パーティー
準備を整えたオレ達は、鉱山ダンジョンへやって来た。豪華な馬車を用意され、騎士の護衛を付けて貰っての移動であった。
途中で鉱山都市に寄り、ザルター卿の屋敷で持て成しを受けたりもした。道中の食事もしっかりと準備して貰った。まさに、致せり尽くせりと言う状態である。
そして、その最大の理由がアルフレッド王子の存在である。王族が同行しているのだ。お供の人達も気を抜けず、気を遣う旅であったと思う。
そんな旅路も終わり、鉱山ダンジョンへ辿り着いた。オレは入り口の洞窟を前に、疲れた表情のカタリナさんへと声を掛けた。
「道中はお疲れ様でした。ダンジョンに入る前から疲れましたね」
「申し訳御座いません……。導師様にもご迷惑をお掛けして……」
身を小さくし、深々と頭を下げるカタリナさん。オレは慌てて、彼女の頭を上げさせた。
確かにオレも気疲れはしたが、彼女はその比ではないだろう。道中ピリピリするアルフレッドを、ずっと宥めていたのが彼女なのだから。
そして、オレは背後にチラリと視線を向ける。そこにはアトリとアルフレッドの姿があり、互いに視線を逸らしていた。明らかに二人の間には、何かがあったと思われる。
しかし、アトリに聞いても、何でも無いと言う。ヘイパスさんも事情を知らなかった。状況がわからないので、オレも二人の間に入れずにいた。
そういう理由で、道中の空気は最悪だった。他二名の騎士さんも疲れた様子だが、カタリナさんの顔色はそれよりもなお悪い。
気疲れである以上、ヒールで治せるものでもない。出来る事なら何とかしたいが、オレに出来るのは慰めの言葉を掛ける程度であった。
「まあまあ、もっと気を楽にして行きましょう。ダンジョン内の警戒は、私に任せて貰って構いませんよ。こう見えても索敵能力には自信がありますので」
「そうなのですか? 流石は導師様ですね。頼りにさせて頂きます」
安心した表情で、柔らかく微笑むカタリナさん。その笑顔を見て、オレはほっと胸を撫で下ろす。
手合わせをしたお陰か、彼女はオレを信頼してくれている。好感度の高さについては、道中でも節々で感じる事が出来ていた。
うん、護衛を分担出来るのはとても助かる。それが信頼出来る相手であるなら猶更だ。こちらとしても、彼女の腕を頼る場面があるだろう。
「それでは少しばかり、準備に時間を頂きますね?」
「はい、承知しました。終わりましたらお声掛けを」
カタリナさんは胸に手を当て、敬礼らしき仕草を行う。そして、打ち合わせの為か、他の騎士の元へと向かって行った。
オレは距離が開いたのを確認し、メニュー画面をそっと開く。パーティー用の画面を確認し、オレは腕を組んで唸り声を漏らした。
「うーん、やはり変わらずか……。これは、どうしたものかな……?」
パーティーメンバーが表示される一覧画面。そこには仲間として、アトリとカタリナさんの名前が並んでいた。
しかし、アルフレッドの名前が無いのだ。この状態では、彼のスキルを操作出来ない。今後の育成が、想定通りに行えない事になる。
そもそも、パーティーに加わる条件は何だ? アトリはすぐに加入したが、ヘイパスさんは加わらなかった。
カタリナさんは気付くと加入していた。しかし、他の騎士は加入せず、アルフレッドも加入していない。その条件が、いまいち理解出来ないんだよな……。
「……念の為に、確認しておくかな?」
こっそり覗いて悪いとは思うが、オレはカタリナさんの名前に触れる。そして、表示されるステータスを確認した。
<[騎士]カタリナ=グレイシス(Lv16)>
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HP:272 MP:48
攻撃:64 (+19) 防御:64 (+6)
魔力:16 魔法抵抗:16
速さ:32 器用さ:32
[スキル(スキルポイント:10/16)]
・剣術Lv2 [剣装備時:攻撃にSlv×15%の補正]
・防御Lv1 [防御にSLv×10%の補正、盾装備時:SLv×5%の確立でガード発生]
・パワースマッシュLv1 [剣装備時使用可:攻撃×(150+SLv×50)%の斬ダメージ]
・スピードアサルトLv1 [剣装備時使用可:(攻撃+速さ)×(100+SLv×50%)の刺突ダメージ]
・かばうLv2 [SLv×20%の確立で味方をかばう、かばう成功時にSLv×10%のダメージ軽減]
・気配察知Lv1 [敵の潜伏状態 (Lv1) まで看破]
・指揮Lv1 [パーティーメンバーのステータスにSLv×10%の補正]
・騎乗Lv1 [中型までの動物に騎乗可、移動速度にSLv×10%の補正]
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やはり、騎士だかけあって物理方面で能力が高い。HPが高いので、魔法攻撃にもある程度は耐えれそうだ。
そして、スキルも優秀な物が並んでいるな。全体的にレベルは低いが、護衛としての能力を揃えている感じがする。
「それと、ポイントも余っているな……」
ポイントが『6』も余っている。その分だけ、カタリナさんの能力を上げられると言う事である。
仮に剣術をLv5まで上げると、それだけで彼女は達人と化すだろう。ダンジョン攻略の効率を考えるなら、上げておきたいスキルは多い。
「……ふう」
しかし、オレはそっとステータス画面を閉じる。彼女のスキルには一切触れず、メニュー画面から目を離した。
今は必ずしも必要な状況ではない。このチート能力を使うべきでは無いと判断した。
「……どうしようもなくなったら、かな?」
カタリナさんの事は信用している。けれど、オレのこの能力は、不用意に周囲へ知らせるべきではないと思うのだ。
このスキルを上手く使えば、簡単に達人を量産出来るかもしれない。下手な者に知られれば、そう考える可能性が高いと想像が出来る。
何か知っていると思われるだけでも危険なのだ。そうである以上、信頼出来る相手であっても、極力は秘密にしておく方が良いだろう。
……この力の正体は、高い指導力とでもしておこう。特別な潜在能力を持ち、オレが直接指導をした場合のみ、才能を開花させられるみたいにね。
そう決めたオレは、背後に気配を感じた。そちらに視線を向けると、こちらを見上げるアトリの姿があった。
「――あ、準備は終わったんですか?」
「うん、お待たせ。じゃあ、行こうか」
どうやら、オレ待ちだったらしい。アトリの後ろには、ツルハシを肩に担ぐヘイパスさんの姿もあった。
笑顔のアトリを伴い、オレはゆっくり歩き出す。ヘイパスさんも気負うことなく、オレ達の後をのんびりと付いて来る。
オレはカタリナさんと二人の騎士。そして、不機嫌そうなアルフレッドを加え、ダンジョン攻略を開始するのだった。
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