僕は母を介して父を知る。転生?出来るならしたかった。
「あの女に似てやがる、お前は俺を愛せ。絶対にだ。愛せないなら死ね。」
やっと一人で歯を磨けるようになった頃だろうか、そんな僕に、眼球を強くむき出しにして言葉を強く植え付ける。
意味が理解できないのが心地良いよいのか、好きな男子が時折みせるギャップに打ちひしがれる乙女のように、豹変する父の姿がっこいいと感じた。
しかし、お笑い芸人である父が狂ってると感じるのに、それほど時間をようすることはなかった。僕の出産で母つまり父の妻を失って以来、家には、たくさんの人が訪れていた。
男の人、女の人。男の人は大体大声をあげて、父がどこかばつの悪そうな顔をするので嫌いだった。女の人がくると父は自分が芸人であることを思い出したかの様に、振舞うので好きだった。
小学生の時だろうか、同級生の話に違和感を感じることがあった。クリスマスというものがあるらしい。年に一回、神様にお願いするとプレゼントをもらえるのだとか。
それについて父に問いてみると、
「サンタさんなんかおらん!」
「サイテーw」
手を叩いて笑う女と堂々としてる父に、父は僕の父である前に、女の男であるのだと感じた。同時に父と女の笑い声が聞こえてくるたびに誇りに思った。
「お父さんは、凄いんだ。お父さんといると、人が笑顔になる。だから僕も笑顔でいないと。お父さんはすごいお笑い芸人なんだ。」
父親であるという理由だけで、父を父であると思えるのは、皮肉にもカルトに惹かれ狂う血筋なのだろうか。
笑う門には福来る、ありがたい言葉だった。お父さんを信じる勇気が湧いてくる。どっかの神父さんみたいに素数でも数えて落ち着くんだ。
僕がこんなにも強くあれた理由として、誰の気まぐれで置かれていたのか、200色ある白の中でも特に穢れを知らないようなで白で塗り固められた本棚にそれはあった。
他の部屋の家具と比べると、比較的小綺麗に並べられた漫画やアニメの円盤だった。
父と女の声が子守歌となる生活が数年続いたある日、特に気にされることがなかった年齢について、父のお気に入りであろう料理のうまい女に聞かれた。
「10歳」
僕には、父と女が僕を見ている気がして動揺を覚えた。いや鑑られているのか。
「脱げ、定期健診だ。」
僕はこの定期健診がそこまで嫌いじゃなかった。何かのアニメで異世界転生した主人公が裸体を晒し、父親に教育されるアニメがあった。何故だろうかと思うこともあったが嫌悪感を覚える程のことでもなかった。
しかし、今までの検診とは一風変わった儀式ともいえる行いが始まった。
僕が震えるのをみて、奇怪な笑みを浮かべて、体をゆらゆらさせながら女が近づいてきた。父に視られながら僕は小さくなった。女の体温を口元に感じた。今まで意識して、見る事のなかったアニメや漫画のキスシーンが鮮明に頭を過った。
白雪姫がキスを期に目を覚ますのとは裏腹に、僕は深く眠りにつきたいと思った。そんなことをきにする素振りもなく女は、僕に覆いかぶさり、僕を男にした。
その日、僕が女に抱かれた日、僕は女を介して父を知ることになる。それも、父の記憶を夢で垣間見るという、とてつもなく気色わるい形で。