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入国

挿絵(By みてみん)

※AI画像生成によりイラストを作成しています。

 簡単なものでしたら、ご依頼も受けたいと思います。


第二章の開幕です。

引き続きお楽しみ頂けると嬉しいです!

 森を抜け、山を越え、やって来たのはラナエール王国。山自体が国境となっていたが、関所のようなものは特に無かった。


 そして、一日歩いて農村に到着。宿場町も兼ねているらしく、宿に泊まって温かなベッドで眠る事が出来た。


 ちなみに、支払は埋葬時に失敬した遺品からだ。遺品の回収には抵抗があったが、ヘイパスさんとアトリから、貰うべきだと圧力を掛けられた。


 どうせ放置しても、通りかかった誰か取られる。それなら供養してあげた、オレが貰うべきだと言われたのである。


 それに、血濡れのシャツを着替えたかったのもある。流石に着ていた服を剥いだりはしなかったが、最終的には馬車の荷物を頂戴する事になった。


 そんなこんなで、オレのアイテムボックスに様々な遺品が眠っている。それらを使うかは不明だが、お金だけは早速役立つ事になった感じだ……。



 ――それはさておき。



 宿場町で一泊すると、幸いな事に馬車を拾えた。オレ達はその馬車に同乗し、王都に向かう事になったのである。


 馬車には五日間揺られたが、何事もなく王国まで辿り着けた。オレの仲間と言う事もあり、アトリ達に冷たく当たる人達も居なかった。


 むしろ、オレの手料理が効いたのか、和気あいあいとした空気だった。皆で仲良く旅を出来た事で、アトリも心の闇を再発せずに済んだ。


 そうして辿り着いたのが王都ロービュストである。王城を中心に城下町が展開し、その城下町を覆う様に城壁が築かれている。


 オレ達は入場門で一旦降りると、手続きの為に受付へと向かうのだった。


「――それでは、次の方どうぞ」


「どうも、宜しくお願いします」


 受付手続きを行っているのは、この国の兵士らしかった。軽装な鎧を見に纏った男性が、笑顔でオレを迎えてくれた。


 そして、彼は視線を落として、受付台の水晶を見る。どうやら、これに触れろと言うことらしい。


 ちなみに、これは『鑑定の水晶』である。ゲームには登場しなかったが、『鑑定 Lv1』と同じ効果を持つアイテムだとか。馬車の中で同乗者から聞けた話だ。


 これで名前と職業とレベルが判別できる。その情報と簡単な聞き取りを経て、お金を払えば入場となるそうだ。


 大きな街なら何処でも行う検査らしい。そして、『盗賊』『殺人鬼』『詐欺師』等で無ければ、基本的には問題になる事はないらしい。


 その様に聞いていた為、オレは気楽な気持ちで水晶に触れる。すると、水晶を覗き込む兵士は、その目を丸くする。


「ん、導師様? それもLv30ですか。いや、これは凄い……」


「えっと……。何か問題でも?」


 やはり、職業かレベルが引っ掛かったか? そう不安に思ったが、兵士は苦笑を浮かべて首を振る。


「いえ、珍しい物を見たなと思いまして。問題はありませんので、手続きを進めましょう」


「そうですか。それは良かった……」


 ほっと胸を撫で下ろし、オレは兵士の質問に答えて行く。街に入る目的とか、滞在期間がどの程度とかだ。


 元の世界でも海外に行けば、こんな入国検査があったはずだ。そう考えると、特別な対応は何も無かった。


 ヘイパスさんとアトリも、対応としては似た感じである。オレ達は入場料を支払うと、すんなりと街へ入る事が出来た。


「思ったよりも何事も無かったな……」


「何か起こると期待してたんですか?」


 アトリが隣でオレを見上げ、おかしそうに笑っていた。オレは苦笑を浮かべて首を振った。期待と言うか、不安を感じてはいたのだけどね。


 ただ、馬車の中でも同乗者に『導師』と伝えたが、凄いですねと言われるただけだ。それ以外は普通に接してくれた。


 『導師』やレベルについては、思ったよりも気にしなくて良いのかもしれない。オレは肩の荷が下りた気分で、二人に対して声を掛けた。


「まずは、お城へ向かいましょうか? 王様への謁見申し込みが必要みたいですし」


「そうですな。まだ昼前ですし、その後に昼食と宿を探す感じで良いと思いますよ」


 オレの提案に、ヘイパスさんが同意してくれる。特に異論はないみたいだ。隣でアトリも頷いている。


 先程、兵士からも聞いたが、謁見はすぐに出来ないそうだ。予約を入れて王様の予定を確認し、早くても数日は掛かるだろうと言われた。


 来客がある際や、遠地への訪問予定があれば、更に遅くなる事もある。まあ、そういう理由もあって、とりあえず先に予約という感じである。


「じゃあ、城に向かうとするか」


 オレを先頭にして、城に向かって歩き出す。中心に聳え立つラナエール城は、街のどこからでも見る事が出来る。マップを見ずとも迷う事は無さそうだ。


 それに、オレにはゲームの記憶もある。始まりの街として、この辺りは何度も歩いた。道具屋、武器屋、鍛冶屋などの位置も覚えており、オレにとっては庭みたいなものだ。


「……いや、鍛治屋は無いのか」


 オレは小さく呟くと、背後のヘイパスさんに視線を向ける。彼は物珍しそうに、いくつかの商店を覗き込んでいた。


 そして、それらの商店は、プレイヤーに有用では無かったからだろう。ゲームでは存在しなかった、生活用品店が多く存在していた。


 その逆に、最も利用していたマナガンの鍛冶屋は存在しない。彼がこの王都に来たばかりで、店を手に入れていないからだ。


 そう考えると、ここはオレの知る城下町では無いのかもしれない。時間があれば、改めて散策しても面白い発見があるかもしれないな。


「……ん?」


 マントが引かれるのを感じ、アトリの方へと視線を向ける。しかし、意図して引っ張った訳では無いみたいだった。


 アトリはマントを握りしめ、周囲をキョロキョロと見回している。目をキラキラと輝かせ、とても楽しそうに笑みを浮かべていた。


 そして、オレが見つめていると気付き、ハッと俯いてしまう。頬を赤らめると、上目使いでポツポツと語りだす。


「あの、すみません……。こんなに堂々と、街を歩くのが初めてで……。お師匠様が居ると、周りからも冷たい目を向けられませんし……」


「ああ、なるほどね……」


 ここまでの馬車でも、しばらくアトリは人目を気にしていた。どうも乗客から、冷たく扱われると考えていたらしい。初日はオレの隣で、ずっと縮こまっていたのだ。


 しかし、オレが周囲に話を振り、会話が和むとアトリにも変化が起きた。他の乗客もアトリに話し掛けるし、それで彼女の緊張も徐々に解けていったのである。


 その結果、最後の方は他の乗客と、普通に会話が出来ていた。ただし、それは彼女の中で、オレが傍にいたお陰と思っているのだろう。


 まだまだ、人間全体を信用している訳では無い。この国の人達が、他とは違うと理解出来ていないのだろう。


 アトリの考えを理解して、オレは彼女に微笑みかける。そして、オレの考えを彼女に伝える。


「事前に説明した通り、この国に亜人差別はないからね。むしろ、住人の人間以外が珍しく、殆どの人がドワーフ族を見た事が無いんじゃないかな?」


「そうなんですか? 私が人間じゃないって、誰も気付かないんですね……」


 不思議そうな表情で、アトリは街の様子を確認する。しかし、どこを見ても人間以外の種族は見当たらない。


 陸の孤島と呼ばれるラナエール王国。この地にやって来る、他国の人間は非常に少ない。せいぜいが、南のガーランド王国からの商人くらいだろう。


 一応、西には獣人国が存在するが、そちらとの交流も乏しい。稀に取引があったとしても、わざわざ獣人が王都までやって来る事はないはずである。


 なので、住人がドワーフ族に気付かない可能性は高い。ドワーフ族は背が低くて、耳が少し尖っている程度。良く見なければ、人間との見分けがつきにくいしね。


「そういう訳だから、もっと気楽にして大丈夫。安心して街の様子を楽しんだら良いよ」


「はい、わかりました! ありがとうございます!」


 アトリは嬉しそうに笑みを零す。満面の笑みを見て、こちらまで笑顔になってしまうね。


 そして、アトリは街の観察に戻るのだが、マントは握ったままであった。無意識なのか、その手を離す気配が無かった。


「……うん、まあ良いかな」


 それでアトリが安心出来るなら、そっとしておくべきだろう。敢えて指摘する必要も無い。


 アトリには五年間の辛い記憶がある。それをすぐ消し去れるはずが無い。この国で生活しながら、少しずつ薄れて行くのを待てば良いのだ。


 そう考えたオレは、アトリに合わせてゆっくり歩き続ける。彼女の歩調に合わせ、急かす事なく歩き続けるのであった。

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