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第1話 読書スキル覚醒

というわけで、流行りに乗っかって己をチューニングすることにしましたぞいぞいという感じで書いております。

よろしくお願いします。

 冒険者。

 それは九百七十年前に異世界から召喚された勇者が魔王を討伐してから生まれた職業だった。

 神々からスキルが与えられ、それにより自らがなる職業を決めていたが冒険者は違った。

 冒険者は誰にでもなれる。

 そのように勇者様が定めた。

 だから、例え役に立たない『読書』スキルしかない僕であろうとも冒険者にはなれるのだ。


 ●


 リードは冒険者であった。

 本来ならば冒険に行く日であるが、今日はパーティリーダーのアルノールの提案で休みになったのである。

 いつもならば迷宮か神々の塔に挑むと言って聞かない男が珍しいこともあるものである。

 しかし、それはそれとしてリードとしては好都合であった。


 リードは煤で薄汚れた石畳を機嫌よく速足で歩いていた。

 目指す先は本屋である。

 ティリアの街の中央街の一画にリード目当ての書店はあった。

 からんからんとドアベルを鳴らして店内へと足を踏み入れる。


 鼻孔をくすぐる書の匂い。

 古めかしい古書のそれから、新書の新しいそれまで複雑に入り混じった本の香りは嗅ぐだけでリードの心に歓喜を沸き立たせる。

 普段の生活でささくれだった心が深呼吸するだけで癒されて行くようであった。


「さて、まずは新書だ」


 まずはとリードは新書を確認する。

 平積みにされた書は全て印刷されたものだ。

 かつての本は全て手書きのそれであり、数は少ない上に値段もかなり高かった。

 だが、今平積みされている本はどうだろう。

 気軽に安いというにわけにはいかないが、それでもリードが一月、冒険に出て金を溜めていれば買えるくらいには安い。


 それもこれも蒸気機関文明の発達による印刷機の登場が全てを変えた。

 本は印刷され大量に出回るようになったのである。

 貴族の娯楽であった読書は、庶民にも手の出る娯楽へとなったのである。

 さらに今では歯車情報網(ギアネットワーク)の発達により、専用の端末さえあればどこにいても新書や所持している本を読むことができるようにすらなっていた。

 ただリードはそれでも紙の本を好んだ。確かに便利ではあるが、紙のページをめくることにロマンを持っていたのである。


「やっぱり冒険譚が多いな。お、これは近頃噂になってたアヴァールの冒険譚の新作じゃないか。これにしよう」


 多くの書が売り出されているが、特に人気なのが冒険譚や英雄譚であろう。

 冒険者や英雄が己の冒険を書き連ねた本は大衆の心をつかんで離さない。それはリードも例外ではなかった。


 冒険譚の新作を手に置くのカウンターで作業をしていた店主の下へ向かう。

 白髭を生やした初老の店主はにこりと笑顔を浮かべてレジを操作する。


「また来たね。やっぱりこれを選んだか」

「あはは、予想されてましたか」

「毎月来るからね。普通の人は全然来ないから覚えてしまったよ。それに最近じゃあ、ギアネットワークから買う者も多い」

「僕は紙の本が好きですから」


 ただし、それにはあくまでもギアネットワーク用の端末や装置などを買う金がないからというのも多分に含まれるが言わぬが花である。

 とかくリードはパーソナルカードを渡し、店主がそれをレジに読み込ませる。

 がちゃんと音がして口座から本代が引き落とされ、梱包された品物とカードがリードの手元に残る。


「またおいで」

「はい!」


 リードはそう言って足早に店を出た。

 早速、家に帰って本を読むのだ。

 そう息まいていると、通りの反対側からリードを呼ぶ声がした。


「おい、リード」


 言葉に滲む高圧さを隠しもしない声。そちらを振り向かずともリードには誰が自分を呼んでいるかがわかった。

 そこにいたのは、金髪に貴公子然とした格好の男。


「アルノール……」

「よーぅ、リードよぅ。丁度良かった、探してたんだよ」

「探してた? でも、今日は休みで」

「いいから来い」


 アルノールの有無を言わさぬ命令にリードは渋々従う。

 楽しい気分が台無しであった。


 アルノールについてやってきたのは、大衆酒場である。

 アルノールは貴族のような格好をしているが、このような粗野な店を好む。

 蒸気灯が薄暗く照らす酒場は昼間だというのに薄暗く、煙草の煙などが蔓延していた。


 アルノールは奥の席へ迷わず進んでいく。

 奥には大きい丸テーブルがあり、そこにはアルノールパーティが全員そろっていた。

 ソワレ、ターク、パトリダ、皆、リードと同じアルノールのパーティメンバーだ。


「ええと、みんな集まって、飲み会でもするの……?」


 リードは思いつくことを言った。

 それにしては場選びが悪い。もう少し良いところはなかったのか。それとどうして事前にリードには知らされていなかったのか。

 パーティの一員なのだから連絡してくれないと困る。

 連絡ミスが塔や迷宮での生存率を下げることは良く言われている。


 それがわからないアルノールではないだろう。

 彼とて史上最年少でAランクまで到達したパーティ『黄金の剣』のリーダーなのだ。


 だからこそ、別なのだ。これは飲み会などではない。

 リードの言葉を聞いて、ソワレ、タークス、パトリダの三人が露骨に笑いだす。


「ええと……」

「リード、オマエのスキルは?」


 なぜわかり切ったことを今更聞くのだろうか。

 あまりそれは触れてほしくない部分なのだが、そんな思いはアルノールには伝わらない。

 よしんば伝わったとしてもリードのことを気に掛けるような男ではない。


「……読書、だけど」

「それは何ができるんだ?」

「……なにも……」


 竜の如きこのアスファレス大陸に住まう者は一定の年齢になると神々から祝福を得る。

 どの神が何の祝福を与えるのかはその時までわからない。

 だいたいが、その人物の適正や将来に見合った祝福を与えてくれる。

 それがスキルと呼ばれるものである。


 スキルとは一人につきひとつの個人の理であり法則そのものである。

 例えば剣士のスキルを得たならば剣の扱いが上手くなり、斬撃を飛ばすことや、鉄を切るなどで剣を用いるあらゆる現象を引き起こせる可能性を得る。


 個人の解釈によりできることの幅が異なるため、同じ剣士のスキルを得たとしても同じことにはならない。

 この違いを剣士の場合、流派の違いなどと呼ぶこともある。


 そして、リードのスキルは『読書』であった。

 ただ本を読むだけの役に立たないスキルである。


「何も、そうだな。何もできない。つーわけで、オマエ、クビだ」

「え……? ちょ、ちょっと待ってよ!?」

「もうこれは決まったことなんだよ」

「せめて理由を教えてよ! 僕はちゃんと仕事はしていたはずだよ!」

「ああ、だがそれは採取や剥ぎ取りとか雑用の話だろ」

「そう、だけど……」


 リードは読書というスキルであったがために戦闘能力が著しく低いのだ。

 剣士であるアルノールや銃士のパトリダのように戦うことはできず、結果として剥ぎ取りや野営の準備、道具の手入れといった雑用ばかりを任されていた。


 読書のスキルの副次効果なのか、読書によって得た知識は忘れることなく残り続けたので、すっかり雑用ばかりが得意になってしまった。

 いや、それ以外できなくなったという方が正しいかもしれない。

 それでもパーティの役に立とうと他人の分までやってきたがアルノールには不足であったらしい。


「オレたちはもっと上に行ける。その時に戦闘に参加できねえやつは必要ねえ」

「でも、困るよ、いきなり言われても……」

「知るか。さっさと出て行けよ」


 そのまま蹴飛ばされ酒場の外まで飛ばされる。

 リードは踏ん張ることすらできずに石畳の上に転がった。


「そら、忘れものだ」


 投げ渡される新刊の包み。

 そしてアルノールたちの嘲笑う視線が酒場の扉が閉まるまで降り注いでいた。


 ●


 呆然とリードは新刊を手に通りを歩いていた。

 ゴミで薄汚れた裏路地のいくつかを通り、人通りの少ない街区へと出る。

 隣のブロックの機関群(エンジングループ)の駆動音がうるさいほどに響いていた。


 リードが辿り着いたのはボロボロのアパルトメント。

 三流ゴシップの広告ばかりが詰まった郵便受けがあるエントランスを通り、ぎいぎいと軋む階段を上り角で足を止める。

 真鍮製のドアノブを前にしてリードは溜め息を吐く。


「良し。姉さんに心配かけるわけにはいかない。いつも通りにしないと」


 一度、軽く頬を叩いてからリードは鍵を開けてドアノブを回す。


「ただいま。姉さん」


 狭いワンフロアの部屋には人の生活の全てが詰め込まれている。

 ベッドとテーブル、ソファー、台所、本棚。

 そして、ベッドの上には身体の一部分が結晶化している女がいた。

 彼女がリードの姉のシルエラである。

 リードが帰ってきても彼女に返事はない。


 彼女は結晶病と呼ばれる奇病に罹っている。

 錬成医学でも治療法のわからない不治の病であり、数年前からこのように寝たきりだ。

 冒険者ギルドお抱えの錬成医に見せたところ魔物が使用する石化の呪いや魔眼に近しいということがわかった。

 そのため、生命が止まっているように見えても生きているという診断だった。

 石化の治療薬も塔や迷宮の中で見つかった。ならば結晶病を治す希望があることだけが救いであろう。


 どうにかこうにか優秀なパーティに潜りこみ塔の探索を行っていたが先ほどそこもクビになってしまった。


「今日は新しい本を買ってきたんだ。姉さんは無駄遣いするなっていうだろうけれどスキルを極めたら何かあるかもしれないからね」


 そう務めた明るく返事のない姉へとリードは話しかける。

 意識があるかわからない。

 だから、姉へは普段通りに接する。


「……さて、読むか」


 だから、食事もそこそこに蒸気灯の灯りで読書する。

 数時間後、確かな満足感と共に読み終えた時、脳裏に言葉が浮かんだ。


 ――読書のスキルLvが上限に達しました。

 ――書物の作者の一部を還元できるようになりました。

 ――スキル『剣聖Lv1』を取得します。


「は……?」


 今、自分の脳裏に響いた声をリードは信じられなかった。

 スキルは一人につきひとつ。

 それがこの世界の絶対の法則だからだ。


「え、剣聖……? い、いや、何かの聞き間違いじゃないか……?」


 スキルを取得などありえないのだ。

 パーティをクビになった後に、剣聖アヴァールの本なんか読んだからそんな言葉が聞こえたように錯覚したに違いない。


「そ、そうだ別の本も読んで確かめてみよう」


 それで何も起きなければただの聞き間違えで済む。

 そう思い、本棚からとった適当な本を読む。


 ――書物の作者の一部を還元します。

 ――スキル『火術Lv1』を取得します。


 読み終えたのと同時に再び脳裏に声が響く。


「は、はは……」


 リードは確信する。

 己の読書は今、役立たずスキルではなくなったことを。

 この力を使えば、塔を昇り生命の石を探し姉を救うことができることを――。

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