救出
現場に駆け付けると、二人の人物が襲われていた。襲っているのは『グレイウルフ Lv6』が六匹。襲われているのは、ドワーフの親子であった。
そして、オレはその親子の名前に目を見開く。『ヘイパス=マナガン Lv10』、『アトリ=マナガン Lv1』。いずれも、オレが知るキャラクターの名前である。
だが、今はそれを確認している状況では無い。斧を構えるヘイパスさんは、体の至る所から血を流している。HP残量も50%を切り、非常に危ない状況だと判断した。
オレは距離の近い一匹に狙いを定める。そして、アイコンをタップして魔法を発動させた。
「ライトニング!」
――ガッ! ガガッ!! ズガガンッ……!!!
目が眩むほどの白い閃光。鼓膜が破けそうな程の轟音。その魔法の結果にオレは唖然となる。
グレイウルフだったものが、炭と化して倒れていた。白い煙が立ち上り、周囲に焼け焦げた臭いが充満している。明らかにオーバーキルだった。
なお、ゲーム上は魔力が高かろうが、スキルのレベルが高かろうが、エフェクトが変わったりはしない。
しかし、この結果を見ると、この世界では違うらしい。高い魔力とスキルレベルがあると、それに相応しい威力が結果として現れるみたいだ。
……ま、まあ、倒せたので良しとしよう!
オレは救援対象に、内心の焦りを気付かれぬ様にと平静を装う。幸いな事に、ドワーフ親子も対象の魔物も、オレの内心に気付いた様子はない。というか、余りの魔法の威力に、呆然と固まってしまっている。
オレは内心でホッとしつつ、冷静な部分で分析も行う。それは、固有スキル『不殺の誓い』が、魔物を対象としていないと気付いたからだ。
今のは明らかに手加減なんて無かった。このデメリットらしき固有スキルで、魔物を殺せない事は無さそうだ。これは、今後に繋がる重要な情報であろう。
オレの思考は数秒程度だったと思うが、その数秒で魔物も正気に戻ったらしい。警戒対象をオレに変え、こちらに向かって唸り声を上げて来る。
「「「ぐるるるぅぅぅ……!!!」」」
距離を測る魔物達に、オレは杖を構えて牽制する。そして、手元のアイコンに視線を落とした。やはり、ゲームの仕様通りでクールタイムが15秒あるな……。
連続で使用できれば瞬殺なのだが、流石にそこまで都合良くはないらしい。オレが内心で唸っていると、一匹のグレイウルフが飛び掛かって来た。
「ぐるぁぁぁ……!!!」
「ふん、遅いなっ……!」
戦士系では無いとは言え、こちらもLv30である。Lv6の魔物相手に後れを取る事は無い。牽制代わりに杖で殴りつけると、簡単に吹き飛ばす事が出来た。
「きゃんっ……?!」
弱々しい鳴き声を出しつつも、グレイウルフは綺麗に着地する。HPは40%程を減らしたが、致命傷と言う程のダメージでは無い。
いくらレベル差があっても、杖だけで殴り倒すのは大変そうだ。オレは素直に、復活したスキルアイコンをタップする。
「ライトニング!」
――ガッ! ガガッ!! ズガガンッ……!!!
杖で殴ったのとは別の一体を対象とする。白い閃光が再び弾け、また一匹が戦闘不能となった。
オレは慌てる事無く、杖を構えて牽制する。しかし、気付くと残りの魔物は逃げ出す所であった。想定外の行動に戸惑い、オレは思わず言葉を漏らした。
「ゲームと違って逃げるのか……」
オレの知るグレイウルフは、戦闘中に逃げ出したりはしない。例え不利な状況でも、最後までこちらに襲い掛かって来るはずだ。
しかし、普通に考えれば、この判断の方が正しいだろう。仲間が瞬殺されて、実力差はハッキリした。死ぬとわかって最後まで挑む必要はないのだ。
ゲームとの違いに感心し、オレは心のメモ帳に留めておく。そして、倒した二匹に視線を向けると、体が消滅して魔石と化していた。この辺りはゲーム通りかと内心で唸る。
やはり、基本は『救世のラナエール』と同じ仕様みたいだ。魔物は魔石を核とした魔法生物。倒すと核を残して消滅する。稀に魔石以外も落とすが、これに関しては要検証だな。
「さて、戦闘は終了で大丈夫かな?」
オレはマップを確認し、周囲に敵アイコンが無い事を確認する。グレイウルフはかなり遠くまで逃げたらしい。それ以外の魔物も、周囲には存在しないみたいだ。
「……ん?」
オレはマップの表示に首を傾げる。敵アイコン以外にも、ここから離れる存在がいたのだ。
中立アイコンなので、魔物でないのは確かである。だが、マップからはそれが何者かまでは、確認する事が出来なかった。
「まあ、良いか……」
オレは一先ず緊張を解く。これで魔物の脅威は去ったのだからね。
だが、ドサリという音が背後から聞こえて来た。振り向いたオレは、少女の叫びを再び耳にする。
「――父ちゃん、しっかり!」
アトリの泣き顔が視界に入る。父親のヘイパスさんは崩れ落ち、息も絶え絶えの状態となっていた。
血が流れ続けているのか、HPもじわじわと減り続けている。これは不味いと思い、オレは慌てて彼の元へと駆け寄った。
「――ヒール」
「え……?」
アトリは何故か驚き、ポカンと口を開いていた。しかし、父親の傷が治っていると気付き、嬉しそうにその腕にしがみ付いた。
血塗れなのは変わらないが、どうやら傷口は塞がったらしい。HP残量もほぼ満タンなので、とりあえずこれで大丈夫だと思いたい。
オレが様子を見ていると、ヘイパスさんがフラッとと立ち上がった。娘のアトリに支えられながら、彼はオレに向かって頭を下げて来た。
「……ふう。危ない所を助けて頂き、ありがとう御座いました」
「いえいえ、頭を上げて下さい。大した事ではありませんから」
結果的に、オレは命の恩人になるのだろう。ヘイパスさんが頭を下げる理由はわかる。しかし、オレは別に感謝が欲しい訳じゃない。オレにはオレで、別に目的があるのだ。
それは、この二人――マナガン親子と、良好な関係を築いておく必要があるからだ。何せ彼等はゲーム内での重要人物。出来るなら、今の状況を色々と聞かせて欲しいのである。
だが、何故かヘイパスさんの顔色が悪い。それは血を流し過ぎて、貧血気味という意味では無い。
気まずそうな表情で、視線をオレから逸らしているのだ。オレが首を傾げていると、彼はポツポツと話し出した。
「それで、その……。言い難いんですが、謝礼が払えねぇんです……。荷物を全て失くしちまったもんで……」
謝礼って何の事だろうか? この世界では命を救うと、謝礼するのが当然なのだろうか?
文化の違いという奴かもしれない。オレはパタパタと手を振り、気にしてないよと笑顔で告げる。
「いえいえ、謝礼は不要ですよ。困っている人を助けるなんて、当たり前の事ですから」
「「…………え?」」
オレの言葉に、親子揃って目を見開く。珍獣でも見るかの様に、ジロジロとオレは顔を見つめられた。
その視線に何となく居心地の悪さを感じる。オレは誤魔化すように笑いつつ、二人に対して問い掛けた。
「それに、荷物を失くしたみたいですしね。こんな森の中に居たのも気になります。事情を聞かせて貰えませんか?」
「は、はあ……。そりゃもちろん、構いませんが……」
オレの問い掛けに、怪訝そうにヘイパスさんが頷く。ただ、物凄く警戒されているのを感じる。
オレの言動の何がおかしかったのだろうか? オレは内心で首を傾げつつ、ひとまずは情報を聞き出す事にした。
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<[導師]アキラ(Lv30)>
HP:300、MP:300
攻撃:60、防御:60
魔力:90、魔法抵抗:90
速さ:60、器用さ:60
<装備>
・導師の杖(攻撃+15、魔力+15)
・導師のマント(防御+15、魔法抵抗+15)