ビフォーアフター、匠の技
俺達は小部屋で考え込んだ。
が、すぐに方向は決まった。
「よし。やっぱりここに我が家のプライベート空間を作ろう。ちょうどいい」
それにイオは首を傾けた。
「でも、ここを塞いじゃうと、誰も下へ進めないのね。それとも、この先調査したいとか言ってる自衛隊の人や解放でもしたら来る一般人を、床下収納庫から出入りさせるの?」
冗談じゃない。
チサはポンと手を打った。
「リフォームね!」
それにハルが唸る。
「どこの工務店に頼むの?大体、ダンジョンってどうにかできるのかな」
「落石が起きるんだから、ある程度はできるんだろ。
まあ、その辺にすでに転がってるものを利用するとかなら、時間経過でなくなったりしないだろ」
俺がそう言うと、チサは辺りに転がっていた大岩を見た。そして、ドアと階段を見た。
「ドアと階段をつなぐような通路状のものを作れば、下へいけるわよねえ」
それに俺達も考える。
「行けるだろうけど、豚は?あれって1階のボスだよね?」
「確か豚が出るのって、この辺だよな。ここをギリギリ通路側にしていれば問題ないんじゃないか」
俺達はやってみようと、リフォームにとりかかった。
岩に手をかけるチサに、俺は声をかけた。
「流石に重いだろ。無理──」
そして全員、目を疑った。チサは、よいしょと言いながら大岩を持ち上げ、歩き出したのだ。
「主婦業って、大変なのよお?家事や買い物や色んな事が地味に力がいるのよねえ。
手伝ってくれればいいのに、忙しいとか言うからって自分でしたら、できるじゃないかって言って2度とやってくれなくなるしねえ。だから気付いたら、嫌でも逞しくなってるのよお」
俺もハルもイオも戦慄した。チサはおっとりと笑っているが、目が全然笑っていない。
「ごめん。今度からは絶対に俺も母の手伝いをするよ」
「うんうん。僕もそうする。取り敢えず電話して謝るよ。だからごめんチサ」
「わ、私も手伝うわ。そうね、感謝も足りなかったわね」
3人で謝ると、チサはにっこりと笑った。
「結婚しても、そうしてあげてねえ。
それとイオ。最初が肝心よお」
俺達は高速で頷き、リフォーム作業に戻った。
そして2時間後、岩壁は完成し、リフォームは終了した。幸い廊下を戻って穴の下まで行ったら岩がゴロゴロとあったので、岩には不自由しなかったのだ。
そしてその岩壁の目立たない所に岩に偽装したドアを作り、ダイヤル式の鍵も付けた。
「これで安心だな」
俺達は、床下収納庫から下を覗き込んだ。
部屋を区切るように高い岩壁が積まれ、フロアボスの豚が出る部屋は2つの小部屋へと生まれ変わった。ドアと階段をつなぐ細い通路状になった部分には豚が再度出現し、何かおかしいと訴えるようにウロウロとしている。そして残る真下の部分には、縄梯子が揺れ、植木鉢とプランター、腰を掛けられるような石が並んでいる。そして、台車とブリキの箱をつないだカートが出番を静かに待つ、そんな新しい空間が出来上がっていた。
そしてそれらを、こちらからは石垣にはめた偏光板を通して全てがしっかりと見えるが、外側からはただの岩の壁にしか見えない。
そして岩が崩れないように、こちら側から、岩の隙間にセメントを詰め込んで固めてある。
豚が体当たりしたところで、強度に問題はない。
ダイヤル錠を発見されたとしても、小さな『この先実験地。危険、立入禁止』という紙と『警察官立寄所』の札と民間警備会社のステッカーを目立たないように、でも鍵を見付けた人には見えるように貼り付けてある。不法侵入対策だ。
「チサ、DIYできるのね」
「主婦のたしなみよお」
「さあ。これで心置きなく行けるな」
「大丈夫なの?ねえ?」
ハルが心配そうにしているが、大丈夫だ。
「嘘はついてないわ」
イオが自信満々に言い、俺達は改めて階段を下りて行った。
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