冴えない器用貧乏の俺と超ハイスペックで美人な姉と妹 〜裏方として姉妹を全力でサポートしてたら全員俺から卒業してくれなくなった〜
所謂ハーレムものです。
お楽しみください。
俺の名前は月宮日向。どこにでもいる普通の男子高校生だ。ある一点を除けば、だが。
今日は月曜日。日曜日に朝方までゲームをしていたせいで絶賛寝坊中だ。俺は焦って家を飛び出した。
「くっそ…あんなにゲームするべきじゃなかったな…」
キリキリと頭が痛むのを感じながら、俺は全速力で自転車を漕ぐ。こういう時に心底電動アシスト自転車が羨ましく思う。俺の通う私立聖ヶ丘学園に行くためには急な坂を数十分かけて登らなければいけないので、日頃から運動不足の俺にはかなりきつい。しかも今日は猛暑日らしく、朝から身体が溶けるのでは無いかと思ってしまうほどの暑さだった。
俺は流れ出る汗をタオルで拭き取りながら進んでいく。途中悠々と坂を歩いている生徒を見かけたが、恐らくもう遅刻する事を悟っているのだろう。清々しい顔で歩いていた。
「うぉぉぉ!うなれ!俺の両脚!!!」
校門が閉まる直前になんとか滑り込んだ。
時刻は8時18分。どうやらギリギリ間に合ったらしい。俺は自転車置き場に自転車を置いて、玄関に向かっていく。
だが、坂よりも何倍も手強い敵が俺の行手を阻んだ。
「毎週毎週遅刻ギリギリとは感心しないな?」
そう、それは生徒会。この学園で最も権力を持っていると言っても過言では無い組織だ。手に竹刀を持った集団がこちらにゆっくり歩いてくる。統率された動きで俺の周囲を一瞬で囲ってしまった。どうやら今日は逃げることはできないらしい。
「会長、どうします?」
「無論だ。チェックをつけておけ」
眼鏡をかけた男子生徒は無言で紙にペンを走らせる。
生徒会は毎週月水金に"遅刻生徒指導運動"という活動を行なっている。内容は遅刻した生徒に生徒会職員全員で厳しい罰を与えるというもので、今年からこの制度が作られたのだ。
朝の弱い俺にとっては最悪すぎる制度で、紙に赤ペンで名前を書かれれば最後、罰を受けるまでどこまでも追いかけてくるのだ。
「貴様!今月で遅刻は何回目だ!」
腕を組み俺の目の前に仁王立ちしているのは立花地沙。この学校の生徒会長様だ。
品行方正で容姿端麗。この学校で彼女の事を知らない人はいないだろう。
彼女は綺麗な長い黒髪をなびかせながら、俺にじりじりと近づいてくる。
「…覚えてないです。というかまだ遅刻じゃないです」
「…5回目だ。規定の回数に達したため制裁を加える」
「え!ちょっ!まだチャイム鳴ってないじゃー」
そう言いかけた瞬間、無慈悲にもチャイムが鳴った。生徒会長が待っていましたと言わんばかりにニヤリと笑う
「…今鳴っただろう?」
「権力の乱用だぁ!」
この後めちゃくちゃ叩かれた。
「くっそ…朝から酷い目に遭った…」
痛む身体をなんとか動かし、教室へと辿り着いた。扉を開けて教室に入ると、急に頭に何かが当たった
「あらあら〜遅刻ね?ダメじゃない〜」
おっとりした喋り方が特徴的なのはこのクラスの担任の立花水華先生だ。学級日記で俺の頭をポンポンと軽く叩いてくる。
今日は何回叩かれればいいんだろう…
ていうか、いい加減止めろ。
この女教師いつまで叩くんだ。
「…おい、日向。お前朝から幸運だな」
話しかけてきたのは俺の隣の席の青山。まあ、普通に仲の良い友達だ。え、俺に友達はいるのかって?
さっきも言っただろう。俺は普通の高校生なんだ。友達ぐらいいるさ。とは言ってもオタク友達だがな。
「…なんでだよ。最悪だろ」
「だ、だってよ?水華ちゃんにた、叩かれるなんて最高じゃねぇか!」
前言撤回。こいつとは友達じゃ無いかもしれない。
「…お前よく担任の先生に興奮できるよな…」
「だ、だってよ!超絶美人じゃんか!あ〜嫌な顔されながら踏まれてみてぇ…」
朝から性癖駄々漏れだぞ、お前。
周りの女子がめちゃくちゃ引いてるのに気づくべきだな。青山はまあ所謂変態で、黒歴史と呼ばれる物を一日に一つは作り上げるレベルの変態だ。一応オタクグループに所属している。
「それに!日向!俺は見たぞ!お前!朝から生徒会長の地沙先輩にも叩かれてただろ!羨ましい!!」
青山は俺の胸倉を掴んで前後にゆすってくる。
「…さっきから興奮しすぎだぞ…お前。とりあえず落ち着けよ、な?」
なんだか今度は男子の冷ややかな目が俺に向けられているように感じられるのは気のせいだろうか。叩かれて嬉しいという気持ちが俺には理解できないな。
右隣で朝から鼻の穴を大きくして興奮している友達を無視して、俺は一時間目の準備をする。一時間目は数Ⅱだ。いきなり重たい教科だと、一日のやる気を削がれるんだよな。
準備をしていると、通路を挟んで左隣の席に座る女子生徒がこちらを見ていることに気づいた。俺が左を向くと彼女もこちらを向く
「え、えっと…どうしー」
「ちょっと、喋りかけないでくれる?」
俺の言葉を遮るようにそう言ったのは、東雲火凛だ。いわゆるクラスの一軍グループと言うキラキラした所に在籍して、いや、なさっているお方で、見た目は少しチャラチャラしているように見えるが、実は頭が良いという一面もある。気持ちの悪い目線すら送られなければ男女問わず仲良くしてくれる。
…と、聞いていたのだが、どうやらそうでは無いらしい。喋りかけただけで殺気混じりの目で見てくるなんて俺ははどれだけ嫌われているんだ?
周りからクスクスと笑い声が聞こてきた。
側から見ればクラスのマドンナとお近づきになろうとして失敗した惨めなモブだからな。
俺は恥ずかしさのあまり、机に突っ伏した。
あぁ、今日は朝からとんだ災難続きだ。
****
「ひ、ひなた殿!こ、これを!これを見て下さい!」
「ん〜?どうした?」
食事中に話しかけてきたのは村上君。生粋の声優オタクで、俺の友達の一人。毎日毎日声優に対する熱い想いを俺に語ってくるのだが、いつも適当にあしらっている。だけど今日はなんだか様子が違うようだ。
ドン!と俺の机に乗せられたのは週刊文春。開かれたページには赤い文字で大きくタイトルが書かれている
「…大物俳優Yと若手美人声優Tの熱愛発覚…?」
写真付きの記事には文字がびっしり書いてある。それを読んでいくと、なにやらプライベートで二人で食事に行っていたらしい。まあ、これが事実かどうかは知らないが。
「…ひなた殿…声に出して読まないで下さい…」
「ご、ごめん…そんなにショックなんだ…」
村上君の目には涙が溜まっていた。黒縁のメガネを取り外し、俺の肩を持ち、顔を近づけてくる
「ショックなんてものじゃないですよ!僕の推しの子なんですよ!この子!ちなみに名前は金恵
ちゃんです!」
「そ、そう…それはうん…災難だったね」
「金恵ちゃんと言えば、デビュー作の『ヒロインズゲーム』!!いきなりのヒロイン抜擢!そこで活躍したことで人気は一気に急上昇しました!さらにその次の作品なんですけどね!これは彼女の声の良さを最大限に活かした作品となっておりましね!特にー」
あ、こいつ完全にスイッチ入ったな。
こうなるともう村上君はチャイムが鳴るまで喋り続けるので、俺は放っておくことにした。隣の白石に声をかける。
「やあ、日向。今日は少し暑いね」
サラサラの髪をなびかせながら俺に返事をしたのは白石。こいつも俺の友達で、アイドルオタク。顔はイケメンなのに頭の中はアイドルの事しか頭が無いのが玉に瑕だ。
「う、うん。とりあえずそのアイドル団扇であおぐのやめとけ」
「どうしてだ?俺の特製団扇だぞ?」
オタクとの会話はどうやら成立しないらしい。とういうか学校ではっぴ着るなよ。
なんかナチュラルに着てて逆につっこめなかったわ!
「…それで…携帯で一生懸命何見てるんだ?」
「…日向も見るかい?一週間前のライブで撮った写真を見返しているのさ」
スマホを覗き込むと、一人のアイドルがマイクを持って踊っている写真が見えた。
「そういえば、前の東京公演のやつか?」
「そう!僕はそれに行ってきたのさ!もちろん、木乃香ちゃんのために!」
聞けば、この子の写真だけで500枚は撮ったらしい。
彼の推しの小鳥遊木乃香は『SUN8』というトップアイドルグループのセンターを務める子で、cmやドラマなどにも出演するぐらい芸能界では引っ張りだこな存在だ。
「そ、そうか…」
「ということで、僕は行かなくては」
「え、どこに」
「もちろん、一年の教室に行って会いにいくのですよ!」
言い忘れていたが彼女は学生である。学生でありながら、トップアイドルであり、もちろん学校では超有名人だ。
そして、ファンの一人である白石は、
キラキラと目を輝かせて変な走り方で教室を出て行ってしまった。残念イケメンとはあーゆうのを言うのだろう。
まあでも、すぐに戻ってくるだろう。今日はお目当ての子は学校には来ていないはずだし。
喋る相手もいなくなったので黙々とご飯を食べていると女子生徒達の楽しそうな話し声が聞こえてきた
「この火乃凛ちゃんめっちゃ可愛い〜!」
「確かに!しかも見て!このでかいおっぱい!」
「ちょっと!そんな大きな声で言わないでよっ!」
雑誌を机に広げて談笑している。所謂カースト上位連中だ。俺には近づくことのできない存在だな。
そんな彼女らの中心にはさきほど俺に辛辣な言葉をかけてきた女子がいる。そんな彼女は有名な雑誌の専属モデルをしている子で、彼女もこの学校の誰もが知っている有名人だ。
「めっちゃ!大人っぽいじゃん!」
「確かに!服もセクシー系だし!やばい!」
「ちょっ、恥ずかしいからやめてよ…」
まあ、こんな風に大声でバカ騒ぎしていてるのが彼女達だ。もっと周りの迷惑も考えて……
おっと、オタクグループも同じかもしれないな。
あまり他の人達のことは言えない
「…ねえ、ちょっとちょっと!」
女子生徒の一人と目があった。その時、まずいと思った俺は視線を逸らし、机に突っ伏した。
だが、時既に遅し。
「ん?なに?葵」
「今月宮の奴、絶対火乃凛の事見てたって!」
「え〜!まじ〜!絶対好きじゃんっ!」
あー…しくじった。
出たよ。これだから今時のJKは。
ちょっとチラッと見ていただけなのに、すぐそういう話に持っていこうとするのはどうかと思うぞ。本当に。
「…やめて。あいつは絶対に無いから」
「うわ〜、きっつ〜!」
うわ〜、きっつ〜!
俺じゃなきゃ泣いちゃうね。
まあでも、こいつは毎日嫌悪感丸出しで俺の隣にいるわけだから、もうこんなの慣れているさ、今更傷ついたりなんてしない。
…多分。
****
人には生まれつきの才能があると思う。
足が速いという才能。
誰とでも仲良くなれるという才能。
絵を上手に描けるという才能。
頭が良いという才能。
もちろん、それは努力があるからこそ成り立っていると知っている。だけど、才能は天から授けられたものだと思う。いわゆる天才という人種の人間に凡人が追いつけない理由はそこにあるのだ。
「…なんですかそれ。哲学?」
スマホに目を向けながら、バイトの後輩の伯井君は気怠そうにそう返事をした。伯井君は今年に俺のバイト先の『ココセ』という飲食店にアルバイトとしてやってきた。年齢は俺より一つ年下であり、学年も一つ下。…ではあるが、高校は通っていないらしい。
いわゆる不登校だと聞かされた。
「…別にそういうわけじゃないけど…」
「日向先輩ってたまに変なこと言いますよね」
スマホ画面を激しく連打しながら何食わぬ顔で俺をディスってくる。ヤンキーみたいな見た目に反して伯井君はゲーマーだ。だからこそ、こうやって会話することができている。
「…えっと…そろそろバイトだし、もうゲームやめない?」
「あー…さーせん。今良い所なんで」
スマホ画面をタップする速度が速くなっていく。
ただ待っているのも暇なので、バイトが始まるまで彼のやっているゲームを見てみようと思った
「えっと……あ、それもしかして『マジックウォー』?」
フィールドやキャラクターに何か見覚えあると思ったら、昨日夜遅くまで付き合わされたスマホゲームだった。アメリカの会社が作ったスマホアプリゲームで、正式名称は『MAGIC WAR OF WORLD』
所謂MOBAという種類のゲームで、日本語で言うと、マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ。
複数のプレイヤーが2つのチームに分かれ、各プレイヤーはRTSゲームの要領でキャラクターを操作し、味方と協力しながら敵チームの本拠地を破壊して勝利を目指すスタイルのゲームのことだ。
やべ…画面を見たら嫌な事思い出した…。
吐きそう…。
「え?意外。日向先輩もやってるんですか?」
「あーいや、やってるって訳じゃないんだけど…やる機会がたまたまあってね」
つい昨夜。いや、今日やったばかりなんですけどね!
お陰で超寝不足だ。
「へぇ…。これって難しいですよね。課金要素とか全然無い代わりに頭使わないといけないといけないから」
「…う、うん。難しいよね。かなり」
「それに知ってます?この前の世界大会で優勝したの日本人チームらしいですよ。賞金は日本円で1000万。賞金狙いで俺も出たけど、一回戦で負けちゃいました」
「へ、へぇ…そりゃ、すごい」
思わず、返事がたどたどしくなってしまった。
そんなこんなでバイトの時間になったので、駄々をこねる伯井君を引っ張りだして、二人でバイトに向かった。
****
いつもバイトが終わる時間になると空は真っ暗になっている。早く家に帰らねば。
「じゃ、俺はここで。お疲れした」
「おう、気をつけて」
バイクに乗って颯爽と帰宅する伯井君を羨ましいと思いつつ、駅へと歩いて向かった。
…今度バイクの免許とろ…
暫く歩いていると駅前で人だかりにぶつかった。たくさんの人がズラズラと建物から出てきている。
俺は目の前の大きな建物を見上げる。
「あぁ、そういえばここ音楽堂か」
という事は、コンサートか何かがあったということだ。こんな平日に珍しいな、と思いつつ人混みを抜けていく。
「あ〜!天音様!今日も素敵でしたわ!」
「本当に!どうしてあれだけ人を惹きつける音を奏でることができるのでしょう!」
人混みの中からチラッと見えた看板には、
『音楽堂3周年記念!立花天音ピアノリサイタル』
と書かれていた。
「……そういうことね」
そのまま俺は群衆をかき分けて駅へと向かっていった。
駅へ着くと俺が向かったのは電車のホームではなく、本屋だった。駅に着いてから気づいたのだが、今日発売の新作ラノベを買ってこいと言われていたのだ。
「…はぁ…人遣い荒いよな…」
そう愚痴をこぼしながらも、俺は本屋へと向かう。さっさと買って帰ろうと思いながらラノベコーナーで探していると、聴き慣れた声が聞こえてきた。
俺はふとそちらに視線をやる
「それでさ〜!って、あれ、月宮じゃね?」
「あ、ほんとだ」
「てか、何見てんだろ。もしかしてラノベってやつ?」
あ、やべ詰んだ。
プライベートで最も会いたくない人種の人間に出会ったしまった。しかも、なんかこっちに近づいてくるし。俺はラノベを持って急いで逃げようとするも、肩を掴まれた。まるでライオンに捕食される兎のような気分だ。
「おい!逃げんなよ」
その瞬間、持っていたラノベを取り上げられる。
「うっわ!何この表紙!」
「えっろ!ほぼえろ漫画じゃん!」
おい、待て待て。
公共の場でそんな大きな声でそんな事を言うな。
お前らの格好だって側から見たらそう思われてるかもしれないだろうが!
「…えっと…返して…」
「なんかザ!インキャ!って感じの本だね」
「ちょっと〜言い過ぎ〜!」
「怖がってるじゃない、やめてあげなよ」
俺はラノベを取り返すとダッシュでセルフレジで購入し、そして本屋を出た。
いや!なに!怖!
めっちゃ緊張したよ!
いや、違う違う!陰キャってなんだよ!って怒るべきなのか!
俺はそんな事を考えながらやっと帰宅した。
無駄に労力を使い、疲労しきった俺ははぁ…とため息をついた。手にはラノベが入ったビニール袋をぶら下げているが、それすらも重いと感じる。
これで、やっと俺の長い長い1日が終了する。
俺は扉に手をかける。
「…いや……そんなわけないか…」
俺の長い一日が終了?
これで一休み?
違うな。
忙しくなるのは…これからだ…
俺はガチャリと家の玄関の扉を開ける
「あらあら〜遅かったじゃな〜い」
「弟君!聞いてよ!週刊誌がさ〜!」
「弟よ、お前の今日の遅刻は一体どういうことだ」
「ちょ、ちよっとあんた!今日の教室の事なんだけど…」
「兄さん兄さん!この前のライブの話なんですが!」
「お兄様?なぜ今日のリサイタル来て下さらなかったのですか?」
「おにぃ!早く早く!…あれ?何をだっけ?」
「…兄貴。はよ。ゲーム。」
恐らく、人々は口を揃えてこう言うだろう。
…羨ましい、と。
だけど、誰も知らない。
『9人きょうだいで俺だけ男』
という凄まじい苦労と生きにくさを。
あぁ、誰か。ここから俺を救い出してくれ。
最後まで読んで頂きありがとうございました!