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接待

作者: 雉白書屋

「いやいや、実に楽しい時間を過ごさせていただきました。今日はどうもありがとう」


「こちらこそです。どうぞお気をつけてお帰りください。みなさまにもどうぞよろしく」


「ええ、良い報告を期待してください。ではまた」


 大使を乗せた宇宙船を見送った俺は、ふぅと溜息をついた。

 ポプロン星人は実に気がいい奴だが、どうにもあれはいただけないな。

食事の席を思い出すと、また溜息が出た。


 ポプロン星人は人間とそっくりの体型であるが

口の部分に肛門があり、肛門の部分に口があるのだ。

 どういう進化をすればそうなるのか。ま、それは向こうからしても同じことだろう。

どちらも自分が正しいと思っているのだ。

 ただ、それがこの星間による友好交流の障壁となってはならない。

愛想よく接待。相手に気分良く星へ帰ってもらわなくてはならないのだ。

それがこの俺、外交官の仕事。

 テーブルに向かい合って座り、雑談交え、運ばれてきた料理を何食わぬ顔で食す。

無論、ポプロン星人の口は肛門にあるわけだから

奴らは尻を少し浮かせ、手で食事をそこまで運ぶ。

 こうして思い返してみると、奴らは食事を見られることが恥ずかしいのかもしれない。

逆もまたしかり。こっちが普通に食すのを見て、目を逸らしていた気がする。

そんな恥じらいがあるくせに

顔についている肛門からは容赦なく排泄物を垂れ流すのはわけがわからないが

もしかしたら、それが奴らにとっての誉れなのかもしれない。

『見てくれ! こんなにたくさん出たぞ!』とか。

ふざけた種族だ。まあ、今回が初交流なので推測でしかないが。

まあ、それも交流が続けばいずれ明らかになっていくことだろう。

 

 ……そう、ガゴギグ星人のようにな。

奴らはゴツい見た目の上やたらとあれこれ指をさす。

 高圧的な連中だなと、思いながら俺がジェスチャーを交え、不慣れな相手の言語で

いちいち説明してやっていると連中、指をさしたままなにやらオロオロし始めた。

 そのうち指先から液体が垂れ始めたと思えば、ぴゅるるるーと放水。

いや、放尿。奴らの紺色の肌の顔に赤みが差し、それで理解した。

奴らはどこになら放尿していいか探していたのだ。おまけに頻度も多いようだ。

 対面早々にあの手と握手を交わしたことを思い出し

吐き気が込み上げたが、我ながらよく堪えたものだ。


 他にもココイノ星人の挨拶は全力の奇声だし

ヌパ星人の挨拶は互いの尻を叩き合う。これも全力。

クルガル星人は互いの肛門を舐めまわし、ヴァンクル星人は会話にゲップを用いる。

あの時は地味に大変だった。炭酸水をその都度摂取しなければならなかったからな。

ピンクル星人は帯電性。シビれる握手をしてくれる。

 極端な暑さ、また寒さを好む星人に単純に見た目が不快なものも。

ジャクロン星人というクソ食い宇宙人を相手すると聞いたときは

職員が次々と退職したが俺は残った。

初対面だろうと、どんな要望だろうとその全員を満足させ、見送ってきた。

これぞプロフェッショナルというやつだ。


 さてと、明日のお客様はっと……ドドンドド星人、今回で三度目か。

この星が気に入ってくれたらしい。

 送られて来た要望は……今回は他の地球人とも話がしてみたいと。

うーん、しかしなあ。

 ドドンドド星人はとんでもない悪臭の持ち主かつ、それを誇りにしているのだ。

顔をしかめたり鼻をつまむ、ましてやゲロを吐くなんて以ての外。

基本、寛容的だが、それは奴らにとって最大限の侮辱。戦争にさえなりかねない。

それは絶対に避けたいところ。やたら強いとの評判だからな。

最初の挨拶も全力の殴り合いだ。

 俺ならその挨拶もあの悪臭にも耐えられるが他の奴は……。


 しかしどうやら、奴ら宇宙人の間で俺のような者が

一般的な地球人だと浸透しているらしい。

 宇宙人たちのあらゆる要望に応えるために

また、治療のために体を改造したサイボーグ人間だというのに。

 まあ、それはそれで人類が進むべき進化の道なのかもしれない。

今度、上手いこと言って上司や他の職員にも改造手術を受けてもらおう。

 夜空に浮かぶ、年々増していく地球に飛来する宇宙船を見て、俺はそう思った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 星新一先生か、『5分後に意外な結末』で読んだのか忘れてしまいましたが、以前、肛門と口が逆転した宇宙人という設定を拝見した覚えがあります。同一作者の方でしたら申し訳ないのですが、たまたま…
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