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戦闘訓練

 翌朝にオレとヘイパスさんは、アトリに対して説明を行った。オレが二人の事情を知ること。それと同時に、彼女が力を得なければならない理由についてだ。


 最初はアトリも戸惑っていたが、すぐにオレ達の話を信じてくれた。義父であるヘイパスさんを説得出来た事が、何よりも大きかったのだと思う。


 そして、ヘイパスさんの持つ武具を調整して、アトリがそれを引き継ぐ事になった。鎖帷子にハンドアックス。少々心許ない装備だが、ひとまずはこれで何とかなるだろう。


「さて、育成方針を決めないとな……」


 オレは腕を組んで、じっと考え込む。目の前にはメニュー画面があり、アトリもパーティー一覧でステータスを確認する事が出来た。


 彼女はLv1であり、職業は『導師の弟子』となっていた。本来のアトリは『戦士』が初期職業である。しかし、何故か現時点ではそうなっていない。


 ただ幸いな事に、取得可能なスキルは同じみたいだ。これならゲーム知識に沿って、彼女の能力を伸ばして行く事が出来そうである。


「お師匠様、どうされたんですか?」


 不意に声を掛けられ、オレはこっそりメニュー画面を閉じる。振り返ると、アトリがオレを見上げていた。


 オレは何でもないと首を振り、こっそりマップアイコンを見る。そして、敵アイコンの位置を確認しながら、アトリへと微笑んで見せた。


「魔物の位置を探っていました。あちらに反応がありますね」


「魔物の位置がわかるのですか? 流石はお師匠様ですね!」


 オレが歩き出すと、アトリはその隣に並んで歩く。ニコニコと明るい表情だが、これが作り笑いだとオレは知っている。


 何せアトリは、5年間の旅で迫害を受け続けて来た。この時期の彼女は、基本的に人間を信頼していないはずなのだ。


 シナリオ上も初めは仲間に協力的だが、人間の身勝手さに反発するシーンがある。その辺りは仲間達が、共に戦う中で徐々に信頼を勝ち取って行くのだが……。


「むう……」


 背後から聞こえる唸り声。その声の主はヘイパスさんだ。チラッと視線を向けると、渋い表情でアトリの事を見つめていた。


 当然ながら、ヘイパスさんもアトリの態度に気付いている。それでも今は、黙って見守るしかないのだろう。


 アトリが心を許すには時間が掛かる。それはオレも、十分に承知していた。少しずつ信頼を勝ち取って行くしかないのである。


「さて、すぐそこです。気を引き締めて下さい」


「は、はい……。頑張ります……」


 ハンドアックスを強く握り、アトリの顔に緊張の色が浮かぶ。魔物との初バトルに、やはり不安の色が強そうであった。


 しかし、何匹かの魔物を倒せば、いくぶんかは慣れるだろう。自分に適した相手を選べば、倒すのにそこまで苦労しないと気付くはずだ。


 それに、魔物は魔石を核とした魔法生物。生命を殺すだけの邪悪な存在である。倒すのに躊躇いが不要な相手でもある。


 オレ達は街道沿いを歩き、すぐにゴブリンを発見する。身長はアトリと同じ程度だが、あちらは可愛げの無い小鬼である。見る者を不快にさせる容姿をしていた。


 オレは頭上の表示を見て、相手がLv2の雑魚だと判断する。アトリが倒すのに、程良い相手を見つける事が出来たみたいだ。


「スタン!」


「グギャ……?!」


 ゴブリンが身構える前に、オレは魔法を発動させた。その名の通り、これは相手を気絶させる魔法である。


 なお、スキルポイントは節約して、Lv1しか取得していない。Lv1では成功率は低く、本来ならば使い難い魔法である。


 しかし、この魔法は相手との魔力差が大きいと、成功率が上がるという特性を持つ。魔力抵抗力の低い相手には、十分に効果が見込めるという魔法でもあった。


 実際、ゴブリンはあっさり気絶し、その場に倒れ込んでしまっている。オレはアトリに笑顔を向け、彼女の背中をそっと押した。


「さあ、魔法が効いてる内に、思いっきりやるんだ」


「――は、はい! アトリ、行きます!」


 アトリは慌てた様子で駆けだして行く。そして、ハンドアックスを両手で握り、力一杯に振り下ろした。



 ――グシャッ……!!!



 倒れたゴブリンの頭を割り、相手のHPが半分以上消滅した。しかし、即死には至らなかったらしい。その手足は未だピクピクと動いている。


「そのまま、止めだ!」


「わ、わかりました!」


 オレの叫びに合わせ、アトリは再び斧を振る。ゴブリンの頭が完全に砕け、オレはHPが全て消失した事を確認した。


 そして、ゴブリンは黒い霧となり、ふわりと霧散してしまう。その場には魔石と呼ばれる、黒色の小石だけが残されていた。


「はあ……。はあ……」


「よくやったね、アトリ」


 オレは魔石を拾い上げ、アトリに向かって声を掛ける。見ればその体は、微かに震えている。


 恐怖を抑えて、本当に良くやったと思う。大変だったとは思うが、これで彼女は先へと進める。


 オレは手にした魔石をアトリに差し出す。そして、彼女へと説明を行う。


「魔物とは、魔石に闇の力が宿った存在。放置すれば人を襲う、危険な存在なんだ。だから、見かけたら倒さないといけない。放置すれば、他の人が襲われるかもしれないからね」


「は、はい……。わかりました……」


 オレの言葉に、アトリはゆっくりと頷く。魔物を倒す意味は、これで伝える事が出来ただろう。


 生き物ではないので、罪悪感を抱く必要は無い。躊躇えば逆に、こちらの命が奪われるのである。


 オレはそのまま、拾った魔石をアトリに握らせる。驚いた彼女に、オレはウインクして見せた。


「それと、魔石は魔力を宿した石でね。様々な用途で活用する事が出来るんだ。街で売ればちょっとしたお小遣いにはなるから、必ず拾っておくんだよ?」


「わ、私が貰って良いんですか……?」


 アトリは渡された魔石を見つめ、戸惑った表情を浮かべていた。本当に貰って良いのか、判断が付かないみたいだった。


 なのでオレは、アトリの髪をくしゃりと撫でる。癖があって少し硬い髪を、オレは優しく撫でまわした。


「労働の対価という奴だよ。働いた分は、きっちり報酬を貰わないとね」


 まあ、正直な所を言うと、ゴブリンの魔石は安いというのもある。日本円なら100円とかの額で、本当にお小遣いレベルの稼ぎでしかない。


 ちなみに、今のオレは無一文だが、ハーブ類を色々と採取している。それらの値段を知っており、ある程度の金額になるとわかっていたりする。


 現金化の見込みがあるのは大きい。とはいえ、それを抜きにしても、労働に対価が必要だってのも本心なんだけどね?


「あ、あの……。ありがとうございます!」


 アトリは恥ずかしそうに微笑み、オレへと頭を下げた。そして、背後の義父へと振り返ると、彼も嬉しそうに頷いていた。


 そんな親子のやり取りに、オレの心がほっこりとする。まだ13歳であるアトリには、こういう子供らしい反応も必要なのだと改めて思った。


 基本的にオレが鍛えるのは戦闘能力だとはわかっている。けれど、オレはアトリの心の成長に、少しでも携われたら嬉しいと考えていた。

<[導師]アキラ(スキルポイント:20/30)>

☆不殺の誓い(固有スキル)[生物への致死量ダメージを、自動的に手加減する]

・ライトニングLv5(Master) [光属性:魔力×(50+SLv×50)%のダメージ]

・ヒールLv3 [光属性:SLv×10%のHP回復(魔力量によりボーナス補正)]

・マジックバリアLv5(Master) [3分間 SLv×10%のダメージ軽減(魔力消費)]

・瞑想Lv3 [3分間 魔力上昇(SLv×10%)/魔力回復(毎秒:SLv×1%)]

・解析Lv1 [人物/アイテム/魔物の名称/レベル/HP&MPバー/状態異常を表示]

・採取Lv1 [野草の発見率上昇]

・調理Lv1 [調理Lv1のレシピをマスター]

・スタンLv1 [SLv×10%の確率で敵を気絶させる(魔力量によりボーナス補正)]

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