銀狼
オレの前に立ち塞がるのは、ダライ族の戦士ヴォーグル。ゲームでも登場するキャラであり、何度も戦った相手なので、流石に忘れたりしない。
彼は『魔術師殺し』の異名を持つ双剣士。そして、シナリオ中盤に立ち塞がる中ボスである。こんな序盤に出て良いキャラでは無い……。
また、狼系獣人のダライ族は、稀有な能力を持つ種族である。その能力とは『反射の魔眼』という固有スキルだ。
その魔眼は名前の通り、目にした魔法を術者に跳ね返す。仮にオレがライトニングを使っても、視界に入ってさえいれば跳ね返されてしまう。
勿論、稲妻を目で見て反応するなんて不可能。それでも、視覚内で魔法が発動されれば、跳ね返す事が可能な能力なのである。
つまり、オレはヴォーグル相手に、ライトニングを封印せざるを得ない。双剣士であるヴォーグルに、この身一つで挑まねばならないのだ。
「純戦士を相手に接近戦か……。流石に厳しいかな……?」
ヴォーグルの頭上を見ると、『Lv25』と表示されている。こちらの方が上なのはせめてもの救いだ。だからといって、勝てるかどうかは怪しい所なのだが……。
とはいえ、『武術 Lv5』を咄嗟に取得したお陰で、瞬殺される事も無いだろう。『攻撃』『早さ』を上げるスキルなのだが、それだけとは思えない動きが出来ていたからね。
オレは対峙するヴォーグルを警戒しつつ、『瞑想』と『マジックバリア』をそっと発動させる。それと同時に待ったと手を掲げ、ヴォーグルへと問い掛けてみる。
「『魔術師殺し』のヴォーグルだね? ここは一つ、話し合いといかないかな?」
「……ふっ!」
オレの言葉は無視された。ヴォーグルが鋭く踏み込んで来たのだ。期待していた訳では無いけど、交渉の余地は無しか……。
まあ、わかっていた事ではある。相手にも引けない事情があるだろうしね。オレは慌てる事無く一歩引き、相手の斬撃をやり過ごす。
「しっ……! はっ……!」
ヴォーグルはすかさず追撃を行う。その動きを目で追いながら、オレはゆるゆると回避を続ける。『武術 Lv5』の恩恵が強く、相手の攻撃に余裕で対処出来ていた。
……うん、やはりスキルの恩恵が大き過ぎる。
動体視力とか反射神経まで強化されているのだ。ゲームでは画面越しでも、こんな『後の先』みたいな動きは出来なかった。
ヌルヌルと動く体を気持ち悪く思いつつ、オレは再びヴォ―ダルへと意識を集中する。
「ふっ……! はっ……!」
ヴォーグルの攻撃は続いていた。嵐の様な激しい斬撃だが、今のオレには脅威とならない。あの『魔術師殺し』を相手に、ここまで余裕があるとはね……。
むしろ、多少のダメージなら『ヒール』と『マジックバリア』で何とかなるだろう。動きにも慣れて来たし、これなら反撃しても大丈夫そうかな?
「――って、うおっと……?!」
油断していたら、見えない斬撃が肩を掠めた。『マジックバリア』もあってダメージは小さいが、突然の攻撃に慌ててしまう。
恐らく、今のは『ソニックブロウ』だろう。刃に気を乗せて、時間差による多段攻撃を行うスキルである。
いきなりで慌てはしたが、この程度ならば問題無いな。実体のダメージ以外は、威力が半分程度に落ちる。『マジックバリア』有なら、大したダメージでは無かった。
「ちっ……!」
どうやら、相手も手応えが無い事に気付いたみたいだ。肩にダメージは入ったが、マントには傷一つ付いていない。少し強く叩かれた程度のダメージでしかなかったからね。
そして、『ソニックブロウ』が問題無いなら、後はヴォーグルに怖いスキルは無い。ゲーム内で使ってくるスキルは、『ソニックブロウ』『スローイングダガー』『反射の魔眼』の三つだからである。
ならば、ここからは反撃の時間である。オレは身を捻っって刃をかわすと、ヴォーグルの腹部に膝蹴りを叩きこむ。
「ぐほっ……!」
「うわっ……?!」
蹴りを決めた直後に、相手の刃が頬を掠める。しっかり反撃する辺りは流石と言える。
だが、オレも攻撃の手を止めない。距離が開いたため、相手の胸に杖を叩きこんだ。
「がはっ……!」
「うおっ……?!」
吹き飛ぶのと同時に、相手の投げ投げナイフが飛んできた。何とか回避は出来たが、あんな体制から反撃するとか凄まじいな……。
ヴォーグルが態勢を立て直す一瞬を利用し、互いのHPを確認する。オレはまったく減っておらず、相手はダメージが一割少々。
ダメージは与えているが、それでも時間が掛かりそうだ。やはり、純戦士は体力と防御が高いので、一気に大ダメージとは行かないよね……。
「――って、おいおい……。嘘だろ……」
視界に入ったマップの表示に、オレは思わず慌ててしまう。襲撃者のリーダーが、移動を始めたのだ。
オレとヴォーグルを迂回して、アトリ達の方へとゆっくり向かう。ヴォーグルが勝てないと見て、アトリを直接狙う事にしたみたいだ。
「ヘイパスさんでは無理か……」
戦闘スキル持ちの暗殺者と、製造スキルのみの鍛冶師だからね。レベルも相手の方が上だし、流石に勝てるはずもない。
そうなると、こんな悠長な事をしている場合では無いな。早くこの場を何とかして、アトリの安全を確保せねばなるまい。
「はあ、もう……。速攻で決めるぞ!」
油断なく構えていたヴォーグルに、今度はオレから飛び込んでいく。こちらから仕掛けた事が以外らしく、ヴォーグルは驚いた表情を浮かべていた。
そして、牽制に飛ばされる『スローイングダガー』。オレは杖で弾くと、構わず相手の懐に潜り込む。
「ふん、貰った……!」
振り下ろされる二本のダガー。発動する『ソニックブロウ』が、オレの胸部を切り裂いた。マントは無傷だったが、ワイシャツは裂けて鮮血に染まってしまう。
しかし、オレは痛みを我慢して、ヴォーグルの顎に掌底を叩きこむ。仰け反った相手の胸に手を添え、全力の一撃を叩きこんだ。
「ライトニング!」
――ガガガッ……!!!
「がはぁっ……!」
手加減無しの一撃だったが、『不殺の誓い』が発動したらしい。ヴォーグルのHPは僅かに残り、仰そのままグラリと仰向けに倒れる。
動けないのを確認し、オレは身を翻した。そして、アトリの身を庇いながら、自らに対して魔法を発動させる。
「ヒール!」
先程の攻撃でニ割程のHPが削られていた。しかし、その程度の傷はヒールで即座に完治出来る。実は泣きたい程に痛かったが、その痛みも綺麗に消えてくれた。
アトリの前に立ち塞げり、オレはリーダーの男へと杖を向ける。そして、二っと笑って問い掛けた。
「銀狼は敗れた。それでも続ける気かな?」
「そんな……。馬鹿な……」
信じられないと、狼狽えた様子のリーダー。周囲を見回すが動けるものは誰も居ない。茫然自失となった男は、その場で膝から崩れ落ちてしまった。
オレは警戒しながらも、アトリの様子をそっと伺う。すると、アトリが涙を零しながら、マントの端をそっと握った。
「お師匠様……。私のせいでゴメンなさい……。こんな、怪我までさせて……」
アトリは血に染まったシャツを見て、オレが大怪我をしたと思ったらしい。白いシャツは真っ赤に染まったが、死ぬほどの大怪我では無い。
それに、今はヒールで完治して、傷一つ無い状態である。アトリが気に病む必要なんて、まったくないのにね。
オレは左手で胸をパンパンと叩く。平気であると態度で示し、軽くウィンクを送って見せる。
「心配させたかな? オレなら平気だから安心してね」
「はい……。はい……! ご無事で何よりです……!」
オレが笑みを浮かべると、アトリも笑みを返してくれた。涙は未だに流れ続け、様々な感情の入り混じる笑みではあったが。
オレはくしゃりと、アトリの髪を撫でる。そして、そろそろ蹴りを付けようと、リーダーの男へと向き直った。
少しでも面白いと思って頂けましたら、
ブクマと★星を入れていただけますと嬉しいです!
<[導師]アキラ(Lv30)>
HP:300
MP:300
攻撃:60 (+45)
防御:60 (+15)
魔力:90 (+15)
魔法抵抗:90 (+15)
速さ:60 (+30)
器用さ:60
[スキル(スキルポイント:25/30)]
☆不殺の誓い(固有スキル)[生物への致死量ダメージを、自動的に手加減する]
・ライトニングLv5(Master) [光属性:魔力×(50+SLv×50)%のダメージ]
・ヒールLv3 [光属性:SLv×15%のHP回復 (魔力量によりボーナス補正)]
・マジックバリアLv5(Master) [3分間 SLv×10%のダメージ軽減 (魔力消費)]
・瞑想Lv3 [3分間 魔力上昇 (SLv×10%)/魔力回復 (毎秒:SLv×1%)]
・鑑定Lv1 [人物/アイテム/魔物の名称/レベル/HP&MPバー/状態異常を表示]
・採取Lv1 [野草の発見率上昇]
・調理Lv1 [調理Lv1のレシピをマスター]
・スタンLv1 [SLv×10%の確率で敵を気絶させる (魔力量によりボーナス補正)]
・武術Lv5(Master) [攻撃/素早さにSLv×10%の補正]
[装備]
・導師の杖 (攻撃+15、魔力+15)
・導師のマント (防御+15、魔法抵抗+15)