2-1 東雲大地は普通に憧れている。(大地視点)
「若、いってらっしぇっ」
「あ、ああ。行ってくる」
今日も舎弟達に見送られながら、学校へ向かう。
東雲組はこの街を取り仕切る極道で、そんな東雲組の組長の息子である俺、東雲大地は普通にずっと憧れてきた。
高校では友達も作りたかったし、普通に青春っぽい事をしてみたかった。だけど、金髪につり目で愛想が良くない事に加え東雲組の組長の息子である事から学校中の全員から恐れられている。
ずっと孤独だ……。
「はぁ、桜……すっかり満開だな」
学校まで向かう道、家の近くの桜並木が立ち並ぶ公園を通って行くのが好きだ。
この場所は病気で亡くなった母との思い出の場所だからだ。
この時期、母とはよく二人で花見に行っていた。俺の大好物ばかりを詰めたお弁当を作り、母と他愛も無い話をしながら花見をした。
小5の時に病で母は亡くなり、俺の心の支えとなる存在は居なくなってしまった。
俺に東雲組を継がせたい父とごくごく普通の会社勤めをする大人になりたい俺は昔からぶつかってばかりだ。
「なの……?」
この桜の木の下だったかな、母ちゃんと最後に花見をした場所は。
「ん?」
思い出の桜の木の木陰には桜色の髪をハーフツインにした小さな子供がいた。
その子供は俺と目が合った瞬間慌てて逃げてしまった。
「迷子か……?」
学校に着くと、すれ違う人間一人一人が怯えた顔で俺を見ていく。
こんな生活にはもう慣れた。
教室に入ると、ざわついてたクラスは一気に静まり返る。別にうるさいからってキレたりしないのに。
「聞いた? 東雲くん、3年の先輩しめたって」
「聞いた聞いた。一人で3人ボコボコにしたって」
「やっぱりヤクザこわーい」
聞こえてくる噂話は悪いものばかり。
実際、俺がボコボコにしたのは1年生をいじめてた奴らだが、周りからしたら不良がケンカしただけって話。
こんな見た目であの家に生まれた以上、悪い評価しかされない。
誰か俺を見つけて欲しい……本当の俺を知って好きになってくれる誰かがいたら良いのに。
「えー、今から校外学習の班を決める」
「先生、俺は不参加で良いです」
「し、東雲くん? そ、そうか……分かった」
今日のロングホームルームは最悪にも校外学習についての話し合いだった。
俺を班に入れたがる人間は誰一人いないし、せっかくクラス皆の楽しい時間を台無しにしたくなかった。
「良かった、東雲くん来ないって」
「あいついたら落ち着かないもんな」
クラスメイト達は予想通りのリアクションだ。
「どうした? 安西。班決まらないのか?」
「は、はい……」
「安西さん、私の班入りなよ!」
「良いの? 星野さん。ありがとう……」
俺と同じようにクラスで孤立している女子生徒はあっさり優しい女子からのお声がけで班が決まった。
良いよな、あの子はクラス中から受け入れて貰えて。
「やっぱり星野さん優しいよなぁ」
「桃花たんは天使だにゃあー!」
孤立している女子生徒に声をかけていた女の子は確か星野桃花。今売り出し中のアイドルグループのセンターでいつもクラスの中心にいる子だ。
俺とは違って良い目立ち方をしているし、良い意味で有名だ。
「ねぇ、東雲くん。本当に校外学習行かないの?」
「は?」
「テーマパーク、せっかくだし私はクラス皆で楽しみたいなぁ」
突然星野桃花は笑顔で俺に話しかけてきた。
「別に。興味ない」
「私の班で良ければ……」
「お前は俺を誘ってただクラスの奴らの株上げたいだけだろ?」
「私、そんなつもり無いんだけどな……」
俺の言葉に彼女は涙目になる。
俺と本当に親しくしたがるわけない。
アイドルである彼女の作られた笑顔と態度を俺は見抜いていた。
「桃花ちゃん可哀想……」
「俺らの天使になんて事をっ」
男子達は俺を小声で非難する。
「でも事実じゃね?」
「桃花って男にすぐ媚びるし」
だが、一部の彼女に敵意を持った女子は彼女を悪く言う。
「悪かったよ。まあ、校外学習はあんたらだけで楽しんで」
俺は星野桃花にそう言い放つと教室を出て行った。
最低だな、俺。
こんなんだからずっと一人なんだろうが。
自分で自分に嫌気が差していた。
学校が終わると、もやもやした為あの公園で俺は過ごす事にした。
まさかあんな出会いがあるとは知らず……。