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お前もか

「実はね……」

 イオは警察官だ。子供の頃から強かったが、今では格闘技でほとんどの男性に負けない事でやっかまれるほどになったらしい。それで「メスキングゴリラ」と陰で呼ばれ、「もう男だよな」と男子トイレに連れションに誘われたり、更衣室でもなくその場で一緒に着替えようとしたり、何かとセクハラし、それに意見を言えば「ミニパトにでも乗ってろ。オバハンだけどな」と異動になったらしい。

「もともと警察は今でも男社会なのよ。出る杭が女だと、打たれるだけで済まないの」

 そうイオは溜め息をついた。

 それを聞いて、俺達は憤った。

「何だよそれ。努力して強くなった人間に失礼だな」

 俺は怒りのままに、出て来た犬もどきの頭を殴りつけた。

「そうよねえ。頼りがいがあっていいじゃないの。警察官なんだし」

 チサも怒りをにじませてそう言う。

「男とか偉いヤツってのは、自分が上でいたいんだよ。ああ。やだねえ」

 ハルは憤慨するように嘆息した。

「でもまあ、異動はつきものだし、百歩譲っていいとしてもよ。昨日スピード違反でキップ切った人なんて、『ババアのクセにうるせえな』よ。もう、嫌になっちゃったわよ」

 イオは言いながら、暗い笑みを浮かべて犬もどきを殴りつけた。

「で、チサはどうしたの。離婚だなんて」

「うん……」

 チサはイオに水を向けられ、話し出した。

 チサは短大を出てすぐに結婚したらしいが、相手はエリート商社マンだったそうだ。その彼は、家では亭主関白を通り越して、モラハラだったという。それでも我慢していたのだが、ある日突然警察から逮捕したと知らされた。

 詳しく聴くと、若い愛人を作っており、横領してまで金を貢いでいたという。

 チサには、節約しろ、1か月5万円で光熱費も食費も通信費も全てやりくりしろ、主婦が新しい服なんて必要ない、などと言っておきながら、愛人には数千万円である。

「もうねえ、即、離婚届けを書いたわよお。我慢の限界だったのが、あふれちゃったのねえ。それで届けを弁護士さんに預けたんだけど、『これまで養ってやってたのに』とか、弁護士さんも『裁判を考えると家庭で更生をと言う方が心証がいいのですが』なんて言うのよ。それで今までも離婚を考えてたってこれまでの事を言ったら、弁護士さんも向こうの味方はしなくなったわよお」

 明るく言う。

「最低なやつだな。チサの元旦那だけど」

「そうね。チサ。あんた、苦労してたのね」

「チサ。これで自由になったんだと思えばいいよ」

「そうよね。私、取り敢えず結婚はもういいわ。自由を楽しむわ」

 チサは清々しく笑った。血まみれの折り畳み傘を握って。

「ハルはどうなの」

 イオが訊き、ハルは暗い顔で俯いた。

 ハルは、勤めていた造園の会社が倒産し、フリーターとしてどうにかこうにか生きているという状況だ。好きなアイドルのコンサートへも行けず、細々とバイトの掛け持ちでなんとか生活しているらしい。

「今はテレビの前で、時々1人でペンライトを振るのだけが楽しみでね。虹プリ──レインボープリンセスのオレンジ姫が僕の推しなんだよ!」

 ハルはそう言って笑い、ペンライトをポケットから出して振って見せた。

 俺達は思わず涙を浮かべた顔をそっとハルから背けた。

「ま、あれだ。俺達は各々人生の落とし穴にはまったわけだな。そこにこの落とし穴(ダンジョン)とは、よく効いたスパイスだな」

 俺が肩を竦めて苦笑すると、イオもチサもハルも明るく笑った。

 俺達は妙なテンションで、すっかり楽しくなっていた。

「魔石は皆で山分けにしよう。研究施設に持ち込んだらそこそこの値で引き取ってもらえるはずだぞ」

 言うと、ハルは目を輝かせた。

「ねえ、魔物って食べられるのよね。アメリカの人がそうコメントしてたわよ」

 チサは、向こうに現れたニワトリを大きく且つ凶暴にしたような魔物を見ながら笑った。

「じゃあ、トリスキか唐揚げかチキンステーキか、何かして皆で食べましょうよ」

 イオは好戦的な目付きでそう言った。




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