#60 俺の方が先
お待たせしましたでやんす。
宜しくでやんす。
「ゴメンね、横に座ってね」
ムサシはリエンヌを右手側に
座らせる。
リエンヌは両足を前に伸ばし、身体を
支えるためにムサシの右腕を胸元に抱きしめる。
右腕のムニュんっとした感触にムサシは一瞬
ビクッと震えて切れ長の細目をパカッと見開く。
ムサシの右腕を抱きしめるリエンヌを
見てライトとマッチョメは
歯が浮きそうなほどの甘さを感じ、濃い緑茶が
飲みたくなった。
「ハイ、御茶です。」
絶妙なタイミングで御茶を出す古堤さん!
「「いただきます!」」
私とライトは熱々の緑茶をフーフー
してチビリと飲む。
うん、濃いくて良い。
ムサシとリエンヌの創り出す激甘空間に
これなら耐えられる…私とライトは視線を
交わしてうなずき合う。
ムサシの右腕を抱きしめ寄り添うリエンヌを
見て小鳥遊瑠衣の姉、愛衣(25才)はあっ、これは
諦めるしかないと気がついた。
ムサシのリエンヌお姫様抱っこは、ムサシを
印象付ける物だと思っていたが違った…
今の状況、どう見ても…
ムサシに激ラブスキスキ大ちゅき状態のリエンヌ。
好きな男の腕を抱きかかえて、ウットリしてる。
あ〜残念、瑠衣とくっつけたかった…弟の
初恋と仕事の飛躍を考えても超弩級の最高の
物件だったんですけど…
リエンヌのプロフィールは公表されてないが
契約時の守秘義務内容とヴァン副社長の
リエンヌに対する態度と見た目から…
リエンヌはヴァン副社長の娘。
そしてヴァン副社長と姓が同じ
西恩寺茉莉花社長が母。
ヌボーっとしたライトも、もしかしたら家族?
彼もプロフィール公表されてないから
可能性はあるね。
世界的に有名なアニメの製作会社の令嬢と
結婚すれば…
瑠衣の国内での地位のグローイングアップと
世界進出も容易くなる。
しかもリエンヌは美女!
プロフィール公表と顔出ししてないのが
オカシイぐらいの美女。
肩口までの銀髪のボブヘアー
シュッと銀色の柳眉
そして見るものを釘付けにするグリーンアイ!
しっとりとした白い肌が
少し赤みある桜色でプルップルの艷やかな唇を
際立たせる。
スタイルもバツグンに良い。
ライトグリーンのサマーニットを双丘が
ぐっと押し上げ、キュッと締まったウエストに
スラッと長い脚がストレッチジーンズを
映えさせる。
見た目から推測すると年の頃は十代後半から
二十代前半…
瑠衣とお似合いなんだけどなぁ。
あ〜マジに瑠衣とお似合いなんだけどなぁー。
プロフィール公表もされておらず
名前も歳も分からない
判断基準の材料は見た目
クールビューティーに見え、大人び過ぎる
容姿を持つリエンヌの歳を勘違いしてる
小鳥遊愛衣であった…
……私の業界内データに無い
謎のムサシと名乗る少年。
まだ幼さが残るが整った顔立ち、細く濃い眉に
切れ長の細目。
リエンヌに腕を抱きしめられたらパカッと目を
見開き…大きな澄んだ瞳?!
ゾワゾワってきたよ!
目ヂカラつよつよ、瑠衣より上だわ。
身体つきは、目を見張るものがある…
ノースリーブ?
両肩から腕が剥き出しなってる。
両肩の脇がモコッと盛り上がってる…
あれが肩メロンって言う奴よね。
腕も太くてムキムキしてる。
大きくV字に空いた胸ぐり
それになにアレ?
盛り上がった胸がV字の右左から
はみ出しちゃってる。
はみ胸の谷間の筋…メキメキしちゃって
エロクない?!
否、エロい!
気がつくと見ちゃってる。
目が吸い寄せられてヤバイ!!
俺の事をガン見してる小鳥遊さんの
マネジャーを勤めるお姉さん。
大方、俺はリエンヌに相応しくないって
思ってるんだろうな…
俺は視線をチラッと向け、直ぐに小鳥遊瑠衣と
向き合う。
えっ今、私を見たよねムサシ。
胸を見たのバレた?!
恥ずかしくなり慌て顔をふせる愛衣だった。
僕はリエンヌの名前を知らない…
ムサシは知っているみたいだ。
リエンヌの耳元で、ミィ何とかって言ったら
トロンとしてたのがシャキっとしたし…
「い、い、いつから付き合ってるんだ…」
馬鹿なことを聞いてるなぁ、僕は。
わかってる、わかってるんだ…
勝ち目が無いのはわかってる。
リエンヌの顔…見て分からないほど
鈍感じゃないから。
でも、納得するだけの情報は欲しい。
「昨日からです、彼女に告白されて…」
ムサシは何かを想い浮かべるような
遠い目線で僕の問いに答えてくれた。
「僕は1ヶ月前に彼女に告白した、即答で
断られたよ…好きな人がいるからってね」
僕は視線をリエンヌに向けると、リエンヌは
ムサシの右腕を、両腕でギュッと抱きしめて
僕を見てニコッと微笑んでる。
私の事は諦めてってことか…
「俺は1年3ヶ月と2週間前に告白して
まずは、お友達からねと言われました」
俺の方が先と、まるで張り合うかの様に
ムサシはそう言って、ニカっと微笑んだ後
リエンヌを好きになった理由を話し出した。
「牛乳飲み過ぎて…腹痛で動けない俺を助けて
くれたんです」
っと言って語り出すムサシ。
「トイレ入って用を足したんですが
ロールペーパーが切れていて」
大きな声で誰か紙を下さいって言ったら
リエンヌがロールペーパーを
くれたんですと力強く話すムサシ。
私とライトは苦笑い…
小鳥遊さん達、どう反応すればいいのか
困ってる。
ロマンチックの欠片すらない話を力強く
力説されても、なんと返せば良いのか
判断がつかない。
ムサシの話はまだ続く。
「トイレから出た俺に手を差し伸べて
くれたんです!」
保健室に連れてってあげるって手を差し出され
握られた手の暖かさに優しさに
俺は惚れましたと言い
「窓から射し込む西陽がリエンヌの髪に
反射してキラキラ輝いて凄く綺麗だった…」
ムサシは右隣りにいるリエンヌを見て
あの時、余りにも綺麗だったから思わず
「女神さま?!」
って言っちゃったとリエンヌに告げる。
うわ〜最後の最後でロマンチック全開に
なったね。
リエンヌ、茹でタコみたいに真っ赤だよ
あっ、ムサシの右肩にデン、デン、デンっと
おでこをぶつけだした。
ムサシは肩メロンで受け止めているから
リエンヌのおでこはノーダメージ!
私とライトは御茶をチビリと飲み傍観に
徹する事にした。
ムフ〜ムフ〜と荒い呼吸を繰り返して
おでこをぶつけるのを止めたリエンヌ
どうやら落ち着いたようだ。
リエンヌが落ち着いたのを見計らって
ムサシは小鳥遊瑠衣を見つめて
言葉を発する。
「俺達は相思相愛、お互いの両親に交際の
許しをもらってます!」
堂々と言い切るムサシ、その直後に
ちゃぶ台に置かれたリエンヌの
スマホがメールの受信音を鳴らす。
左腕でムサシの腕に抱きつき、空いた右手で
ちゃぶ台からスマホを取るリエンヌ。
画面を見ると
送り主は、猫屋敷リーン
契約終わったかな?
柳監督が早く来ねぇかなぁって煩いんだよね。
連絡待ってます。
リーンお姉ちゃんからのお願い!
ワタシは、少し間を開けて右隣りに
座るマッチョメとライトに
「リーンお姉ちゃんが、ワタシ達まだ
来れないのって」
連絡してくれってメールが来たと伝える。
ガタッと音がして前を向くと、小鳥遊さんの
マネジャーであるお姉さんが湯呑を倒して
お茶をこぼしていた。
古堤さんが素早く布巾で拭き取り片付ける。
マネジャーのお姉さんはワタシを見て呟いた。
「リーンお姉ちゃん??」
午前11時2分。
まだまだ続くでやんす。
これからも宜しくでやんす。




