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死霊使い

 オレ達は地下フロアの中央に到達した。最終的にはダンジョン全体を攻略するのだが、まずは一本道を真っ直ぐに進んだ結果である。


 ちなみに、その一本道に『彷徨う死神』が5体も存在した。オレなので確一だったけど、こちらを殺しに来てるとしか思えない布陣である。


 それはさて置き、ダンジョン中央はちょっとした大部屋になっている。魔物が溜まっているかもと、警戒しながらオレが先行して踏み入った。


 ただ、想定に反してマップには魔物のアイコンが少ない。部屋の中央に一つ見えるだけである。


 怪訝に思ってそのまま進むと、想定外の光景が飛び込んで来た。ゲームでは存在しなかった、祭壇らしき物が建てられていたのだ。


『我が配下を排除し、ここまで辿り着くとは……。貴様等は何者だ?』


 くぐもった声が部屋に響く。その声は老人の様にしわがれていた。


 しかし、本当に老人であるかは不明である。ボロボロのローブに身を包み、顔もフードで覆われていたからである。


 その見るからに不審な人物の問いに、カタリナさんが一歩前に踏み出して答える。


「我々はラナエール王国の者だ! こちらにおわすは第一王子、アルフレッド=フォン=ラナエール殿下である! そちらこそ、こんな所で何をしている!」


 警戒しつつも相手の素性を問う。カタリナさんの立場から、それは当然の対応なのだろう。


 しかし、相手は微かに驚いた気配を見せるだけ。こちらへの敬意などは微塵も感じさせず、一人でポツポツと語り出した。


『ふむ、『炎の加護』を持つ者であったか? 大した力と思えず放置したが、そちらからやって来るとはな。まあ、ここまで来たなら、ついでに狩り取るとするか……』


「なに? それは、どういう意味だ!」


 カタリナさんは右手に剣を、左手に盾を構える。相手の漏らした言葉から、不穏な気配は感じ取ったのだろう。


 護衛の騎士二人も、アルフレッドを守る為に左右へと展開する。しかし、オレは手を掲げて彼等を制し、前に踏み出し相手に問い掛けた。


「まさか、『死霊使い』が居るとはな……。お前の目的は何だ? お前はハーディアスの手先なのか?」


 オレの問い掛けに『死霊使い』が怯む。先程と違って、明らかな警戒心を見せていた。


 そして、先程の問いが効いたのだろう。『死霊使い』は逆にこちらへ問い掛けて来た。


「……何故、人間如きがあの御方を知っている? 貴様は何を、知っていると言うのだ……?!」


 どうやら、オレの予想は当たったらしい。それも、悪い方向で当たってしまった。


 オレが告げた『ハーディアス』とは、魔王四天王の一人。死霊王ハーディアスの名である。


 その名を知り、敬う発言をする以上、奴は魔王軍に関係している。恐らくは問い掛けた通り、ハーディアスの手下なのだろう。


 そして、オレは相手の頭上を確認する。そこには『死霊使い Lv22』の表示があった。


 なお、『死霊使い』とは職業名ではい。魔物の名前なのである。ハーディアスの部下に多く居た指揮官タイプである。


 魔王と共に四天王も封じられているはず。そのはずなのだが、手下は自由に活動出来ているのだろうか?


 想定外の事態ではあるが、逆にチャンスであるとも言える。オレの知らない情報が、目の前に存在しているのだ。ならば可能な限り、情報を収集しておくべきであろう。


「その背後の祭壇……。もしや、それは魔王復活に関係しているのか?」


 オレは『死霊使い』の背後に視線を送る。そこには石造りの祭壇があり、真っ黒なオーブが祀られていた。


 黒いオーブは禍々しいオーラを放ち、放置するには危険な代物と見える。そして、ハーディアスの配下が水面下で活動するなら、魔王復活関係かと睨んだのである。


 しかし、相手は驚いた雰囲気を放ちつつも、落ち着き払った態度だった。何やら勝ち誇った様子で、オレに対して嘲りの言葉を投げ放つ。


『くくく、よもや魔王様の復活まで知っているとはな……。だが、貴様は勘違いしているな? 我々は魔王様が復活なされた後、ご回復を早める為に供物を用意しているに過ぎない。貴様らが何をしようと、既に魔王様の復活は止められんのだよ!』


「回復の為の供物……?」


 ゲームシナリオは魔王復活から開始する。しかし、今にして思えば、開始直後に魔王自身は活動を行っていない。


 四天王すら魔王城に留まり、その配下が各地で暴れまわるのである。四勇者が魔王軍を鎮圧し、対魔王連合軍が勢力を盛り返すと、ようやく魔王四天王が動き出すのだ。


 魔王自身は魔王城に鎮座し続け、こちらが乗り込むまで動かなかった。そういう物としか思っていなかったが、動けなかった理由が別にあるのかもしれない……。


 可能性としては覚えておくべきだろう。貴重な情報に内心でほくそ笑みつつ、オレは更に質問を続ける。


「先程、我々と言っていたな? それはつまり、他に仲間が居るという意味なのか?」


 オレの問い掛けに対し、今度は何の反応も返ってこなかった。急な無反応に戸惑い、オレはしばらく相手を見つめる。


 だが、『死霊使い』が微かに肩を震わせる。そして、それが徐々に大きくなり、相手は高笑いを初めた。


『――ふ、ふははははっ! 間抜けな奴等め! 時間稼ぎは終わりだ! 仕込みは終わった!』


 高笑いと共に、その両腕を天へと掲げる。すると、腕の動きに呼応するかのように、ダンジョンの土が盛り上がる。


 いや、良く見ればその下から、無数の魔物が這い出している。それらは腐った死体や、骨の兵士達である。


 10体や20体という数では無い。部屋を埋めんばかりに溢れる魔物に、背後の仲間達が騒ぎ出した。


「な、何と言う数だ……! これ程の魔物が潜んでいたのかっ?!」


「で、殿下をお守りしろ! 殿下だけは何としても逃がさねば!」


 オレはざっと周囲を見回す。オレ達を取り囲む魔物の群れ。その数は最低でも50体は存在するだろう。


 なお、現れた魔物は『ボーンソルジャー Lv10』『グール Lv10』ばかりだ。『彷徨う死神』や高レベルの魔物は混ざっていない。


 その状況を見て、オレはある閃きが生まれる。そんな事が出来るのかと疑問に思いつつ、確認の為に『死霊使い』へと言葉を投げる。


「……ダンジョンの魔力を不死属性に変換したな? これ程の魔物を使役するとは、何とも恐ろしい使い手みたいだ」


『くっくっく……。それを見破る貴様も中々だ。――そういう奴は、早めに殺さねばな』


 知ってる風にハッタリをかまし、褒めてみたらアッサリ認めた。どうやら、本当にダンジョンの魔力を変換して使っているみたいだ。


 魔物のレベルが全てLv10だったし、『死霊使い』にこれ程の数は召喚出来ない。やっぱりそうかなのか、という思いではある。


 そして、相手もオレを認めてくれたが、実に嬉しくない返答だった。もっとも、あちらからしたら、どうあっても結果は変わらないんだろうけどさ。


「ど、導師様! 我々は、どうすれば良いのでしょうかっ?!」


 カタリナさんが平静を装いつつ、背後から問い掛けて来た。逃げに徹するか、死に物狂いで突貫するか、そのいずれかを問うている感じであった。


 しかし、オレは二っと笑みを浮かべる。手にした杖を肩に担ぎ、余裕をもって返事を返す。


「まあ、何とかなるでしょう。カタリナさん達は、アトリ達の事を守ってやって下さい」


「な……。それは、本気で言っているのですか……?」


 オレは視線を『死霊使い』に向ける。しかし、多数の魔物が邪魔で、その姿をハッキリと見る事が出来なかった。


 こうなると、ある程度の数を減らす必要があるな。戦って負ける事は無いのだが、倒すのには時間が掛かってしまいそうである。


 オレはやれやれと肩を竦める。すると、魔物達の奥から、『死霊使い』の声が届いた。


『……貴様、正気か? この数を前にして、生きて帰れると思っているのか?』


「確かに数は多いんだよね……。ただ、雑魚を並べてもどうにもならないよ?」


 オレは『瞑想』と『マジックバリア』を発動させる。思考はクリアになり、体は魔力のバリアに包まれる。


 ダメージなんてほぼ通らない。ボーンソルジャーなら杖で殴り殺せる。魔法を使うまでも無いだろう。


 グールは毒攻撃が厄介だな。接近戦は挑まずに、魔法で倒してしまうのが良いだろう。まあ、毒になったら後から解毒するだけなんだけどさ。


 そして、魔物の壁さえ無くなれば、『死霊使い』も敵では無い。不死属性の魔物なので、『ライトニング』を数発叩き込めば倒せるはずだ。


「さて、それじゃあ始めるとしますかね」


 まったく負けるイメージが沸かない。レベルに物を言わせ、無双状態で勝つだけである。


 こんなものは作業と同じだ。オレは楽しむ訳でも無く、ただ淡々と処理を開始するのであった。

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