獣ダンジョン(地下1階)
すみません、やはり仕事が忙しく、時間が取れそうにないです。
しばらくの間、更新が止まりますがご了承下さい!
リューク王子とリコリスを率い、獣ダンジョンの地下一階を散策する。出てくる魔物は初級ばかりで、ウサギや狼の様な獣系である。
獣系の魔物は素早さの高い者が多い。その代わり、特殊な魔法やスキルを使う事がない。初見殺しの様な攻撃も無いため、初心者のレベル上げにはもってこいである。
更には、毛皮や爪、角、尻尾等の部位をドロップする。これは魔力の塊であり、錬金素材として重宝されるものばかりである。つまり、金銭的にも美味しいという事である。
とはいえ、地下一階は初級冒険者が沢山探索している。素材も多く流通しているので、そこまでの高値で売れる訳ではない。本当に稼ぎたいならLv11以上になって、地下三階の魔物を狩る必要がある。
そして、今回のガーランド王国訪問の目的は、彼女達全員のLv15を目指す事だ。金銭面はどうでも良く、アトリやアル、リコリスのレベルを、そこまで鍛える事である。
「とはいえ、少々時間が必要かな……?」
ウサギ型の魔物と戦うリューク王子に視線を向ける。苦戦こそしていないが、一対一で良い勝負という状況である。
そして、護衛の騎士達はリューク王子を囲み、魔物の不意打ちに備えている。一対一で負ける事は無いだろうが、数が増えると不利になる。その時は彼らの出番という訳だ。
なお、彼のステータスを見たが、はっきり言えばアルの劣化版と言える。剣と水魔法を使うのだが、『火の加護』を持たない分、全面的にアルより能力が劣っているのだ。
勿論、アルはチートスキル持ち。彼と比べるのは可哀そうだとわかっている。それでも、能力で劣っている分だけ、それが成長速度にも影響するのも事実である。
「そして、あちらは、と……」
リコリスに視線を向けると、彼女はリューク王子を見守っていた。ハラハラした表情で、婚約者の勝利を祈っているみたいだった。
そして、その背後ではメイドさんが後片付けをしている。リコリスが倒した魔物の、ドロップ品を回収しているのである。
リコリスはLv7の水魔法の使い手で、この階層の魔物は一撃で仕留めてしまう。『ウォーターハンマー』という魔法で、圧殺してしまうのである。
凄腕暗殺者のメイドさんが居るので、不意打ちを受ける事もない。魔物が現れても、遠距離からの一撃で仕留めるのでダメージもない。
リコリスにとって地下一階はピクニックも同然。彼女にとっては修行になっていない。王家との約束さえ無ければ、アトリ達と一緒に行かせたのにな……。
「……っと、リューク王子が勝ったか」
無傷とはいかなかったが、当然ながらリューク王子が勝った。良い装備を身に着けているし、負ける要素の無い相手だったしね。
そして、剣を鞘に戻し、呼吸を整えるリュート王子。そんな彼の元に、リコリスが駆け寄っていく。
「リュート殿下、お怪我をされていますよ! どうぞ、これを使って下さい!」
リコリスが差し出したのは、小さな小瓶であった。それは初級ポーションと呼ばれる物で、小さな傷程度ならすぐに治してしまうアイテムである。
だが、リューク王子はその受け取りを拒否した。険しい表情を浮かべ、リコリスに対して冷たく告げた。
「この程度で騒ぐな。わざわざ、ポーションを使うまでもない」
「す、すみません……。でも、沢山用意してありますので……」
リューク王子の言う通りである。大した負傷ではないので、このまま継続戦闘でも問題はないだろう。
ただ、婚約者を心配する、リコリスの気持ちもわかる。ポーションを使うのは勿体ないが、怪我したままでは彼女も気になってしまうだろう。
ならば、ここはオレの出番だろう。両者が納得する、一番効率的な手段である。
「――ヒール」
「「あ……」」
リューク王子の傷が瞬時に癒える。オレのヒールはHPを半分まで回復可能。その上、消費魔力も少なく、この程度なら『瞑想』でも行えば瞬時に回復できる。
リューク王子はバツの悪そうな顔でオレに向き直る。そして、すっと頭を下げて来た。
「申し訳ありません。私が未熟なばかりに……」
「誰もが初めは未熟です。気にする事ではありません」
頭を上げたリューク王子は、嬉しそうな笑みを浮かべた。こうして見ると、やはり彼は素直なんだよな。オレへの敬意があるらしく、とても丁寧な態度で接してくれる。
噂で聞く程に悪い青年とは思えない。父親のガーランド王も、リコリスの父であるフローレンスさんも、どうして彼を悪く言うのだろうか?
恐らく、オレには見せていない一面があるのだろう。それが何かはわからないが、この修行の間は素直なままで居て欲しい。平穏無事に修行を終わらせたいからね。
「――ん……?」
ふと、刺さる様な視線に気付く。視線の主はメイドさんである。だが、こちらの視線に気付くと、またいつもの無表情に戻ってしまった。
……うーん。彼女も良くわからないんだよな。時々、険しい表情となる時がある。だが、それも一瞬のことなので、彼女の考えが読めないのである。
最悪、『鑑定Lv3』を使う手もある。ただ、プライバシー侵害になるので、不要に乱用したくはない。これは不味いと思ったら、その時に改めて使わせて貰う事にしよう。
「まあ、問題は無いんだ。ゆっくり、気長にやるとするか……」
目的のLv15まで、どの程度の時間が必要だろう? 一週間だろうか? それとも、一カ月だろうか?
魔王復活までは、まだ二年もある。時間は有限だが、そこまで差し迫った状況でもない。今は焦らず、安全確実に事を進めるべきだろう。
オレは自分にそう言い聞かせ、リューク王子達と共に再びダンジョンを進み始めた。