成長
アトリの特訓を初めて、今日で三日目となる。オレ達は街道から少し外れ、森の中で戦闘を行っていた。
相手の魔物はオーク。猪を人間に進化させた様な姿で、手には棍棒を所持している。体も大型レスラー並みで、対峙するとかなりの威圧感であった。
ちなみに、今はオークの棍棒を、オレがヒョイヒョイと回避している。こちらはLv30で相手はLv5。ステータス差が圧倒的で、まるで当たる気配が無かった。
そして、背後のアトリは準備が整ったらしい。彼女は習得済みの魔法を発動させる。
「アーススパイク!」
――ドシュッ……!!!
大地より伸びる石の槍が、オークの腹を貫いた。これで合計三回目のダメージとなる。オークのHPは消滅し、グラリとその場に崩れ落ちた。
オークの体は黒い霧となって消滅する。オレは魔石を拾い上げると、アトリの元へと届けに行く。
「お師匠様! 私、オークを倒せました!」
「流石はアトリ。魔法が得意みたいだね?」
興奮した様子のアトリに、オレは魔石を手渡した。すると、アトリははにかんで、嬉しそうに魔石をポケットに入れた。
そんな娘を隣で見つめながら、ヘイパスさんが呆れた表情を浮かべている。肩を竦めると、オレに対して声を掛けて来た。
「アキラ様が凄いのか、アトリが凄いのか……。オークの相手なんて、俺でも厳しいってのによ……」
「ははは、そこは素直にアトリの才能を喜びましょう」
ヘイパスさんはLv10なので、レベル的にはオークより強い。しかし、彼は戦闘系スキルを持たないので、格下のオークでも勝てるかは怪しかった。
むしろ、装備やスキルが無ければ、人間は魔物よりも弱い。仮にレベルが同じでも、ステータス的には劣ってしまうからだ。
それでもアトリが倒せてしまうのは、習得した魔法とスキルが優秀だからである。戦闘系スキルを持つという事は、それだけ戦闘で大きなアドバンテージとなるのだ。
まあ、防御スキルを持っていないので、接近戦になれば確実に負けるけどね。オレが壁役をするのが前提だが、それを言うのは野暮という奴である。
「……お? レベルが上がってるな」
オレはアトリの頭上を見て、Lv4になっている事に気付く。そして、メニュー画面を開いて、アトリのステータスを確認した。
ちなみに、堂々と操作をしているが、マナガン親子は既に気にしなくなっていた。オレが空に指切る姿は、二人の中では特殊な魔法と認識させたお陰である。
オレは表示されたステータスに目を通す。そして、アトリのステータスが、推測通りの伸びであると気付く。
「やはり、伸びが魔法寄りになっている……」
本来のアトリは『戦士』になるはずで、物理方面に偏ったステータスに育つはずなのだ。Lv1からLv2に上がった際も、本来の伸びを見せていた。
しかし、Lv2からLv3に上がった際に、想定と異なる伸び方をしたのである。HP/攻撃/防御の伸びが控えめで、MP/魔力/魔法抵抗が多めに伸びたのだ。
その原因がスキルの取り方なのか、魔法主体の戦いをしているかは不明だ。もしかしたら、『導師の弟子』という職業も関係しているのかもしれない。
ただ、この伸び方が続くなら、アトリの最終的な戦い方が大きく変わる。ハンマーメインで魔法がサブウェポンでは無く、魔法がメインでハンマーがサブウェポンとなる。
そうなると、取得スキルも再検討が必要である。四勇者の能力を考えると、アトリが魔法主体になっても困る事は無いんだけどね。
「……おっと、スキルも取っておくか」
オレはスキル取得画面を開き、アトリのスキル取得を行う事にした。当初の予定では『大地の心得』をMAXのLv5まで伸ばす予定だったが、今の伸びなら『アーススパイク』と平行育成が良いだろう。
何故なら、『アーススパイク』はレベルを上げると、消費MPも上がってしまう。本来はMPの少ないアトリでは、ガス欠になると考えていたからだ。
しかし、今のアトリはMPが魔術師並みに伸びている。これならLv3程度まで上げても、十分にMPが足りると判断した。
効率を考えても、『アーススパイク』のレベルを上げるべきだ。時間効率は当然として、より強い魔物にも対応出来る様になるだろうからね。
オレがスキルポイントを振り終わると、アトリが傍までやって来た。そして、オレを見上げて不思議そうに呟いた。
「何故だか魔法の使い方も、上手く使うコツも、急にわかる様になりました。これって、お師匠様が何かしてるんですか?」
「……うん、まあね」
アトリの問いに、オレは言い難そうに返す。下手に誤魔化すべきではないが、オレはどう説明すべきか決めかねていたのだ。
ちなみに、これまでも会話の中で、二人から世界の常識を聞き出して来た。この世界にもレベルやスキルの概念はあるらしかった。
レベルは大よその能力の目安と考えられ、特定のアイテムで測定が出来るそうだ。しかし、レベルが上がると、スキルポイントが手に入るという認識は無かった。
スキルは訓練によって習得されるものであり、簡単に取得出来る物ではないそうだ。ゲームではLv5が最大である。しかし、この世界ではLv3が最高であり、達人級と考えられていた。
その為、アトリは非常に尖った、中級魔術師として扱われる事になる。目安であるレベルは低いのに、『アーススパイク』だけに拘る変人と見られてしまう。
それについては申し訳無いが、今だけと思って我慢して貰おう。優先度の高いスキルを取ったら、他にもスキルは増やして行くつもりだからね。
オレが一人で考え込んでいると、アトリは何か気を遣ってくれたらしい。パッと笑みを浮かべて、オレの手を引いて来た。
「お師匠様は凄いですね! それでは、次もお願いします!」
「ああ、そうだね。それじゃあ、他の魔物も探してみようか」
オレはマップに目をやり、近くの一番近い敵アイコンを探す。少し森の奥に進むが、この付近にも魔物がチラホラ居るみたいだった。
目指す方向をアトリに示し、オレ達は並んで森に分け入る。アトリはオレの手を握って来たが、それを振り払うのは躊躇われた。まあ、良いかと思って何も言わない事にした。
そして、背後に視線を送ると、ヘイパスさんが穏やかな笑みを向けてくれた。嬉しそうにアトリを見つめながら、無言でオレ達の背中を見守っていた。
<[導師の弟子]アトリ(Lv2 ⇒ Lv4)>
HP:30 (+9) ⇒ 50 (+17)
MP:10 (+3) ⇒ 30 (+10)
攻撃:6 (+2) ⇒ 10 (+4)
防御:6 (+2) ⇒ 10 (+4)
魔力:4 (+1) ⇒ 10 (+4)
魔法抵抗:4 (+1) ⇒ 10 (+4)
速さ:2 (+1) ⇒ 4 (+1)
器用さ:6 (+2) ⇒ 12 (+4)
<取得スキル>
☆大地の加護(固有スキル)[土属性の効果/全ステータスに25%の補正]
・アーススパイクLv2 [土属性:魔力×(50+SLv×50)%のダメージ]
・大地の心得Lv2 [土属性の効果にSLv×20%の補正]