は、委員会が同じで時々話をしていた。彼女はおとなしいところもあるけど、良い感情になるとよく明るく笑う子だった」 

 

 生徒の表情を見ながら、俺はその当時の自分の席と彼女の席を見ていた。

 

「ある日を境に彼女が数人の友だちと話していたのを見ることが減って、明らかに様子が変だった。先生は、彼女に声をかけた」 

 

 その当時、もうこのクラスもあと数ヶ月すれば、学年が変わり新しいクラスに変更される時に差し掛かっていた。

  

「彼女は、少し悩んだあと『何も無いよ』と笑った。それが彼女と最期の会話だった」 

 

 言葉の意味に気づいた生徒たちは、驚いた表情を見せた。

 

「彼女は、その日の学校からの帰り道に交通事故に巻き込まれて亡くなった」 

 

 生徒たちは黙っていたが、空気はざわついていた。

 

「先生は、知らせを聞いて彼女の葬儀に出た。そこで、ある噂を耳にしたんだ」 

 

 俺は、一度目を閉じて深呼吸してから口を開いた。

 

「彼女は、クラスでいじめられてそれを苦に自殺をした」 

 

「カバンの中に、遺書のようなものがあった」 

 

 数人の生徒は、小さく驚き、空気はさらにざわついていた。

 

「その当時も、交通事故と聞いていたのに自殺の可能性があると耳にして驚いたよ。同じクラスで身近な環境でいじめが起きると思わなかった。いや、先生は気がついていたのに、気がついてないふりをしていたと思う」

 

 様子がおかしいに気が付きながらも、一度声をかけて本人が大丈夫と言ってたら勝手に安心して別れてしまった。

 

「その後は、学校全体でのいじめやその他の問題がないかのアンケートが行われた。内容は詳しくは分からないけど、彼女のいじめについてのもあった」

 

 俺は、それについて生徒たちに話した。

 クラスのリーダー格が、彼女が気に食わないを理由に仲間外れをしようと言ったのがきっかけだ。

 彼女の友だちに、ありもしない嘘やあなたもいじめられるよと吹込み、彼女を孤立にした。

 彼女の家は貧乏で、きょうだいが六人もいた。いじめは少しずつエスカレートをしていった。

 

「それをリーダー格は彼女が()()()()()だから一緒にいる必要無いよ。私たちとは分かり合えない。そんなよくわからない理由を、彼女は独りで背負っていたのを知って先生は落ち込んだよ」

 

 生徒の中には、涙を流すものもいた。

 

「先生、この話をする前になんて言ったか、覚えてるか」 

 

 俺は黒板に大きくチョークで五文字をデカデカと書いた。

 

「かわいそう」 

 

 生徒の方に向き直して、また口を開いた。

 

「何が、()()()()()だと思うか?まずはこの話を聞いて思ったことを今から配るこの白い紙に好きなだけ書いてみて。時間は短いと思うけど、十分(じゅっぷん)だ」 

 

 俺は紙を配り、一番最後に受け取った生徒を確認してからアラームをスタートさせた。

 

  

 アラームがなって全員分を回収した。ちょうど、一コマ目の終了のチャイムがなった。休み時間に紙の内容を読んだ。

 

「休み時間で、みんなの意見を読んだ。正直に書いてくれてありがとう」 

 

 そしてまた、俺は深呼吸した。

 

「名前は出さないが、いくつかの意見に別れていた。黒板に書くよ」 

 

 一、彼女の境遇がかわいそう。

 

 二、彼女の友だちが巻き込まれてかわいそう。

 

 三、彼女が自殺をしてかわいそう。

 

 四、彼女の家族や先生がかわいそう。

 

 五、彼女をいじめたリーダー格もかわいそう。

 

 六、彼女はかわいそうだが、自分たちの何がかわいそうなのかがわからない。

 

 七、彼女がもし自殺なら、事故を起こした人が巻き込まれてかわいそう。

 

 

「他にもあったが、大体はこんな感じだ。かわいそうって五文字だけど。たくさんのことに対して向けられる。その時、自分ならどう受け止めれると思うか考えよう」 

 

 俺は、また当時の自分と彼女の席を見た。彼女の席には花が供えられていた。

 この時の俺は、黒板に書いた一から七の中でどれを思っていたのだろう。

 

「まずは、六を除いた彼女や周りに対するかわいそうについて話そう」 

 

 発表が出来る生徒には、それぞれについて話してもらった。

 

「一番で、彼女が貧乏できょうだいが多くて、大変だと思った。自分もきょうだいが多いから、親が大変そうなのをみているから」 

 

「そうだね。彼女もきょうだいが多くて大変そうだった。だけど、家族の話をするたび楽しそうでもあったから、君も含めてかわいそうではないと先生は思うよ」 

 

「三番で、彼女がもし自殺なら、学生でまだまだ人生があったのにって思います」 

 

「そうだね。彼女が本当にそうだったのかも分からない。もしそうなら、先生も同じことを思ってたと思う」 

 

 彼女は、無責任なドライバーの運転による交通事故で亡くなった。

 しかし、事故直前に彼女は周りの人が声をかけても立ち止まったままや彼女がそこにわざと飛び出したと言われていて本当のところ自殺なのかも分からない。


 死因は交通事故によるものとして、正式な書類に書かれていた。彼女のカバンの中には、仲間外れにされてつらいことや学年があがっても変わらなかったらどうしようかと不安が書かれているノートがあったらしい。

 そこに、なんで自分がいじめられるか分からないと疑問もあり、リーダー格の名前やその日に何をされたのか細かく書いていたらしい。

 それも加えて、学校でいじめの調査をしたと後に聞いた。

 

 俺は、生徒といくつものかわいそうについてやり取りをした。

 

「五の彼女をいじめたリーダー格もかわいそうって、どういうことが応えれる人いる? 」 

 

 奈月輝がまっすぐ手をあげ、こちらを見つめた。俺はそれに応えるかのようにあてた。

 

「リーダー格は、ヒトが自分たちとは違うからって、気に食わないを理由や考えを持っているのがかわいそうだと思います。そして、独りで嫌うのでなくて彼女の周りの人を巻き込んで、自分には仲間がいると思い込んでいることも、何もわからない子供のようでかわいそうだと思う」 

 

「ありがとう」 

 

 奈月輝を含め、様々なかわいそうという意見がでた。

 

「先生自身、この話をしてみんなに正解のある言動して欲しいなんて、そんなムチャは言わない。何を感じ取るのかは、一人ひとり違う」 

 

 シーンとした教室で、小さく音が聞こえた。そっちに視線を向けると、自分を抑えようとする一人の男子生徒がいた。

 

「だって、この世界中の人間は誰も何もかも同じでないだろ。全く同じ人間から生まれてないし、育ち違う。身体の構造も違う」 

 

 たとえ、一人の母親から何人も同じ日に生まれても一卵性でも全く同じでない。人や考えが違うからこそ、世界は人を殺す。

 

「話が少しズレたかもしれないが、誰かを(おと)める行為をするよりも、何かを思うこともあっても。お互い様で助け合える人になれば本当に平和って言えるんじゃないかなと先生は思うんだ」 

 

 立場がある人間関係なく、相手の言動が嫌だからと貶める行為をする時点で大人でも子供だ。

 大人よりも理解(わか)る子供もいるが、何も分からずに自分のためだけに相手に平気で加害をする人のことを指す。


 

 この日から、クラスの雰囲気(ふんいき)が少しずつ良くなった。三人をはれものとして扱わないように、手探りをしていた。

 

「先生、ありがとう」 

 

 放課後、三人との話し合いになったときに唐突に有寿輝がそう言った。

 

「有寿輝、主語を言おう」 

 

 奈月輝は、慣れたように注意をした。

 

「ミンナに、話してくれたおかげでちょっと楽になったから」 

 

「先生は、それが聞けて嬉しいよ。教えてくれてありがとう」 

 

 有寿輝は、「えっ? 」って顔をしながらも嬉しそうに笑った。

 

「ちょっとずつで、いいから楽になろうな」 

 

「うん」 

 

 有寿輝の様子に、ずっと隣で見守ったしおりと奈月輝はホッとしていた。

 

「先生、辛かった? 」

 

「ん? 」 

 

「彼女って、付き合ってないけど。す……うぐっ!? 」 

 

「有寿くん、ストップ!! 」 

 

 しおりがすごい勢いで話しを遮り、奈月輝がとっさに有寿輝の口を塞いだ。

 

「ふっ……」 

 

 俺はその様子に思わず笑うと、三人は不思議そうに笑った。

 

「すまん。有寿輝くんは、直球だっと思ってな。それに、二人の慌てようが……少しツボるよ」

 

 二人はホッとして、奈月輝は有寿輝の口を解放した。

 

「そうだね。好きだったんだと思うよ。だから、辛かった」 

 

 生徒の前だし、本名はプライバシーにも関わるから彼女と言ったが、カレカノの意味でも言いたかった。

 

「彼女は、本当に事故に巻き込まれたと思うんだ。詳しく言えないけど、現場の状況的にそう思う。でも、彼女はいじめにあっていて、辛くても頑張って生きていた」 

 

 大丈夫と言った彼女の目は、死んでいなかったと思う。

 

「自殺説があったから、学校側も調査をしたんだ。そして、いじめの主犯格が「かわいそう」を理由に彼女を貶めた。だから、先生はそれが許せない」

 

「うん。僕も許せない」    

 

「有寿輝くんのためにも話したけど。それだけじゃなくてね」 

 

「うん」 

 

「自分と彼女のためにも話した」 

 

 当時の自分が報われたかったのか、彼女のような人をただ知ってほしかったのかは、はっきりとは選べない。

 

()()()()()や言動が嫌だからとか他のことを理由にして相手を貶める行為は、間違ってると思う。だから、話したんだ」 

 

 一人ひとり違うから、様々な想いがある。だからといって、人を貶めるような大人になって欲しくなかった。

 

「貶めずに、手と手をとって助け合える人になれたらいいと思うんだ」 

 

「ちょっとしか、分からないけど。僕もそう思う」

 

「ちょっとでも、分かってくれたら先生の想いが届いた証拠。だから、先生は嬉しいぞ」  

 

 有寿輝は、笑った。


 有寿輝たちとは、学年があがっても受け持つ生徒になった。一年の頃と同じメンバーもいるが、当然、新しいメンバーもいた。


 環境が変わり、有寿輝の体調が悪くもあった。それをまた、影で言う生徒もいてクラスは悪い方向にザワついていた。

 


 俺は、姪の自殺未遂のことをクラスの話をした。もう、身近な人がそうなって欲しくなかったから。

 このザワつきは、他の生徒にも悪影響を及ぼす恐れもあった。

 だから、()()としてでなく()として想いをぶつけた。

 

「みんなは、変だとか泣き虫だとか言って。今まで影でコソコソ言ったり、あからさまな態度をとったりしてないか?自分がそれをされても傷をつかないのかもしれない。だけどな、傷をつくる人間はごまんといる」 

 

 一瞬、有寿輝と目があった気がする。

 

「だからな、先生はみんなが仲良くて、笑って喧嘩して仲直りをする人になって欲しい。今のうちに、まだ子供のうちにいじめという犯罪をせず、人に歩み寄れる人間になれ」

 

 俺は、真剣に一人の人間として話した。


「特別扱いだと言うな。それは、頑張っても苦手で出来ないことが多い人間を差別してるんだ。そういうやつは、自分がその立場にならないと分からない。そうなる前に、本当の意味で分かる人間になれば、良い大人になれる力を身につけたら幸せだ」 

 

 この話し合いをしたあとに、有寿輝からまた俺に歩み寄ろうとしてくれた。

 自分なり、考えながら彼のペースで想いをぶつける姿が嬉しかった。

 俺はそれに真剣に向きあった。有寿輝を少しでも楽だと思えるようになって欲しかったからだ。

 

 少しずつクラスも、いい方向に向いてきた。有寿輝は戸惑いながらも、奈月輝としおりと前に進んでいった。

 

 俺は有寿輝との話し合いを大切にしていた。彼が抱える想いを少しでも一緒に背負って軽くしたかったからだ。

 彼が悩むことに、正解があるかどうか分からない。

 それでも、幼い子供のような危うさを持つ有寿輝が、未来に進んで欲しかった。

 

 有寿輝が笑ってくれるだけで、俺は嬉しかったんだ。

今回の主役の有寿輝たちのクラスの担任の名前はないです。学校生活は、先生って呼ぶことが多いからないままにしてます。

久しぶりの投稿ですが、読んでいただきありがとうございます!

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