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責任(アルフレッド視点)

 ダンジョンと呼ばれる場所には初めて入る。見た目だけでは、普通の洞窟との違いがかわからない。


 しかし、歩いていて気付くが、魔物の数が多い気がする。少し進むと、泥の体を持つ魔物がすぐ姿を見せるのだ。


「ちっ、またか……。――ファイアランス!」


 成人男性よりも一回り大きな体躯である。泥人形とも言うべき魔物へ、オレは魔法で攻撃を行う。



  ――ジュッ……!



 炎の槍が胸に命中した。相手の胸はボロボロと崩れ、その一部が抉れてしまう。


 しかし、魔物を仕留めるには程遠い。魔物は攻撃された怒りから、こちらに向かって駆け出して来た。


『ヴォォォ……!』


「殿下、来ます!」


 カタリナが前に出て、盾を構えて私を庇う。しかし、私はその必要がない事をわかっていた。


 このやり取りは、これが初めてではないのだ。何度と繰り返すこのやり取りに、私はいい加減に飽き飽きしていた……。


「アーススパイク!」



 ――ドシュッ! ドシュッ!



 足元から飛び出す二本の岩石。先端が鋭い刃と化し、魔物の胴体を貫いた。


 そして、ビクビクと体を震わせた後、魔物は力無く崩れ落ちる。それは比喩では無く、本当に土塊に変わって崩れてしまったのだ。


 その結果を確認し、私は隣をチラリと見る。そこには例の少女が立っていた。『大地の加護』を持つ、アトリという少女である。


 彼女は嬉しそうに微笑むと、側の男へ笑顔を向ける。彼女が師匠として慕う、あの導師に向かって……。


「お師匠様、やりましたよ! 魔物が何かを落としたみたいですね!」


「魔力の土ですね。何かに使えるでしょうから、拾っておきましょう」


 魔物は倒すと、何かを残すことがある。通常は核である魔石だが、それ以外にも稀に素材を残すと言う。


 確かあの魔物はクレイ・ゴーレムと言っていた。落とすのは体の一部である『魔力の土』らしい。


 具体的な使い道はわからないが、錬金素材と聞いたことがある。錬金術師には価値ある素材なのだろう。


 導師が土に触れると、それはどこかに消えてしまう。あの導師はアイテムボックスと言っていたが、不思議な魔術で持ち運びが出来るらしい。


 初めて見た時は驚いたが、今では皆が見慣れてしまった。収納が終わったので再開かと思ったが、今回はどうやら違っているらしい。


「アキラ様、あそこにありそうですな。少し掘ってみても良いですかな?」


「お、有りましたか! どうぞ、どうぞ! 頑張って掘ってみて下さい!」


 ヘイパスと言う鍛冶師が、壁の一部を指さしていた。導師の許可を得て、彼はツルハシを持って壁へと向かう。


 恐らくは、目的の鉱石が埋まっているのだろう。何やら特別な鉱石らしく、強力な武具を作れると聞いている。


 ダンジョン攻略の目的は、その鉱石回収が一番らしい。私やアトリの訓練は、そのついでだそうだ。


 正直、それなら私の同行は不要だと思う。私は魔法も使えるが、剣の方が得意である。剣が効き辛いあの魔物相手では、私の訓練相手に相応しいと思えなかった。


「ちっ……」


 私が苛立つのは、それだけが原因ではない。アトリの使う魔法は、私とは段違いの威力だった。あの魔法だけあれば、泥の魔物は一撃で倒せるのだ。


 それなのに、訓練の為だと私も参加させられている。大したダメージでは無い。必要な攻撃という訳でも無い。それなのに、魔法を使えと命じられているのだ。


 私にはこの行為に、意味を見出す事が出来なかった。あの少女と比較して、私が劣っていると証明させられているかの様だった。


 それだと言うのに、私は拒否することすら出来ずにいた。あの少女に見つめられると、身が竦んでしまうのだ。そんな自身の弱さも、私を苛立たせる要因である……。


「殿下、お疲れ様です」


 声を掛けて来たのはカタリナだった。水筒を差し出してくるが、私はその受け取りを拒否した。


 単に喉が渇いていなかっただけだ。それだと言うのに、カタリナは寂しそうな表情を浮かべた。


 そんな態度を見て、チクリと胸が痛んだ。しかし、私はそれを誤魔化す様に、カタリナへと冷たく問い掛けた。


「随分と仲が良さそうだな。あの導師を信用しているのか?」


「導師様を信用? ええ、とても素晴らしい御仁ですからね」


 カタリナの浮かべる笑顔から、それが本心であると理解した。あの導師を信用していると知り、私は思わず歯噛みしてしまう。


「あいつは教会の関係者だぞ? それなのに、どうして信用する事が出来る?」


「いえ、導師様は違うのです。それに教会関係者が、全て悪くは無いかと……」


 言い辛そうにその態度から、カタリナも理解しているとわかる。決して教会関係者が、国にとって有益な存在では無いということを。


 それがわかっていて、どうして導師を信用出来る? その中途半端な態度に、私の苛立ちが更に募る。


「教会関係者を近づけるべきではない。あの導師も、早々に国から追い出すべきだ。そうでなければ、気付いた時には手遅れとなるのだぞ?」


「そうでは御座いません。むしろ導師様を追い出せば、それこそ国に危機を招きます。二年後に現れる魔王に、どう挑むおつもりなのですか?」


 なんと、馬鹿々々しい……。魔王が復活するなど、どうして本気で信じているのだ?


 あれは単なる昔ばなし。教会が広めた、作り話に過ぎないのだ。それを導師から告げられて、信じる方がどうにかしている。


 勿論、父上やサイフォスは立場上、教会を否定出来ないだろう。あの作り話を否定すれば、王族の権威が失墜してしまうのだ。


 導師に導かれ、神の意志に従って、王家がこの地に国を興した。それを嘘と否定すれば、この地を神に託されたと言う、王族の身分を保証する物が無くなってしまうからだ。


 その程度の事は、カタリナならわかって当然のはず。10年も私の側に仕えて来たのだ。私が知っている事なら、知っていて当然と思っていたのだがな……。


 私はカタリナに失望する。そして、これ以上は無駄と思い、彼女に背を向けた。


「ふん、採掘が終わったみたいだな。ならば、先に進むとしよう。そして、さっさと終わらせて帰りたいしな」


 視界に入る導師の姿。ヘイパスとやらが手にした鉱石に、嬉しそうな表情を浮かべていた。


 見た目はパッとしない、ただの冴えない人物である。しかし、教会関係者である以上、腹には一物を抱えているのだろう。


 あの姿を信じてはならない。表面上の笑顔を信じれば、いずれ痛い目を見る事になるのだから……。


「殿下……」


 背後からカタリナの呟きが聞こえて来た。とても悲しそうなその声に、オレはギュッと拳を握る。


 彼女は家族同然に親しい存在である。その胸の内を思えば、私の心も締め付けられる思いがした。


 しかし、私はその痛みに耐える。それが王家に生まれ、この国を率いる者の運命なのだから……。


「さあ、行くぞ……」


 導師達が進む姿を見て、私もその後に付いて行く。信じた訳では無い。しかし、彼等が何をするつもりか、私には目を光らせる義務があるのだ。


 背後に感じるカタリナの気配。そこから目を背ける様に、私は前だけを見つめ続けた。

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