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行き先

 無事にアトリを説得出来て良かった。仏教らしき話になったけど、故郷の考えという事で誤魔化せたと思う。日本の話だし、嘘はついていない。なのできっと問題無いはずだ。


 ……とはいえ、先程の現象には本気で焦ったよ。魂が昇天したみたいな現象ね。


 あれは導師の能力だったりするのだろうか? その場合、本当に神様の元に召されたのだろうか?


 まあ、きっと考えても、答えなんて出ないだろうね。オレはそう考えて、すぐさま思考を放棄するのであった。


 なお、アトリが落ち着いたのを、二人は確認したらしい。ヘイパスさんとヴォーグルさんが、こちらに戻って来る所だった。何も見てなかったかの様に、二人でわざとらしく談笑等しながらね。


 ただ、すぐ側まで来たヴォーグルさんは、ふとアトリと視線がぶつかる。そして、ふっと笑みを浮かべて、彼女の頭にポンと手を置いた。


「何はともあれ、無事で良かった」


「え? ありがとうございます?」


 戸惑った表情でお礼を告げるアトリ。ただ、ヴォーグルさんの言葉を不思議に思い、キョトンと小首を傾げていた。


 まあ、そうれもそうだろう。オレだって今の言動には首を傾げざるを得ない。暗殺団の仲間だった彼が、どうしてアトリの身を案じて……。


「――いや、そういう事か……!」


 不意にオレの中で、点と点が繋がった。今まで見えていなかった、本来のあるべき姿が理解出来た。


 オレがアトリ達と初めて出会った時――二人が魔物に襲われていた際に――実はヴォーグルさんも側に居たのだ。オレが救出した後、離れて行った中立アイコンは彼だったのだろう。


 そうでなければ辻褄が合わない。魔物に襲われたアトリ達は、オレに出会わなければどうなっていた? 自力でピンチを抜け出せただろうか?



 ――否。自力で助かるはずがない。



 本来のシナリオでも、誰かが助けたはずなのだ。そして、二人を庇いながら、魔物を倒せるだけの実力がある者。この場では、ヴォーグルさん以外に考えられない。


 オレが介入していなければ、本来は彼が助けるはずだった。亜人と蔑まれる仲間として、盗賊団を裏切って二人を見逃したのだろう。


 その事に気付いたオレは、思わず言葉を零してしまった。


「うーん、余計なお世話だったかな? わざわざ、私が助けるまでも無かったのか……」


 オレの呟きに、ヴォーグルさんの耳がピクリと動く。そして、驚いた表情でオレを見つめる。


 そして、言葉の意味を理解したのだろう。彼は真剣な表情で首を振った。


「そんな事はありません。あの場は間違い無く、導師様の方が相応しかった。私では助け出せたとしても、怪我の治療までは出来ませんでしたので」


「……ふむ、それもそうですね」


 確かに傷付いたヘイパスさんは、治療を必要とする状況だった。森の中では応急処置が精いっぱい。時間を掛けつつ、命からがら何とか生き延びる状況になっただろう。


 それを考えれば、オレが助けた方が良かったと言える。ヘイパスさんの傷を癒せたし、アトリを弟子にする事も出来たしね。


 そして、利点はそれだけではない。何故ならばオレは、ヴォーグルさんと出会えた。彼等の未来も、変える事が出来たのだから。


「さて、それでは私はこれにて。次に出会えた際は、必ずお礼をさせて頂きます」


「いえいえ、お礼なんて不要ですよ。それより、早く仲間を助けてあげて下さい」


 パタパタと手を振るオレに、ヴォーグルさんは爽やかな笑みを浮かべる。そして、深々と頭を下げると、踵を返してオレ達とは逆の道へと歩み出した。


 しかし、離れるヴォーグルさんの背中を見て、彼に掛けるべき言葉が思い浮かんだ。去り行く彼に向かって、オレは声を張り上げた。


「人間全てが敵ではありません! 貴方の助けになる人もいます! その事を忘れないで下さい!」


 オレの言葉にヴォーグルさんが振り返る。驚いた表情であったが、すぐに笑顔で手を掲げる。


 オレの言葉はきっと届いたはずだ。彼は清々しい表情のまま、再び自分の道を歩み始めたのだから。


「さて、これで未来は変わるかな?」


 二年後の魔王復活の際に、ミズガル合衆国はかなり悲惨な状況となる。連合軍が結成された際も、ドワーフ族や獣人族から信頼を勝ち得るのには苦労するのだ。


 しかし、ヴォーグルさんの進む道が変わった。人間に反発する集団のリーダー格が彼であり、その彼が人間と和解する可能性が出来たのだ。


 この影響がどこまであるのかはわからない。けれど、本来のシナリオよりは、きっと良い未来に繋がっているのだろう。いや、そうあって欲しいとオレは願う。


「お師匠様? どうかしましたか?」


 アトリの声にハッとなる。かなり小さくなった彼の背を、オレはいつまでも見つめ続けていたのだ。


 オレは苦笑を浮かべてアトリの方を向く。そして、何でも無いと首を振って答えた。


「それでは、私達も次の目的に向かいましょうか」


「はい! 向かう先は、ラナエール王国ですね!」


 元気いっぱいに応えてくれるアトリ。そのはつらつとした声に、オレは思わず笑みを浮かべる。


 今のアトリからは、先程の陰が感じられなかった。光溢れるその眼差しは、彼女が前向きになった証なのだろう。


 そして、今のアトリになら、話しても良いかと考える。オレはこの先の予定を、彼女に伝える事にした。


「ラナエール王国には、アルフレッドという王子様がいます。彼は火神ヴァルマに加護を与えられ、アトリと同じ宿命を背負う存在です。まずは彼に接触したいですね」


「アルフレッド王子……。それに、私と同じ宿命を?」


 アトリが表情を引き締める。真剣な眼差しで、オレを真っ直ぐ見つめていた。


 オレは大きく頷いて見せる。そして、オレの知るアルフレッド王子について語る。


「陸の孤島と言われるラナエール王国。その土地柄故に、国全体が牧歌的な雰囲気となります。そして、その地で育ったアルフレッド王子は、非常に大らかな性格です。それと同時に、彼は王族としてのカリスマも持つ人物です。将来的には彼が、魔王討伐の中心人物となるでしょう」


 ゲームのタイトルが『救世のラナエール』。それからもわかる通り、ラナエール王国は始まりの地である。


 そして、アルフレッド王子こそが主人公であり、彼の元にその他の勇者も集って来る。シナリオ上で最も重要な人物が彼なのである。


 だからこそ、アルフレッド王子とは早くに接触しておきたい。可能な限りの情報を伝えて、未来に対する備えを行って貰いたいのだ。


 オレの説明を聞いたアトリにも、その事が十分に伝わったのだろう。キラキラとした瞳で、オレに対して問い掛けて来た。


「それは凄いです……。あの、アルフレッド王子は、私を見下したりしないですか?」


 それは不安と期待が入り混じる視線だった。未来の仲間なのだから、当然の反応だと思う。


 しかし、オレは大きく頷く。そして、自信を持ってアトリに答える。


「アルフレッド王子は人を見下したりしない。誰に対しても、分け隔てなく接する人物です。その人柄故に、全ての種族と手を結んで、対魔王連合を結成することになるのです」


「そうなんですね……。私もお会いするが、今から楽しみです!」


 オレの言葉に安心し、アトリは嬉しそうな笑みを浮かべる。本来のシナリオでは、アトリが心を許すのは中盤になってから。その人柄が嘘でないと気付いてからだ。


 けれど、今ならそんな時間は必要無いだろう。すぐにその人柄に惹かれ、共に戦う仲間と認めるはずだ。期待して貰って、まったく問題無いと思う。


「…………………………」


「……どうかしました?」


 ヘイパスさんが先程から、無言でじっと見つめていた。その無表情はどういった意図なのだろう?


 オレの問い掛けに、ヘイパスさんは大きく息を吐く。そして、苦笑を浮かべて軽く首を振る。


「いやまあ、アキラ様なんで今更ですが……。まるで未来を知ってるみたいに、話すんだなって思いましてね」


「――っ……?!」


 いや、調子に乗り過ぎた……。確かに今のは話し過ぎた気がする……。


 国同士もいがみ合い、亜人差別だって酷い状況なのだ。対魔王連合なんて、今は誰も信じられないだろう。それこそ未来を見ていなければ、そんな発想すら出るとは思えない。


 オレは返答に詰まってしまう。しかし、アトリが急にオレの腕を抱き、笑顔で代わりに答えてくれた。


「お師匠様は、何だって知ってますから! 未来の事だってお見通しなんですよね!」


「……まあ、そうなんでしょう。だからこその『導師』様ってもんなんでしょうから」


 アトリは当然とばかりに、胸を張って自慢していた。ヘイパスさんは諦めた様な表情で頷く。


 何となくピンチは脱したかな? オレはとりあえず、そんなことないよと手を振って誤魔化しておいた。

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