ガーランド王国
馬車に揺られて10日が経つ。オレ達は無事に、ガーランド王国へと辿り着いた。
馬車の窓から見える景色は、前方にはエメラルドグリーンが大きく広がる。地平線の彼方まで見える青く美しい海である。
逆にやって来た背後を見ると、そこは緑の濃い山林である。ラナエール王国は山に囲まれ、ガーランド王国は海に囲まれた国と言う事だ。
オレは大自然の美しい景色を堪能しつつ、車内の皆に話し掛けた。
「何事も無く到着出来て良かったです。今日中にはガーランド城へ到着できそうですね」
そんな何気ない一言に、皆が目を丸くしてオレを見つめる。何事かと思っていると、カタリナさんが困った様子で説明してくれた。
「いえ、グレイウルフの群れに襲われ、道中にオークの集落も潰しています。何事も無くと言うには、余りにも過激な旅だと思うのですが……」
何故か複雑な表情のカタリナさん。同乗しているアトリとアルフレッドも、ウンウンと激しく頷いていた。
オレは首を傾げながら、皆に対して疑問を投げ掛ける。
「グレイウルフはアルが一人で退治したでしょう? それに、オークの集落も道中の村人に頼まれ、皆で軽く潰しましたよね。大変なことなんて、何も無かったと思うのですが?」
「それは導師様が強いから、そう思えるだけです。殿下の護衛がごく少数な中で、二度も魔物の群れと戦うなど、本来なら肝が冷える事態なのです」
沈痛な面持ちのカタリナさんと、苦笑を浮かべるアトリとアル。どうやらカタリナさんは、護衛の役割上、魔物退治をあまり良く思っていなかったらしい。
確かに護衛はカタリナさんの他に、御者を務める騎士が二名。それに、オレとアトリの二人だけしかいないのだ。
むしろ、レベル上げの機会と思い、護衛対象に魔物退治をさせていた。オレのやり方は、カタリナさん的には胃が痛くなる方針だったのかもしれない。
しかし、内心で申し訳なく思うオレに対し、アルが笑顔で話し掛けて来た。
「しかし、そのお陰で良い経験が詰めました。魔鋼武器の優秀さも、この手で確かめられましたしね」
アルは手にした鞘から、刀身を僅かに抜いて見せる。そのショートソードの刀身は真っ黒であり、普通の鋼の剣とは違う事が一目でわかった。
勿論、攻撃力も鋼の剣より優れている。丈夫さも段違いではあるのだが、魔鋼武器の本領はまた別に存在している。
「魔鋼武器は成長する武器です。アルが使い続ければ、刀身は赤く染まって行くでしょう。そして、最終的には魔剣と呼ばれる、伝説級の武器へと至るのです」
「炎の力を宿した魔剣でしたよね? 完成するその日が楽しみです」
アルフレッドは嬉しそうな笑みを浮かべ、魔鋼の剣を鞘へと戻す。そして、視線を向けると、アトリも手元の武器を嬉しそうに見つめていた。
ちなみに、アトリの武器はメイスとなった。ハンマーではなく、棍棒系の武器である。
一応はメイスでも、ハンマー系のスキルは覚えられる。魔法が主体になりつつあるし、今のアトリならそれもありかとオレが選んだのだ。
こちらも当然、成長すれば土の力を宿す。呼び名は魔剣では無いだろうけど、伝説級の武器であることに変わりはない。
嬉しそうな二人の態度に、オレは内心でほっこりする。すると、そんなオレに対して、カタリナさんが再び問い掛けて来た。
「そういえば、私も魔鋼武器を頂いております。私の場合は、どの様な魔剣となるのでしょうか?」
「カタリナさんの魔剣か……」
そういえば、どうなるんだろう? カタリナさんも炎の魔剣になるのだろうか?
ただし、カタリナさんは火属性の魔法もスキルも持たない。属性関連のスキルは、取得対象にも含まれていなかったはずだ。
そうなると、アルと同じ道を辿るかは不明だ。もしかしたら、無属性の魔剣となり、別の方面で追加効果を得る可能性もあるな。
「今の所はわかりません。この先の成長を楽しみに待ちましょう」
「なるほど、わかりました。私も剣と共に、成長して行きますね」
オレの返事に、カタリナさんは美しい笑みを返してくれる。仕事の話をしている時は、本当に魅力的な笑顔を見せてくれるんだよな。
ただ、仕事以外の話をすると、途端に不機嫌になっていまう。恐らくはセクハラ扱いなのだろう。今後も付き合う上で、モラルを大切にしないといけない。
話が一段落した所で、オレは窓の外に視線を移す。そして、小さく見えるガーランド城を静かに見つめる。
ガーランド王国は貿易で栄える小さな国である。海の恵みを大きく受けて、海洋神アウロラを崇める国柄でもある。
それ故に、王族の血を引いている、公爵家のリコリスが加護を得た。『水の加護』を与えられ、未来の勇者として育つのだ。
しかし、リコリスは理想が高過ぎる。完璧を目指そうと空回りし続ける。その結果として、周囲との軋轢を生み、トラブルを起こしてしまうのである。
勿論、シナリオを進めれば彼女も成長し、意地を張らずに済む様になる。その後は仲間からも信頼され、頼れる魔法使いのポジションに収まるのだ。
「とはいえ、先は長そうだな……」
リコリスが落ち着くのは、シナリオの中盤以降だ。それまでの間は、トラブルメーカーのポジションなのである。
彼女が成長するまでの間は、それを支え続けねばならない。アトリやアルと上手くやれる様に、当面の仲介役が必要となるだろう。
オレは内心で溜息を吐きつつ、それでも何とかしてみようと気合を入れるのであった。
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