表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/53

出迎え

 ラナエール王国の首都ロービュスト。その中心に聳え立つのがラナエール城である。


 建てられたのは500年前らしい。その足元から眺める城壁は、歴史を感じさせるものであった。


 オレ達三人はのんびり歩きながら、城門脇の詰所へと向かう。ここに見張りの兵士が常駐しており、入城手続きを行ってくれると聞いて来たのだ。


 オレ達が中に入るとすぐに、受付カウンターに座る兵士を発見した。兵士側もこちらに気付き、笑顔で応対を行ってくれる。


「ようこそ、ラナエール城へ。ご予約はお済でしょうか?」


「いえ、これから国王陛下への、謁見予約をお願いします」


 相手の兵士は十代半ばの若者であった。簡素な鉄鎧を身に付けており、『ニコル Lv3』と表示レベルも低い。恐らくは、兵士見習いなのだろう。


 彼はニコニコと笑みを浮かべている。オレは書類を準備する姿を眺めつつ、彼に対して話し掛けた。


「通常、予約をして謁見出来るまで、どの程度掛かるものですか?」


「うーん、早くて三日でしょうか。タイミングが悪いと一か月後って事もありますけどね」


 流石に一か月後は厳しいな。宿を借りるにもお金が掛かるし、稼ぎを考える必要が出て来る。


 せめて、ヘイパスさんだけでも先に売り込めないかな? 彼が鍛冶師として稼いでくれれば、最悪はオレ一人分だけどうにかすれば良くなる訳だしね。


 オレが腕を組んで唸っていると、彼はオレ達の恰好を確認する。そして、何かを察した様子で微笑んだ。


「皆さんは旅の方ですよね? なら、お勧めの宿を紹介しますよ。手頃な値段でサービス満点。長く泊まるなら、そこが一番ですね」


「へえ、お勧めの宿屋ですか? ちなみに、その宿屋の名前は?」


「はい、『金の風見鶏亭』と言います。旅人には人気の宿ですよ」


 なるほど。『金の風見鶏亭』なら知っている。ゲームにも登場して、シナリオ上の主要キャラが泊まっていた場所だ。


 安宿でも高級宿でも無い。本当に手頃な宿を勧めてくれたらしい。彼の人柄故なのか、本当に親切で教えてくれたのだろう。


 信頼出来る相手とわかり、彼への好感度が上がる。そんな彼は準備が出来たらしく、羽ペン片手に職務を開始し始めた。


「それでは、いくつか質問を。まずはお名前と、謁見の目的について……」


 彼は質問の途中で口を閉ざす。そして、その視線はオレ達の背後へと向けられていた。


 カチャリという金属音と共に、誰かが入って来たらしい。そちらに振り向くと同時に、その人物がオレに声を掛けて来る。


「失礼。『導師』アキラ様で宜しかったでしょうか?」


「あ、はい。『導師』のアキラであれば私ですが……」


 問い掛けて来た人物は、フルプレートアーマーの騎士であった。白銀に輝く鎧を纏い、肩に掛けた真っ赤なマントが目に鮮やかだ。


 だが、それ以上に驚きなのは、相手が女騎士であったことである。肩で切りそろえたブロンドヘアーに、鋭い眼差しのブルーアイ。


 年齢は20代の半ばだろう。凛々しい顔立ちでとても美人だ。絵に描いた様な女騎士の登場に、オレは感動すら覚えていた。


 そして、オレが見惚れていると、相手はニコリと微笑んで来た。彼女は胸に手を当て、スッと頭を下げた。


「入れ違いにならず助かりました。私の名はカタリナ=グレイシス。第一王子であらせられる、アルフレッド殿下の護衛を務める者です。此度は国王陛下の命により、導師様をお迎えに参りました」


「国王陛下の命によりだって……?」


 まだ、城下町に入って一時間やそこいらだ。それでどうして、王様からの呼び出しがかかる?


 それに、彼女がアルフレッド王子の護衛? ゲームでは見た事が無いぞ。居たら人気確定キャラなので、忘れたとは思えない。


 ただ、頭上の表示はLv16と、それなりにレベルが高い。護衛の騎士でも不思議では無い強さだ。そんな彼女がお使いに出されるのも謎なのだが?


 疑問符が頭上を駆け回るオレに、彼女が柔らかく微笑む。そして、オレの疑問を察したらしく、わざわざ説明を行ってくれた。


「街に入る際に、鑑定を受けられましたよね? 要人が参られました際には、宰相様に即時連絡が届く体制となっています。そして、たまたま宰相様の近くに私がおり、急ぎ出迎えに向かう様に指示を受けた次第です」


「えっと……。要人って、オレのことですか?」


 オレは自分を指さし尋ねる。彼女は真顔で頷き返してきた。どうも冗談では無さそうだ。


 想定外の事態に戸惑い、オレは両隣の二人を確認する。ヘイパスさんも、アトリも、驚きで目を丸くしている。二人も状況が理解出来ていないみたいだった。


 オレが再び視線を戻すと、彼女が先導する様に出口へ足を向け始めた。そして、オレに対してこう告げた。


「国王陛下と宰相様がお待ちです。すぐに謁見可能ですので、ご案内させて頂きます」


「あ、はい。それでは、お願いします」


 心の準備が出来ていないのだが? ただ、ちょっと待ってと言える空気では無いよね……。


 オレは諦めて、彼女の後に付いて行くと決める。ただ、少し気になって背後を見ると、兵士の彼がガチガチに固まっている姿を発見した。


 騎士の登場に緊張したのだろうか? それとも、オレが要人と思ってだろうか?


 いずれかは分らないが、それはどちらでも良いだろう。オレは親切な青年に対し、手を振って別れを告げる。


「受付途中に済みません。では、行ってきますね」


「い、行ってらっしゃいませ! お気を付けて!」


 彼は慌てて頭を下げる。直角まで深々と下げる最敬礼と言う奴である。


 まあ、それは良い。ただ、ヘイパスさんと、アトリも最敬礼をしているのは何故だろう?


 二人も一緒に行くって、わかっているよね? まさか、ここに残るつもりじゃないよね?


 不安に思ったオレは、二人の手を引いて歩く事にした。謁見の目的には二人の紹介も含むのだ。このまま勢いで残られては困るからね。


 ガチガチに固まった二人を引き連れ、オレは王様への謁見に向かう。そんなオレ達を不思議そうに見つめながら、女騎士カタリナさんは前を歩き始めた。

少しでも面白いと思って頂けましたら、

ブクマと★星を入れていただけますと嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ