ダンジョン都市
すみません。
仕事が忙しくて、先週分がスキップしてしまいました。
今の所、作品は終了予定ではありませんので!
ガーランド王国にはいくつかのダンジョンが存在する。帯びている魔力量に応じ、魔物の強さも、階層の深さも様々である。
その中でも、特に注目を集めているのが『獣ダンジョン』。魔獣系列の魔物が多く、その素材が有用であるため、冒険者の集まる街まで出来てしまっている。
そして、人が集まり、お金も集まるその都市は、王家直轄の領地となっている。そんなダンジョン都市ベットに今日のオレ達は集まっていた。
「導師様、今日からしばらくお世話になります」
「はい、共に頑張りましょう。リューク殿下」
オレに対して良い笑顔を見せているリューク王子。白銀の鎧を身に纏い、腰にも剣を刺している。
そのいずれも、鑑定でミスリル製と判明している。流石に王子の装備だけあって、良い品を準備したみたいだ。
そして、オレは王子の隣に視線を移す。そこにはリコリスが並んでおり、ぐっとこぶしを握って、オレに力強い視線を向けてきた。
「導師様、宜しくお願いします。リューク殿下の婚約者として恥じぬ様に、私も頑張らせて頂きますわ」
「ははは、まずは肩の力を抜いて下さい。初日は様子見のつもりですから」
気合が入っている様だが、彼女も当面は頑張る必要が無いだろう。ダンジョンの地下一階は敵も弱く、彼女からしたら物足りないくらいに感じるはずだ。
なにせ、全3階層で成り立つダンジョン。地下一階の適正はLv1~5で、地下二階はLv6~10。地下三階はLv11~15となっている。
リコリスは既にLv7なので、適正レベルは地下二階。しかし、リューク王子がLv3なので、当面は歩調を合わせる必要があるのだ。
この辺りは、ガーランド王家と交わした約束である。リコリスを優先せず、リューク王子と同等に扱う事ってね。
リコリスにとっては足枷となるが仕方がない。それに、リューク王子を鍛えておけば、二年後に死ぬことも無くなるだろう。きっと、それはマイナスに働く事は無いと思うのだ。
「さて、それでは準備は良いですか?」
「ええ、勿論です。いつでも行けます」
「はい! 頑張りましょうね、殿下!」
……ん? 気のせいかな?
良い笑顔で返事をしたリューク王子。それに応じて、声を掛けたリコリス。だが、リューク王子が視線を逸らした気がしたのだ。
……うーん。婚約者のリコリスからの呼び掛けに、無視する様な態度を取るだろうか?
二人ともニコニコと笑みを浮かべている。オレは気のせいと思い直し、背後のメンバーへと向き直る。
「そちらも準備は大丈夫そうですか?」
「はい、お師匠様。私達も大丈夫です」
「ええ、先生。こちらいつでも行けます」
オレの背後に控えていたのは、アル、アトリ、カタリナさんの三人。弟子である二人は、気楽な口調で返事を返してくれた。
ちなみに、カタリナさんは自然体だが、全身から緊張感が溢れている。こちらは完全に護衛モードに入っているみたいだ。
オレはカタリナさんに視線を向ける。そして、二人の事を彼女に任せた。
「それでは、後の事はお願いします。別行動になりますが、カタリナさんなら問題ないでしょう」
「承知致しました、導師様。二人の事は必ず守り通してみせます」
カタリナさんはキリっとした表情で、自信に溢れる笑みを浮かべる。その態度から、こちらは大丈夫そうだなと安心する。
それというのも、今回は効率を考えてパーティーを分ける事にしたのだ。この三人だけで地下二階を目指し、可能ならば明日から地下三階へ潜って貰う予定となっている。
現在、アルはLv6、アトリはLv13、カタリナさんはLv18。アルのレベルさえ上がれば、地下三階も攻略可能なレベル帯なのである。
更にアトリは今回の攻略の為に、二つのスキルを習得した。回復魔法の『アース・ヒーリング』と妨害魔法の『グラヴィティ』である。
『アース・ヒーリング』は『ヒール』と違って即時回復を行わない。しかし、長時間に渡ってジワジワと回復し続ける効果を持つ。
『グラヴィティ』は範囲効果を持つ行動制限魔法。敵に対して使う魔法で、相手の移動速度・回避率を著しく低下させる効果を持つ。
更には、カタリナさんも二つのスキルを強化してある。本人の希望もあり、『防御』と『かばう』をLv1からLv5まで引き上げたのだ。
カタリナさんは自分が護衛だからと、攻撃よりも防御を選んだ。それにより、彼女は鉄壁のスキル構成となり、アトリの魔法とも非常に噛み合う様になった。
無理さえしなければ、二人だけでも地下三階の攻略が可能。その二人にアルを任せ、地下二階で鍛えて貰う事にしたのである。
「さて、それではお互いに頑張るとしましょう」
オレは三人に手を振り、彼女達には先にダンジョンへと向かって貰う。そして、再びリューク王子とリコリスの二人に向き直った。
緊張した様子の二人。だが、オレはその二人の背後へと視線を向ける。
「………なにか?」
「いえ、何も……」
問い掛けて来たのはメイドさんだ。アイシオン家がリコリスの世話役として、唯一同行させた女性である。
それに対して、リューク王子は五人の騎士を引き連れている。いずれもLv15とそれなりのレベルである。潜る階層を考えると、過剰と言える戦力である。
けれど、オレが何とも言えないでいるのは、この過保護な騎士達ではない。たった一人の世話役である、このメイドさんに対してなのである。
なにせ、彼女の頭上を確認すると、こう表示されているのだ。
――レイナ・ブラッド Lv25
以前に戦った、中ボスのヴォーグルと同レベルなんだけど? 更に鑑定してみたら、毒系の暗殺スキルが充実してるんだけど?
多分、このメイドさんが本気出したら、五人の騎士を全滅させられる。油断するとオレでも殺られる可能性がある。
こんな猛者がしれっと混ざってる事が驚きなのだ。それだけアイシオン家が、リコリスを大切にしていると言う事なんだろうけどさ……。
無感情な瞳で、じっと見つめるメイドさん。その視線を避ける様に、オレはそっとダンジョンに目を向けた。
「では、攻略を開始しましょう」
「「はい、頑張ります!」」
リューク王子とリコリスの声がハモる。その声を合図に、オレ達はダンジョンへと足を向け始めた。