夢
佐伯さんは、微かに体を震わせた。
「世界初のダンジョンで、世界中から高位探索者が集められて攻略を試みたって話を聞いた事はあるだろう?箝口令が敷かれているから詳しくは言えないんだが、巷に発表されているのは嘘っぱちだ。40階の魔物を攻略するめどが全く立たず、未だに進んでいないのが現状だ」
潜められた声に、皆が驚いた。
ニュースでは、ドリームチームが攻略を進めたと報道していたからだ。
「俺はあいつを叩きのめしたい。それで誰よりも先の景色を見たい。それが俺の夢だ。
お前らはどうだ。お前らがいれば、いけるはずだ」
イオとチサの目が、危険な風に輝いている。
俺とハルは焦った。
「いや、待って下さい。そう簡単なものじゃないでしょう?俺達、ぬるーくやってるチームですよ。インドア派とか超慎重派とかですよ」
「そうですよ!無理です!」
ハルも懸命に、引き攣った笑顔を向ける。
「勿論、そこへ辿り着けるまでの普通の探索者としての技量が身に付くように訓練は責任を持とう」
佐伯さんが言い、盛田さん、細川さんが力強く頷くと、イオとチサがきっぱりと返事をした。
「やりましょう!」
「ええ!」
俺とハルは、白目をむきそうになった。
「ま、待って?イオ、チサ?」
「そうだよ。世界のトップが行くところだよ?俺達には早すぎるよね?恐れ多いというか、身の程知らずというか」
言うが、イオもチサも聞いていない。
一条さんも、笑顔を浮べてイオとチサと手を握り合っている。
と、チサが俺を見て、何か考えるようにしてから佐伯さんに質問した。
「佐伯さん。そこへ行くと、今見せたよりも、もっとほかの魔術も見られるんですかあ?」
「勿論」
佐伯さんが笑い、俺はその答えに揺れた。
「何だって?」
そしてチサは続ける。
「ハルがいないと、心配よねえ」
「そうよね。ハルがいないと、死んじゃうかもね。困ったわね」
それでハルは顔色を土気色にして、
「だったら安全な所にいれば──ああ、だめだ。イオとチサがそれに納得するもんか。それにシュウが、完全に釣られてしまってる!」
と頭を抱えた。
そこで一応相談させてもらう事にし、俺達4人は輪になった。
「私はやりたいわ。どこまでも強くなりたい、挑戦したいっていうのが、昔からの夢よ」
イオは静かに、熱のこもった声で言う。
「私もやりたいわあ。何でもやってみたい、知らない所を冒険したい。それが夢っだったのお。探索者というのは、その夢が叶ったようなものだけど、もっと先へ行けるなら、行ってみたいわあ」
チサはおっとりと言う。
それにハルは軽く嘆息した。
「僕は、平穏無事な人生を送りたかったよ。
まあ、今の生活も意外といいけどね。本当に大丈夫そうなら、まあ」
俺は何と言おうか口ごもったが、子供の頃の夢を思い出した。
「夢かあ。俺、子供の頃は世界の未開の地の調査をして回りたかったんだ。でも祖父がクマにやられて大ケガしたから、未開の地に行くんなんて危ないからにダメだって親戚中に言われて。だから諦めて大人しく勉強してた。バイクの免許も欲しかったけど、従兄がバイク事故で死んだから、バイクにだけは乗らないでくれって言われて、諦めたなあ。大学院も、ちょっとした発見をした手柄を盗られたんだけど、少ないポストを待つのはお前だけじゃないって言われて、仕方ないなって諦めた。会社で濡れ衣を着せられた時も、どうせ何を言っても通らないってすぐにクビを受け入れたし。
俺って、つまらない人生を送って来たんだな」
乾いた笑いが浮かんだ。
「今は、初めて自由だって思える。その分、守ってくれるものはないけど。
そうだな。俺はこれで生きて行こう。できる事、したい事をしよう。
ダンジョンを探索し、魔術を研究する。これが俺のやりたい事だ。知らない魔術があるのなら、見たい。解析したい。それから新しい魔術を作りたい」
「決まりね」
イオが笑った。
それから俺達は帝の特訓を受けてしごかれ、時期が来たら、そのダンジョンに臨むと共に魔術についてのレポートを発表することになった。
優しく見えていた一条さんが鬼教官だったり、佐伯さんと盛田さんが頼もしいけれど鬼教官だったり、同じくらいヒョロリとしていた細川さんが細いのではなく細マッチョというやつでやはり鬼教官だったりで、俺達は充実はしていたが、恐ろしくハードな日々を送ることになった。
地下室で時折モルモットや金魚にエサをやりながらグチを言うので、1階のボス部屋の幽霊の噂はますます広がりもした。
しかし、数か月しごかれた後、共同で俺達はそのダンジョンに臨む事と魔術に関するレポートを発表した。
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