お守りのお兄さん
今日もあの人はやってきた。
私とお人形さん遊びをしたり、一緒にお昼寝をしてくれたり、ご飯を食べたり。
朝、お母さんが仕事に行くのと入れ違いに来てくれて、夜までずっと一緒にいる。夜寝る時は、隣に横になって色々な話を聞かせてくれる。いや、聞かせてくれる、というより応えてくれる、の方が相応しいかもしれない。私のお守りをしてくれる彼はあまり自分の話をしてくれない。
だから、普段何をしている人なのか、昔は何していたのか、家族とか特技とか、とにかくたくさんのことを聞いてみるけど、暗くて彼のことはよく見えないが、声は何となく寂しそうで、聞いているとこっちの心にも枯葉がカラカラと転がっていくような小寂しい気分にさせられるときもあった。
もちろん、逆に一生懸命で生きるエネルギーをもらえる話もあった。勿論、そんな話を聞いたあとはボーッとしているように見える彼がとてもそんな風には見えず意外でなかなか信じられない。
だけど、こんなに彼のことを知ってもどうにもまだ知った気がしない。ただそれが不思議で、彼への好奇心も同時に掻き立てられていた。
私に物心が芽生えた頃にはもう父はいなかった。母の家は大人数なうえ、貧しかったらしい。寺子屋に通えるだけのお金もなかった。
だから、母自身が言っていることだが、教養がなく頭が悪いからなかなか良いお仕事に巡り会えないらしい。そのためか、私のために一日中あちこちで働いている。さらに、家のことが仕事漬けでできないからと、なんだか胡散臭いなんでも屋にお守りを頼んだのだ。
絶対他にも信用できるところがあったと思うが、やはり貧しいので比較的安いところに頼みたいらしい。
私なら大丈夫、1人でもいい子にできる、と母に説得を試みたが、母は何かあってはいけないからと応じなかった。
なかなか強情だ。得体の知れない男に私を任せることより、私が1人の時間を過ごすことの方が不安らしい。