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作戦会議

 王様との謁見は無事に終わった。そして、オレ達は国賓として、丁重に持て成されることになった。


 想定外だったが、魔王復活の件はあっさり信じて貰えた。これは『大地の加護』を持つ、アトリの存在が大きかったと思う。


 魔王対策の準備については、サイフォスさんと詰めて行く予定となっている。必要になるのは軍備増強だけではない。食料の備蓄や外交等も考える必要があるからだ。


 更にヘイパスさんの雇用も決まった。『上位鑑定の水晶』で能力を確認し、凄腕の職人だと証明出来たからね。


 ただ、全てが最善だった訳でも無い。最も重要な部分に、懸念事項が残ってしまったのだから……。


「お師匠様……。聞いてた話と違う気がするのですが……」


「あー、うん……。アレは私としても想定外だったよ……」


 ベッドに腰掛けるオレに対し、アトリが声を掛けて来る。彼女とヘイパスさんは、備え付けの椅子に腰を下ろしている。


 なお、今のオレ達は用意された客室の中にいる。個別に部屋を用意されているが、集まっているのはオレ用の部屋であった。


 アトリは不満げにオレを見つめている。オレは苦笑を浮かべ、自分の考えを彼女に伝える。


「横柄な態度と言うよりは、警戒されてる感じだったかな? こちらを信用していないって雰囲気が感じられたよね」


「はい、凄く感じが悪かったです……」


 苦々し気な口調の為、アルフレッドの第一印象が最悪だとわかる。アトリは彼の事を、快く思っていないみたいだった。


 今のアトリとなら、上手くやれると思ってたんだけどね。どうしてアルフレッドの態度が、露骨に悪かったのは何故だろうか?


 疑問には思うが答えは出ない。この辺りについては、少しずつ探りを入れて行くしかなさそうだ。


 オレは内心で嘆息する。すると、ヘイパスさんから別件で質問が飛んできた。


「それで、これからどうするんです? ワシは工房を用意されるらしいが、兵士用の装備を作ってりゃ良いんですかい?」


「うん、そうですね。確かにそれも重要ではあります」


 兵士の兵装は高性能と言えない物だった。それは、城内を見ていて確認する事が出来た。


 ラナエール王国は平穏な土地であり、強い魔物との戦闘が日常的に発生しない。翻って、軍事方面にお金を掛けていないという状況にある。


 騎士の装備は多少マシだが、兵士の装備なんて貧弱である。弱い魔物なら問題無いが、魔王復活後には役立たずになってしまうだろう。


 それを防ぐためにも、今から兵装の見直しが必要となる。サイフォスさんとも相談が必要だが、なるべく早く一新してしまうべきだろう。


 ただし、個人的にはそれが最優先とは思っていない。ヘイパスさんにはもっと別に、彼にしか出来ない仕事があるのだから。


「それとは別に、魔鋼製の装備が必要ですね。アトリとアルフレッド王子用に、出来るだけ早く作ってしまいたいです」


「ああ、そういやその話もありましたな」


 道中に話していたので、ヘイパスさんも覚えていたみたいだ。彼にしか作れない魔鋼装備は、アトリとアルフレッドに必要な武具である。


 なにせ魔鋼は成長する金属であり、序盤から終盤までずっと使い続ける事が出来る。戦士職であるなら、最終的にはこれが最強装備にもなるのである。


 とはいえ、当然ながら作成には準備が必要となる。あの時の質問の続きを、ヘイパスさんはオレに投げ掛けて来た。


「それで、魔鋼はどこで手に入れるんです? この国でも手に入るって話でしたよね?」


 あの時のオレは、当てがあるとだけ答えていた。その当てが、早くも必要となった訳である。


 正直、こんなに順調に話が進むとは思っていなかった。けれども、話が早い分には、こちらとしても助かるだけだ。


「ラナエール王国の西に鉱山の街があります。そこから更に西に進むとダンジョンがあるんですよ」


「なるほど。鉱山系ダンジョンですか」


 ダンジョンは魔力が強い土地に生まれる。魔物が生まれやすい代わりに、魔力を宿したアイテムも手に入りやすい場所なのである。


 そして、魔鋼とは強い魔力が染み込んだ鉄から作られる。鉄が採掘出来る鉱山にダンジョンが生まれれば、高確率で魔鉄を採掘する事が出来る。


「それ程、魔力が高いダンジョンでも無いですしね。アトリやアルフレッド王子の修行を兼ねて、ダンジョン攻略に挑もうかと考えています」


「ダンジョン攻略……。緊張しますが、頑張りますね!」


 アトリが両手をぐっと握り、やる気に満ちた顔となっていた。ダンジョン攻略は初めてだろうけど、気合は十分という様子だった。


 なお、ラナエール王国の鉱山ダンジョンは、地上階と地下階のフロアに分かれている。地上階の魔物はLv5前後と比較的弱い。地下階はLv10前後とやや強い魔物が出る。


 まずは地上階でレベル上げを行い、レベルが上がったら地下も覗く予定だ。順調に行けば、アトリをLv10以上に鍛えることが出来るだろう。


「それじゃあ、ワシも同行しますかね。こう見えて、採掘の腕も中々のもんですぜ?」


「はい、お願いします。採掘の方は期待していますよ」


 ヘイパスさんのスキルは『上位鑑定の水晶』で確認済みだ。『採掘Lv2』を持っていたので、密かに目を付けていたりする。


 彼の方から同行を申し出てくれて助かった。後はサイフォスさんに話しを通し、ダンジョンへ向かう許可を貰えば良いだけだろう。


 しかし、アトリが難しい顔で考え込んでいる姿に気付く。オレは気になって、アトリへ問い掛けた。


「どうかしたかな? 何か気になることでも?」


 オレの問い掛けにアトリは顔を上げる。そして、少し躊躇った後に口を開く。


「その、王子も同行されるんですよね? 大丈夫なんでしょうか?」


 アルフレッドのことを心配している? いや、足を引っ張らないか気にしているのか?


 鑑定で確認したが、アルフレッドはLv3とレベルが低い。更には鉱山系の魔物は剣が効き辛く、アルフレッドの相性が良いとは言えなかった。


 鉱物系の魔物は斬撃・刺突に耐性を持つ。物理武器なら打撃系の鈍器が有効なのだ。それ以外なら、魔力の低い魔物が多いので、魔法で倒してしまうかだ。


 とはいえ、アルフレッドもダメージは与えられるし、いくらかのレベルアップもするだろう。少なくとも地上階だけであれば、問題が起こるとも思えないしね。


「うん、大丈夫じゃないかな。オレも警戒するし、護衛も同行するだろうしね」


「そう、ですね。お師匠様がいるんですから、万が一なんて起きないですね!」


 アトリのオレに対する信頼が厚い。期待されるのは嬉しいが、余り期待値が高すぎるのもプレッシャーだね……。


 オレは誤魔化すように咳払いをする。そして、話題を変えようと別の話を振った。


「そうそう、先程聞いたんだけど、お風呂を使って良いみたいだね。夕食を頂いた後に、誰かに案内して貰うと良いよ」


「お、風呂……? お風呂に、入れるんですかっ……?!」


 オレの提案にアトリが喰い付く。物凄い勢いで詰め寄られてしまった。


 ベッドに押し倒されそうな圧力だが、そこは何とか腹筋で耐える。襟元を締め上げられながら、オレは何とか返答を行う。


「あ、うん……。普段は王族用らしいけど、来客にも使用が許可されるらしいね。男女別になってるらしいし、安心して借りれば良いんじゃないかな?」


 アトリは大きく目を見開き、身を震わせてそっと離れる。じわりと涙が滲んだと思うと、その顔を両手で覆ってしまった。


「お風呂に入れる……。そんな日が、また来るなんて……。ありがとうございます……。ありがとうございます、お師匠様……」


「うう、すまん……。苦労を掛けたな、アトリ……」


 いや、まさかここまで感動されるとは……。というか、そんな涙交じりに感謝とかさ……。


 喜んで貰えたのは嬉しいけれど、今までで一番の感動がお風呂で良いの? それで報われたって思うんなら、オレは別に良いんだけどね……。


 何とも言えない気持ちとなり、オレはアトリの頭をそっと撫でる。彼女が嬉しいと言うならば、オレは何も言うまいと口を閉ざしたのだった。

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