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ダライ族の英雄(ヴォーグル視点)

 俺は祖国へ向かう為に、まずは港町へと駆けていた。ミズガル合衆国の一部である我が森は、海を越えねばならぬ場所にあるからだ。


 そして、街道を走りながら、今日の出来事を思い返す。初めて出会った『導師』様。その圧倒的な存在に、今でも信じられない気持であった。


「凄まじかった……」


 俺はこれでも部族一の英雄と言われた男だ。過去のどの戦士よりも、優れた実力者だと他種族からも認められている。


 種族の中でも、一部の戦士だけが目覚める力。『魔眼』を使えているのが理由の一つ。この力は、血脈と努力が揃って初めて手に入るのだ。


 更には武器の扱いに長け、多くの人間を殺した事も理由の一つ。ベイル暗殺団に強制されたとはいえ、俺程に人を殺した戦士は居ないはずだ。


 ここ数年で、俺は自分より強い者に出会ったことが無い。俺より強い存在など、西大陸では数える程しか居ないだろう。


 それだと言うのに、俺は導師様に勝てるイメージが湧かなかった。短期決戦の為に捨て身の攻撃をされた時以外、まともに攻撃を当てる事すら出来なかったのだ。


「武術をマスターか……」


 二本の短剣による剣術は、我流とは言え達人の域だと自負している。武器の扱いに関しては、誰にも負けないという自信を持っていた。


 しかし、俺は剣術を極めたと言えるだろうか? 高みに達したと言えるだろうか?



 ――否、言えるはずが無い。



 導師様の武術は、遥か高みに達していた。あの動きを見せられた後では、オレの剣術は児戯に等しいと思えてしまった。


 俺は自信を完全に砕かれた。しかし、その自惚れを砕いて貰った事で、更なる高みを知れたとも言えるのだが。


「まだまだ、なのだな……」


 導師様は十五人居た暗殺者を、全て殺さず一撃で沈めていた。殺すだけなら俺でも出来る。しかし、殺さぬ様に手加減し、一撃で仕留めるなんて芸当は無理だ。


 どれ程の修練を積めば、あの高みに至れる? そもそも、俺はその高みに至れるのか?


 恐らく、その実力は暗殺王ベイルをも超えるだろう。ミズガル合衆国の中で、導師様を超える実力者は存在しない可能性すらある。


「その上で、あの魔法か……」


 珍しい光の魔法を使っていたが、あの威力は驚異的だった。まさかこの俺が、たったの一撃で戦闘不能に追い込まれるとはな……。


 それと言うのも、『魔眼』に目覚めた者は、高い魔力耐性を得る。並みの魔法では大きなダメージとならないはずなのだ。


 導師様は『魔眼』の効果を知っていたらしく、最後のトドメでしか使わなかった。しかし、『魔眼』がなければ、防ぐ事も、回避する事も出来ずに、一瞬で終わっていただろう。


 あの魔法は人に対しては過剰な能力だ。恐らくは、より強大な存在と戦う為にある気がする。例えるならば、ドラゴンみたいな強大な脅威に対して……。


「ふっ……。実在するならば、だがな……」


 ドラゴンなんて、物語の中でしか語られない存在である。人の踏み込めない秘境にのみ、居ると言われている伝説の存在なのだ。


 それらのために魔法を極める? 普段の俺なら与太話と笑うだろう。しかし、実際に極めた技を見せられては、笑うに笑えなかったがな……。


「更には、あの治癒の魔法も……」


 回復魔法は習得が難しいと聞く。教会が知識を秘匿し、習得する事すら困難なのだ。


 その上で俺は、瀕死の状態から瞬時に回復した。あれ程の腕となると、教皇や大司祭の様な一握りの上位者と肩を並べるはずだ。


 通常ならば教会に駆け込んでも、時間を掛けての治療となる。瀕死の重体ならば、数人がかりで重ね掛けが必要となるのだ。


 それをたった一人で、あっという間に癒してみせた。治癒魔法の使い手としても、間違い無く大陸屈指の実力者であろう。


「本当に規格外だったな……」


 しかも、これ程の傑物でありながら、大陸に名が知れ渡っていない。これ程の腕を持ちながら、今まで何処に潜んでいたと言うのだろうか?


 どんな場所でも活躍が出来る。どの国だろうと腕を望まれる。それ程の実力者が、噂にすらならない理由が俺にはわからなかった。


 いずれかの組織が秘匿して来たのだろうか? そう考えると納得出来る。しかし、あれ程の人物を育成可能な組織は、俺には思い当たらないがな……。


「いや、出自なんてどうでも良い……」


 交わした会話は僅かな時間。その全てを理解したとは言い難い。それでも、導師様が信頼に足る人物だとは確信している。


 柔らかな物腰もそうだ。穏やかな表情もそうだ。だが、それ以上に物語っていたのが、ドワーフの少女に向ける眼差しであった。


 真剣に身を案じ、我が子の様に愛情を注いでいた。亜人と見下す所か、慈愛に満ちた眼差しを向けていたのである。


「何者であっても構わない……」


 滅びを覚悟した我が一族に、進むべき道を示してくれた。救いの手を差し伸べて下さったのである。


 あの御方が嘘を付いているはずがない。あの御方の話した内容を、俺は真実だと信じていた。


 何故ならば、あの御方は『導師』様なのだ。それは特別な存在。この世界に住む者ならば、誰もが知っている事実なのだから……。


「――導師アキラ様。ダライ族一同は、必ずこのご恩に報います」


 獣人族は受けた恩を決して忘れない。我が一族が救われたその時、我等は導師アキラ様を崇める事となるだろう。


 憎き人間達が相手であろうとも、その手を取り合って見せる。過去の恨みだって、水に流してみせる。


 我等が恩人がそう望まれるのだ。獣人族と人間が手を取り合うべく、我が一族がその橋渡し役となってみせよう……。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます!

これにて第一章が終了となります。<(_ _)>


次の第二章からは、一日一話を予定しています。

それと、次からの更新は0時となります!


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