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アルフレッド

 謁見の間に現れたアルフレッド王子。13歳の青年であり、ゲームで見るよりも幼く見える。ただ、炎の様な赤髪は、記憶の姿と重なっていた。


 白ベースのスーツを身に纏い、肩には金縁の真っ赤なマント姿。間違い無く、彼がアルフレッド=フォン=ラナエール。『救世のラナエール』の主人公その人である。


 アルフレッドは王様の隣に立つと、腕を組んでこちらに問い掛けて来た。


「私がアルフレッド=フォン=ラナエールだ。それで、この私に用事とは何だ?」


 アルフレッドは尊大な態度でこちらを睨んでいる。どうにも好意的とは思えない対応であった。


「で、殿下……?!」


 背後で控えるカタリナは、慌てて顔を青くしている。ジルクニル王は目を丸くしており、サイフォス宰相は顔を手で覆っている。しかし、それらを気にした様子も無かった。


 どういうことだ? オレの知るアルフレッドと、何やら雰囲気が違うのだが?


 ゲームでのアルフレッドは、気遣いも出来る理想的な王子様だった。正しく民を導こうと努力を重ね、誰に対しても親しみを持って接する好青年であった。


 それなのに、今のアルフレッドは目を細め、冷たい眼差しをこちらに向けている。友好的な関係を築こうという気配が微塵も感じられなかった。


 ゲームの開始時点まで、まだ二年と言う時間がある。二年間があるとは言え、その期間で別人みたいに変わるものだろうか?


「……ごほん。お初にお目にかかります。私は導師アキラです。本日はお時間を頂きありがとう」


「ふん、早く用件を言え。時間の無駄だ」


 お、おう……。氷の様に冷たく吐き捨てられたのだが……?


 あちらサイドは王様どころか騎士も含め、全員が顔を引き攣らせている。アルフレッドの態度に、どうして良いか困っている様子であった。


 困っているのはこちらも同じだが、固まっていても仕方がない。オレは笑顔を浮かべ、アルフレッドへと改めて説明を開始する。


「それでは、改めてまして……。私の目的はただ一つ。二年後に降臨する魔王への備えです」


「魔王だと? それは古の時代に、神々が封じたという魔物の王のことか?」


 アルフレッドの表情が歪む。明らかにこちらを、胡散臭い奴だと感じているみたいだった。


 ジルクニル王やサイフォス宰相は、オレの話をすぐ信じてくれた。しかし、アルフレッドの反応は真逆である。これが元々、オレが想定していた態度とも言えるのだが……。


 オレは問いに対して大きく頷く。そして、ひとまず話を進める事にした。


「その魔王を討伐するには、四人の勇者が力を合わせる必要があります。その一人というのが、『炎の加護』を持つアルフレッド王子なのです」


「ふん、やはりそういう話か。貴様も他の奴等と同じだな……」


 他の奴等とは誰のことだろう? その辺りの話も気になるが、素直に教えてくれるだろうか? 


 チャンスがあれば聞いてみようと思う。ただその前に、こちらの素性を話して、信頼を得る方が先だろうとは思う。


「そして、もう一人の勇者が彼女。『大地の加護』を持つアトリとなります」


「何だと? 『大地の加護』を持っているだと?」


 そこで初めてアルフレッドの表情が変わる。初めて気付いたかの様に、興味深そうな視線をアトリに向けたのだ。


 オレは良い感触だと安心する。そして、サイフォスさんに視線を受けて、あるアイテムを持ち出して貰うことにした。


「『上位鑑定の水晶』をここへ!」


 サイフォスさんの命令により、兵士がテーブルを運んできた。もう一人が丁重に水晶を抱え、柔らかなクッションと共にテーブルへと置く。


 見た目は一抱えもある大きな水晶玉。そして、そのアイテム名は『上位鑑定の水晶』。『鑑定Lv2』と同じ能力を持つ魔法の道具である。


 なお、『鑑定Lv2』では相手のステータス詳細を確認可能だ。『力』や『魔力』は勿論、スキルについても表示させることが出来る。


 ちなみに、『鑑定Lv3』は隠しステータスまで確認出来る。ゲーム上の重要な情報――アトリの真名など――も確認出来るのだが、取得するプレイヤーは稀であっただろう。


 何せあの世界にはWikiや攻略サイトがあるからね。スキルポイントを振らなくても、いつでも調べる事が出来るのだ。シナリオ攻略時に取りたがる人は皆無だったと思うよ。


 ……とまあ、話が脱線したが、目的のアイテムが用意された。サイフォスさんはオレに視線を向け、キリっとした表情で問い掛けて来る。


「では、導師様。アトリ様の鑑定をお願いして良いですか?」


「わかりました。ではアトリ、皆さんにお見せして下さい」


 オレに促され、アトリが前に出る。そして、緊張した面持ちで、『上位鑑定の水晶』へと手を触れた。


 すると、水晶玉にアトリの情報が浮き上がって来る。その表示結果は、こうなっていた。


===================

<[導師の弟子]アトリ / 13歳 / Lv6>

HP:70 (+21) / MP:50 (+15)

攻撃:14 (+4) / 防御:14 (+4)

魔力:16 (+4) / 魔法抵抗:16 (+4)

速さ:6 (+1) / 器用さ:18 (+5)


[スキル]

<大地の加護>

(土)アーススパイクLv2 / (土)ストーンレインLv1

大地の心得Lv2 / 瞑想Lv1

===================


「おお、凄いな……」


「やはり、本当に……」


 表示された結果に、ジルクニル王とサイフォスさんが感嘆の声を漏らす。ステータスの高さと共に、『大地の加護』の存在も示す事が出来た。


 これにはアルフレッドも考え込む様子を見せている。アトリが自分と同じ、神の加護を持つ仲間と理解したはずだ。


 まあ、それは良いのだが気になることも。水晶玉の表示内容が、思ったより少ない気がする。もっとスキルの効果とか、色々と情報がある気がするんだけどね……。


 オレは内心で首を捻る。しかし、そんなオレに対して、サイフォスさんは恐る恐る声を掛けて来た。


「もし、可能であれば、なのですが……。導師様の能力を見せて頂けないでしょうか?」


「私の能力を? ……ふむ、わかりました」


 一瞬、オレは躊躇ったが、すぐに了承する。驚かれるのは覚悟の上で、こちらの手の内を晒すべきだと判断したのだ。


 下手に隠すよりも信頼を得られるはず。それに何より、アルフレッドの育成を任せて貰う必要もあるのだ。こちらの強さは知って貰う方が都合が良いだろう。


 オレはアトリと入れ替わる様に前に出る。そして、水晶玉に触れると、こう表示された。


===================

<[導師]アキラ / 30歳 / Lv30>

HP:300 / MP:300

攻撃:60 (+30) / 防御:60

魔力:90 / 魔法抵抗:90

速さ:60 (+30) / 器用さ:60


[スキル]

<不殺の誓い>

(光)ライトニングLv5 / (光)ヒールLv3

マジックバリアLv5 / 瞑想Lv3

スタンLv1 / 武術Lv5

鑑定Lv1 / 採取Lv1 / 調理Lv1

===================


「光属性魔法……?! それも攻撃と回復魔法を……!」


「スキルがLv5……?! 上限はLv3では無いのか……!」


 ジルクニル王とサイフォスさんが叫び出す。その驚く内容に、オレは思わず眉を寄せる。


 Lv5が存在すること、光魔法を使える事に驚いている。前者はともかく、後者に驚くとは考えていなかった。


 ヘイパスさんから聞いた話でも、この世界ではLv3が最大と考えられていた。戦闘系スキルはLv5まであるが、その存在を知られていないのだ。


 だが、光属性魔法が珍しいのは初耳だった。数は少ないとは言え、ゲーム内では扱える者が数名居たはずだ。


 しかし、あの反応では相当にレア属性なのだろう。それがどの程度のレアリティかは、どこかで確かめる必要がありそうだな……。


 オレは脳裏で情報を整理しつつ、表面上は平静を保つ。すると、そんなオレに対して、ジルクニル王が情けない表情で口を開いた。


「これ程の力をお持ちであれば、導師様だけで魔王を討伐可能ではないのですか?」


 いやいや、この王様は何を言っているのだ? この程度でどうにかなるはずがないだろ?


 魔王を倒すには、この倍のレベルは必要だ。スキルだって貧弱で、魔王の幹部クラスすら厳しいと予想出来る。


 ……そうは思うが、今の彼等には想像も出来ないだろうな。サイフォスさんも、騎士さん達も似たような表情を浮かべているのだから。


 なるほど、これは世界が蹂躙されるわけだ。オレは内心で嘆息しつつ、厳しい視線をジルクニル王へと向けた。


「この程度では、魔王四天王――幹部の足元にも及びません。魔王討伐には四勇者の存在が必須。そして、その成長が不可欠なのです」


「「…………」」


 オレの回答にジルクニル王は青ざめた顔となる。サイフォスさんや騎士さんも、沈痛な面持ちとなってしまった。


 ただ、アルフレッドは無表情で考え込んでいた。そして、背後のカタリナさんは、そんな彼を心配そうに見つめているのだった。

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