リューク王子
ガーランド王国へと到着したオレ達は、まずはガーランド王への挨拶に伺う事になった。目的はアイシオン公爵家のリコリスだが、いきなり向かうのは不味いらしい。
まず第一に、オレの導師という立場。王家に興味が無いと態度に示すと、ガーランド国王の面子を潰しかねないとか。今後の同盟も考えると、仲良くしておくに越した事は無い。
第二に、王子であるアルの立場。他国の王族が、いきなり公爵家に近寄るのは不味いらしい。こちらにその気がなくても、貴族の間では変な噂が流れる可能性もある。
そして、最後にアトリの立場。ミズガル共和国に狙われる、元ドワーフ王国のお姫様。今後の関係を考えるなら、下手に隠すよりも素直に話し、協力関係を築くべきだと考えたのだ。
この辺りはラナエール王国内で、王様や大臣を交えての相談結果だ。オレ個人ではそこまでの配慮も出来ないし、頼れる相談相手が居てくれて、とても助かっている。
そんな訳で、オレ達は謁見の間にやって来た。ラナエール王国に続いて、二度目の謁見である。
「よく参られた、導師様。そして、アルフレッド王子に、アルトリア姫よ」
「本日はお時間を頂き、ありがとうございます。導師アキラで御座います」
玉座に座るガーランド王に対し、オレは練習した通りに頭を下げる。背後ではアトリやアルも、同じく礼をしている事だろう。
そして、頭を上げてガーランド王を見る。彼は銀髪に青い目を持つ、40歳程のナイスミドルである。
そして、その隣には二十歳程の青年の姿もあった。容姿はガーランド王に良く似ており、若い時のガーランド王とそっくりなのだろうと思わせた。
彼が恐らくリューク王子。第一位の王位継承権を持つ存在。そして、噂によるとリコリスの婚約者らしい。
落ち着いた様子のガーランド王は、右手をすっと動かす。そして、彼の息子を示しながら、オレ達に対して紹介してくれた。
「そして、こちらは我が息子のリュークだ。導師様の訪問と聞き、どうしても同席したいと言うものでな」
「は、初めまして、導師様! ガーランド王国の第一王子リュークです! お会い出来て光栄です!」
緊張した面持ちで挨拶するリューク王子。一般人が有名人に出会った時の様で、どこか微笑ましい姿に思えた。
事前に聞いていたよりは、思ったより普通ではないだろうか? オレは内心では安堵しつつ、リュート王子へと返事を返す。
「初めまして、リューク殿下。その様に緊張する必要はありませんよ。大した者ではありませんので、もっと気楽にお話下さい」
「そ、そんな滅相もない! すでに魔王軍の手の者を倒し、ダライ族の英雄も退けたそうじゃないですか! それに、アルトリア姫の育成についても聞いています! どの能力を見ても、導師様以上に優れた指導者は存在しないでしょう!」
勢い込んで話すその姿に、オレは思わずポカンと口を開く。熱烈なファンみたいではあるが、それをありがたいと思う余裕は無かった。
アトリの能力は事前に伝えている。その能力を知って貰う為に、入城直後に彼等の鑑定も受けさせている。
だが、魔王軍の話はまだ正確に伝わっていないはず。それ以前に、ダライ族の英雄――ヴォーグルの話は、ラナエール王国の陣営すら知らない事実だ。
それにも関わず、どうしてリュート王子は知っている? そして、それを当然の様に語るのだろうか?
オレが混乱していると、ガーランド王は苦々し気に息子を睨んだ。
「落ち着け、リューク。導師様も混乱されているだろう。大人しく出来ないなら退席させるぞ?」
「こ、これは申し訳ありません。私とした事が少しばかり、興奮してしまったみたいでして……」
父親の指摘を受けて、リューク王子は恥じらいの仕草を見せる。この辺りは反発するでもなく、素直な態度で好感が持てる。
ただし、王子の立場として、大丈夫かという不安はある。13歳のアルよりも、20歳程のリューク王子の方が幼さを感じさせるのだ。
この辺りが彼のネックかと勘繰っていると、ガーランド王が咳払いしつつ場を仕切り直す。
「ごほん、息子が申し訳ない。そして、息子が話してしまった以上、こちらの手の内も晒しましょう。我々は導師様の訪問より早く、その存在を察知しておりました」
「ほう、そうなのですか?」
オレがラナエール王国に入って、まだ一月程度しか経っていない。その短い期間の間に、他国の出来事に気付いていたと言う。
その情報収集能力に驚くと同時に、また疑問も沸き上がって来た。どうしてその手の内を、こうも簡単に晒してしまったのかだ。
そして、その疑問に対しては、ガーランド王が続けて説明を行ってくれた。
「まず、ガーランド王国から出た馬車が消息を絶ちました。その確認に向かった者が、身元不明な多数の遺体を発見したのです。その状況を確認させる為、我々はアイシオン家に調査を依頼しました」
アイシオン家とはリコリスの実家だ。公爵家であり、軍事方面にも強かったはず。その関連で、諜報方面にも強いんだったかな?
うろ覚えの知識ではあるが、ゲーム内設定を思い出す。オレが納得していると見ると、ガーランド王は話を続けた。
「ミズガル共和国の手の者について、アイシオン家は既に察知しておりました。そして、その中にいたヴォーグルと言う者が、身元を隠して一人でミズガル共和国へ戻ったことも。そして、調査を進める中で、同時期にラナエール王国に導師様が現れた。馬車に同乗していたはずの、ドワーフ親子と行動を共にしている事もわかったのです」
「馬車の襲撃の件から、芋づる式という訳ですね」
話を聞けば納得である。キチンとした諜報の腕があるなら、簡単に調べが付いてしまうのだろう。
そして、アイシオン家にはその腕があった。諜報員の存在にも気付かず、オレ達は情報を収集され続けて来た訳だ。
「アイシオン家から、導師様は信頼に値すると報告を受けております。また、その能力から見ても、決して侮って良い存在では無いと。その為、我々ガーランド王国としては、導師様と互いに信頼し合える関係を構築すべきと判断したのです」
「そうなのですか? それはありがたいことです」
オレの知らない所で、知らない内に評価が上がっていた。棚ぼた的な展開ではあるが、これは素直に喜んで良い内容だろう。
だが、ガーランド王の話はそれだけで終わりでは無かった。彼は息子のリューク王子をチラッと見た後に、オレに対して真剣な眼差しを向けて来た。
「そして、我々も手の内を晒し、協力を仰がねばならないと判断しました。どうか、我が国の置かれる現状について、話を聞いては貰えないでしょうか?」
何やら空気が変わった気がする。ガーランド王からの圧が凄いんだけど……。
そして、謁見の間に立ち会う兵士達も、同様の気配を感じさせている。どうにも、ガーランド王国側は、その内容を全員が把握しているみたいだった。
……ただ一人、呆然とした表情のリューク王子を覗いては、だが。
「それは構いませんが、内容をお伺いしても?」
「話を聞くのは導師様のみとさせて下さい。それでは、導師様は別室までお願いします」
どうも、ガーランド王が直々に案内してくれるらしい。そして、護衛の騎士が2名付く以外は、全員がその場に残された。
リューク王子は釈然としない表情であった。しかし、一度は嗜められた為、不平を口にすることはなかった。
アトリやアル達は、何となく空気を読んだらしい。納得した様子で、オレの事を送り出してくれた。
オレは嫌な予感を覚えつつ、ガーランド王の後を付いて行く。その後に語られる内容に、何となく理由を察しながら……。