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謁見

 これが謁見の間という奴なのか。ゲームやアニメでは見た事があるが、まさか実物を目にする日が来るとは……。


 赤いカーペットが敷かれ、それが玉座に続いている。当然ながら、玉座には王様が座っていらっしゃる。


 玉座の手前には、Lv15の騎士が二名。入り口の辺りには、槍を持ったLv10の兵士も二名。警備が厳重と言えるかは、オレには良くわからなかった。


 それはさて置き、カタリナさんから聞いた作法で、オレはすっと頭を下げる。すると、王様がオレに向かって声を掛けて来た。


「頭を上げて下さい、導師様。どうか、気を楽になさって下さい」


「はい、お気遣いありがとう御座います」


 オレは頭を上げ、王様に視線を向ける。王様は微笑みを浮かべて、こちらを見つめていた。


 王様の名前はジルクニル=フォン=ラナエール。真っ赤な髪と髭が特徴的で、体格もしっかりしていて若々しい姿だった。年齢は30歳前半で、オレより少し上くらいだ。


 なお、シナリオで知る限りは、彼は善良な王様だったはず。おかしな言動は無い代わりに、全てを周囲に任せるタイプだった。


 その為、この場で重要となるのは、王様では無く隣に立つ人物。宰相であるサイフォス=シルフィードである。


 先代の王様にも仕え、長く国を支え続ける人物。年齢も60歳近くであり、表情は穏やかだが視線は鋭い。


 オレが黙って様子を伺っていると、王様が咳ばらいをして口を開いた。


「いや、本当に気を楽にして下さい。正直、導師様を迎えるのに、この形式で無礼が無いかも不安だったくらいで……」


「……え?」


 不安気な面持ちを見せるジルクニル王。何故かソワソワして、こちらに愛想笑いを向けている。


 サイフォスさんは手で顔を覆い、呆れた様子で息を吐いていた。二人の騎士も目を伏せて、何とも言えない表情を浮かべている。


 どうも状況が読めない。出来る事なら、背後のヘイパスさんの様子を見たい所だ。しかし、それが無礼かもと思い、オレは身動きが取れずにいた。


 すると、サイフォスさんが一歩前に出る。そして、この場を取り仕切り始めた。


「お見苦しい所をお見せして申し訳ない。陛下は少々小心者でしてな。伝説の導師様を不快にさせまいかと、とても気を揉まれていたのです」


「伝説の導師様って……。それはどういう意味でしょうか?」


 この違和感は何だろう? やはり導師って特別な存在なのか? これまで出会った人々からは、そんな印象を受けなかったのに?


 オレの戸惑いに、サイフォスさんも気付いたらしい。興味深そうにこちらを観察しながら、オレに対して説明してくれる。


「導師様はこの国の成り立ちをご存じでしょうか? 火の一族が、この地へ辿り着いた伝承です」


「いえ、聞いた事が無いですね。その伝承というのに、導師が関わっているのですか?」


 ラナエール王国の成り立ちなんて、ゲーム内では語られなかった。語られてはいなかったが、裏設定として存在したのだろうか?


 しかし、今は確かめる術がない。オレは大人しく、サイフォスさんの話に耳を傾けた。


「かつてラナエールの民は、南海の島に住んでいたそうです。しかし、大地が枯れて砂漠と化し、その地で生きるのが困難となったのです」


「ほう……?」


 そんな話は知らないが、砂漠の島なら心当たりがある。ダウンロードコンテンツの追加クエストで、アイテム採取に向かう島である。


 それと同時に、その話になるほどとも思う。ラナエール王国は火神ヴァルマを信仰している。アルフレッド王子も、2年後には『火の勇者』になるしね。この話が『炎の加護』のルーツなのだろう。


「滅びに向かう火の一族の前に、ふらりと現れたのが導師様です。山々に囲まれたこの地を目指し、開拓して国を興せと導いて下さったのです」


「そんな過去が……」


 ラナエール王国は山に囲まれた陸の孤島。文化も人柄も、はっきり周辺国と違っている。


 その理由がこの成り立ちなのかもしれない。南の島国で暮らした民が、この地に移り住んだ結果なのだろう。


「我々を守り、この地まで導いて頂いたのです。王侯貴族の間では、守護聖人として扱われています。ただ、市民の間では童話として簡略化され、親切な旅人みたいな扱いのようですがね」


「ああ、それで……」


 道中の馬車や宿場町でも、親しみを込めて接してくれた。ただ、珍しそうにはしても、特別な存在としては扱われなかった。


 しかし、今回は要人扱いで招かれた。それは、王侯貴族の間では正しい伝承が残されていたから。そもそもの認識に差があったからなのだろう。


 導師がどういう存在か、少し理解が深まった。少なくともラナエール王国では、こういう認識だとは理解出来た。


 だが、オレはふと気が付く。サイフォスさんの顔から笑みが消えた。鋭い視線になり、オレに対して硬い声で問掛けて来たのだ。


「導師様にまつわる話は、各地で多く残っています。いずれも救国に関わる逸話です。……しかし、我が国に現れたのは500年前のみ。その導師様が再び現れたのは、どういった理由でしょうか?」


 サイフォスさんの緊張が伝わって来る。いや、それはジルクニル王や、目の前の騎士達も同じである。


 オレの出現を特別なものだと考えている。ここに現れた理由が、何か大きな物だと考えて不安に思っているみたいだった。



 ――あれ? この流れって、魔王の話をしても良いのでは?



 どう誤魔化しつつ、話を通すかと色々と考えて来た。しかし、そんな嘘を吐かなくても良い流れだよね。


 オレは背後を振り向き、ヘイパスさんとアトリを見る。二人は真剣な表情で頷いていた。二人の素性を話しても良いみたいだ。


 なら、全てをありのままに話してみるか。その方が後で拗れずに済むし、話が早くて楽な気がするしね。


 オレは再び前を向く。そして、サイフォスさんとジルクニル王に向けて、オレの目的を話し始めた。


「これから二年後に、魔王がこの世界に降臨します。何の備えもなければ、大陸全土に魔物が溢れかえり、人類の半数が死滅するでしょう」


「「――なっ……?!」」


 サイフォスさんも、ジルクニル王も絶句していた。護衛の騎士も同じく驚いた表情である。


 ただ、疑っているという感じでも無い。真っ青な表情をしており、事の重大さに恐れを感じている風であった。


「しかし、この大陸には魔王を倒せる四人の勇者が存在します。その勇者を育てつつ、魔物の脅威に備えれば、人類側の被害を抑えられるはずです」


「四人の勇者、ですか……?」


 サイフォスさんがスッと目を細める。動揺は既に収まり、冷静に計算しようとする瞳だった。


 オレは流石だなと感じる。そして、サイフォスさんを見つめ、その問いに答える。


「一人は既にこの場に。ドワーフ族の姫にして、『大地の加護』を持つ『大地の勇者』アルトリア=ピースクラフトです。――今は訳あって、アトリ=マナガンと名乗っています」


「わ、私がアトリ=マナガンです……!」


 オレの紹介に慌て、アトリが名乗りを上げる。皆の視線が彼女へと集中する。


 そして、すぐにサイフォスさんの表情が変わる。ハッとした表情で、ポツリと呟いたのだ。


「『大地の加護』……。ということは、つまり……?」


「はい、その通りです。四勇者の一人。『炎の加護』を持つ『火の勇者』。それこそが、アルフレッド王子なのです」


 オレの話を聞いて、ジルクニル王が立ち上がる。慌てた様子で、扉側の兵士に命令を飛ばす。


「ア、アルフレッドを呼べ! 急いでこの場に!」


 ジルクニル王の命により、兵士の一人が慌てて飛び出す。アルフレッドの元に向かったみたいだ。


 そして、その様子をサイフォスさんは冷静に見つめていた。静かに視線をオレに向け、言葉を選んで問い掛けて来た。


「導師様が訪れた理由……。それは、つまり……。人類の滅亡を回避するため、でしょうか?」


「――その認識で問題ありません。可能なら、少しでも人類の被害を抑えたいと考えています」


 ジルクニル王がドサリと玉座に腰を落とす。その顔は引き攣っており、明らかに動揺が抑えられていない。


 サイフォスさんは表面上は落ち着いて見える。しかし、その手は震えており、ゆっくりと深呼吸を繰り返していた。


 少し脅かし過ぎただろうか? オレが介入しなくても、実際は人類が滅亡しない訳だし……。


 とはいえ、危機感を持って貰うのは良い事のはず。事前に準備が出来ていれば、それだけ被害は抑えられるのだから。


 とにかく今は、この流れで突き進むしかない。そう考えながら、オレは主人公アルフレッドの登場を待つのであった。

少しでも面白いと思って頂けましたら、

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