遭遇
ダンジョン攻略は順調に進んでいる。昨日は一日かけて、地上フロアを一通り攻略し終わった。
結果として、そこそこの量の魔鉄が手に入った。アトリとアルフレッドの二人分なら、装備が作れる程度には集まっていた。
そして、アトリはLv6からLv9へと上がった。魔物の討伐は全て、彼女が担当したからだ。その結果、1日でレベルが3も上がったのである。
そして、効率を考えて『大地の心得Lv3』『アーススパイクLv3』『瞑想Lv2』を獲得した。これだけ取れば、地下フロアに進めると踏んだからだ。
……ちなみに、アルフレッドはLv4からLv5に上がった。成長率の違いは、ダメージ量の差である。
彼とはパーティーも組んでいないし、経験値の入りが悪いのは仕方が無い。それでも多少は成長したので、無いよりマシと思うしかないだろう。
「それで、今日は地下フロアな訳だけど……」
オレは仲間の二人に視線を送る。上機嫌なアトリと、不機嫌なアルフレッド。その温度差に、オレは思わずため息を吐く。
道中のゴーレムも一撃で仕留め、活躍を続けるアトリ。彼女がご機嫌なのは当然だろう。護衛の騎士達からも、攻撃能力には一目を置かれているからね。
逆にアルフレッドは活躍が出来ていない。ゴーレムは平均がLv10であり、彼の倍はあるのだ。表面を焦がす彼の魔法も、効いているのか疑問に感じる程でしかなかった。
「まあ、手早く済ませるか……」
地下フロアは魔鉄の発見率も高い。一通り周れば、強化素材分も集まるだろう。明日にダンジョン攻略を終わらせても問題無さそうだった。
その間に、アトリのレベルも更に上がるはず。アルフレッドとの差は広がるが、それはどこかで埋めるプランを考えるとしよう。
それに、話は変わるが他に懸念事項もある。このフロアに降りてから、想定外の魔物と遭遇したからだ。その魔物というのが……。
「導師様。先程の魔物について、お聞きしても宜しいでしょうか?」
「カタリナさん? ええ、私も丁度その件を考えていた所ですので」
声を掛けられて振り返ると、カタリナさんが歩み寄って来た。その顔には緊張の色が濃く、問い掛けの声も硬いものであった。
どうやら、彼女は状況を察しているらしい。のんびりした他のメンバーと違い、その異常さに何かしら感づいているみたいだ。
「あれはゴースト系でしょうか? 初めて見た魔物ですが、導師様は何かご存じですか?」
「はい、あれはゴースト系の魔物。『彷徨う死神』という、非常に厄介な魔物ですね……」
先程、オレが倒した魔物の名が『彷徨う死神』。見た目は黒のローブ姿に、大鎌を持った死神スタイルである。
そして、ゴースト系なので実態を持たない。黒い霧の集合体みたいで、その輪郭はぼんやりとしている。
その『彷徨う死神』を、カタリナさんは知らないらしい。ラナエール王国には居ない魔物だし、知られてなくても仕方が無いとは思うんだけどね。
ただ、そうなると情報共有が必要となるな。その特性を知らないと、メンバーに思わぬ被害が出る可能性があるからだ。
「『彷徨う死神』はゴースト系で、物理攻撃が無効化されます。その上、平均でLv18という強さから、アトリの魔法でも倒すのは困難です。そして何より、『ソウルスティール』というスキルが厄介なのです。奴の鎌で斬られると、低確率ですが即死する危険があるのです」
「な、何と……。そこまで危険な魔物だったのですか……」
オレの説明に、カタリナさんの顔が青くなる。先程はオレが、『ライトニング』であっさり仕留めた。しかし、知らずに彼女が挑んでいたら、大変な事になっていたからだ。
とはいえ、幸いな事にオレとは相性が良い。光属性の『ライトニング』は、不死属性の魔物に弱点を付ける。ダメージが二倍となり、一発で余裕をもって倒す事が出来るからだ。
接近する魔物は、マップ機能ですぐに気付ける。奴は潜伏系のスキルも持たないし、オレが見つけて相手をすれば、味方への被害は気にしなくても問題は無い。
ただし、一つだけ問題があるとすれば……。
「倒すだけなら、私が相手をすれば問題ありません。問題があるとすれば、どうして『彷徨う死神』がここに居るのかですね」
「それは、どういう意味でしょうか?」
オレの説明に、カタリナさんが首を傾げている。何が問題かわかっていない様子だが、ラナエール王国にはダンジョンが少ないからだろうか?
ならば、基本的な話から始める必要があるな。オレはダンジョンの特性について、カタリナさんへ説明を始めた。
「あれは鉱山系ダンジョンに、自然発生する魔物ではありません。墓地や廃墟等の不浄な地に誕生する、不死系ダンジョンで生まれる魔物なのです」
「この地で生まれた魔物では無い? 他所からやって来たと言うのですか?」
カタリナさんが驚いた表情を浮かべる。その反応からして、やはりダンジョンの知識に乏しいらしい。
オレはゆっくりと首を振る。そして、カタリナさんの勘違いを正す。
「ダンジョンで生まれた魔物は、そのダンジョンでしか生きられません。そのダンジョンが持つ属性と不一致だと、糧となる魔力を得られず、消滅してしまうからです」
「つまり、他所から来た魔物でも無いと? ならば何故、あの魔物はここに?」
理解出来ないとばかりに、眉を寄せるカタリナさん。そう思うのはオレも同じで、その答えがわからずにいる訳だ。
まあ、可能性の話で言えば、一応の心当たりはある。オレ自身がその可能性を、余り高いと考えていないのだけれど……。
「可能性で言えば、召還された魔物って所ですね。死霊術を使えば、死霊系の魔物を呼び出せるはずですので」
「ならば、その死霊術の使い手がここに?」
カタリナさんが明るい顔で問う。オレの説明を聞いて、オレが答えを持っていると考えたのだろう。
しかし、オレは再び首を振る。腕を組みながら、その可能性の低さを説明する。
「死霊術は大陸全土で禁呪のはずなんです。もしかすると、裏社会になら使い手が居るかもしれません。しかし、私はその様な人物に、心当たりが無いのですよ……」
「導師様でも知らないのですか? それ程に珍しい術と言うことですね……」
記憶を探るが死霊術を使うキャラは思い出せない。ダウンロードコンテンツの追加キャラや、敵側の人員にも居なかったはずである。
使うとすれば魔物サイド。魔王軍の幹部とか、指揮官系の魔物とか。ただ、魔王が復活していないので、その線も考えにくいんだよね……。
考えてはいるのだが、これといった答えは思い付かない。オレが頭を捻って唸っていると、カタリナさんの表情がはっと変わる。
「あ、その……。この辺りで、失礼を……」
「え、えぇ……。それは構いませんけど……?」
急に慌てた様子を見せ、オレから離れるカタリナさん。どうしたのかと思っていたら、アルフレッドの方へと駆け寄って行った。
そして、アルフレッドに対してペコペコと頭を下げ始める。小声で良く聞こえないが、何やら小言を言われているみたいだ。
「あー、うん……。あの人も苦労人なんだな……」
立場としてはアルフレッドの護衛役。アルフレッドの意向を、ある程度は尊重する必要があるのだろう。
しかし、その身を守る役目もあり、オレとの連携を欠かす訳にもいかない。全てをアルフレッドの要望通りに、動く訳にも行かないと言った所か。
板挟みの状態ながら、それでも役目を果そうとしているのだ。何と健気な人なのだろうか。
彼女の更なる気苦労に憂い、オレは密かに胸内で誓う。出来る範囲だけでも、彼女に優しく接してあげようと……。
<[導師の弟子]アトリ(Lv9)>
HP:90 (+21) MP:70 (+15)
攻撃:20 (+8) 防御:20 (+8)
魔力:25 (+10) 魔法抵抗:25(+10)
速さ:9 (+3) 器用さ:30 (+12)
[スキル(スキルポイント:9/9)]
☆大地の加護 (固有スキル)[土属性の効果/全ステータスに25%の補正]
・アーススパイクLv3 [土属性:魔力×(50+SLv×50)%のダメージ]
・大地の心得Lv3 [土属性の効果にSLv×20%の補正]
・ストーンレインLv1 [土属性:魔力×(SLv×50)%の中範囲ダメージ]
・瞑想Lv2 [3分間 魔力上昇 (SLv×10%)/魔力回復 (毎秒:SLv×1%)]