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8 王都へ迫る危機

 カルバーリョの村に来てから1ヶ月、多少の想定外はあったが隠居計画はおおむね順風満帆だ。


 俺はしみじみと幸せを噛み締めながら、村の片隅にできた自分の新居を眺めていた。あれほど小さくていいと言っていたのに、村で三番目に大きい建物となってしまった。


「やっとできましたね」

「あぁ。本当に村の皆には感謝だよ」

「いえいえ。皆こそ、病気や怪我の心配が無くなったってタロウさんには感謝してるんですよ」


 隣で新居を眺めるリーナが言った。感謝されるのはいつだって良い気分だ。その上、大袈裟なパレードや派手な勲章がないのが有難い。


「さぁ。入りましょうか!」


 リーナはまるで自分の家かのように俺の新居を案内し始めた。


「ここはキッチンです。私ももっと料理できるようにならないと」

「ここは書斎です。タロウさんのプライベート空間ですから無断に入らないように気をつけますね」

「ここは‥‥」


 まるで新婚気分のリーナは壊れた機械のように話し続けた。

 

「ありがとう。もしかしてリーナも一緒に住むつもり?」


 俺は無粋にもリーナに直接聞いた。


「……お父さんがまだ早いって。残念です」


 リーナは悲しそうに下を向いて答えた。”まだ”というのが多少引っかかるが、俺も「残念だ」とだけ返して誤魔化した。


「でも、これからも一緒にご飯は食べましょうね。お昼と夜、いや、朝も料理を作りにきますからね.…ね」


 俺が戸惑っていると、リーナの謎の気迫で念を押してきた。


「う、うん」


 俺はそう言い残し、そそくさと2階の書斎へ逃げ込んだ。リーナには悪いがせっかくの隠居なのだから今は一人の時間が欲しい。


 まだ何もない書斎で、俺は簡易な荷解きをしながら、ふと思い出して荷物の中から遠視鏡〈テレミラー〉を取り出し、覗き込んだ。


 この遠視鏡〈テレミラー〉は俺が作った手鏡型の魔道具で、王都など各所に仕掛けた子機から監視カメラのようにリアルタイムで様子を見ることができる。この魔道具を開発し、各所に配置したことで安心して隠居計画を進めることができたのだ。


 遠視鏡〈テレミラー〉の中の王都は沢山の人の流れで溢れていた。まだ王都を離れて1ヶ月しか経っていないが、いつも騒がしい王都の様子がどこか懐かしく感じる。


 人間、獣人、巨人、さらにはエルフからドワーフまでもが同じ都市で生活しているのは、異世界広しといえどもこの王都〈セント・エイジス〉だけだろう。


 ん、それにしても騒がしすぎないか。皆、荷物を持って逃げるように走っているではないか。間違えない。これは緊急避難だ。


 俺は城の中にも仕掛けた遠視鏡〈テレミラー〉で何が起こっているか探ってみることにした。


「王立騎士団〈ロイヤルナイツ〉はどうした。なぜこんな時にいない」

「王立騎士団〈ロイヤルナイツ〉は現在、巨大鷲〈ガルーダ〉の討伐に向かっております。あと3日は帰ってこないかと」

「くそー、間が悪い」

「こんな時に、あの方がいてくれれば‥‥」

「もう、あいつの話はするな。あいつにいつまでも頼ってはいけないということだ。やるしかない。我々だけで竜衆〈ナーガ〉を迎え討つぞ!」


 スキンヘッドの近衛兵長アントンが作戦会議をしているようだ。転移して初めの頃、よくお世話になったっけな。どこかこの1ヶ月で老けたようにも感じる。


 それにしても厄介だな。〈ナーガ〉が王都へ向かっているのか。

 

 竜衆〈ナーガ〉とは全長30メートルを越す大蛇の魔物である。その大きさだけでも脅威なのだが、何といっても凶悪なのは3本の頭である。ナーガは3本の頭を自由自在に操り、その毒牙で歴戦の強者たちを葬ってきた。その上、同時に3本の頭を切断しないと、何回でも生えてくるという驚異の生命力を誇っている。


 王都といえども最大兵力の王立騎士団〈ロイヤルナイツ〉が不在となれば、甚大な被害は免れないだろう。


 仕方がない。アントンに借りを返すのも兼ねて一肌脱ぐか。王都の本屋にも寄りたかったところだ。挨拶をしたい人たちもいるし。


 俺はいくつかの理由を用意して、王都へ帰り、ナーガを討伐することに決めた。


 晩飯までには戻って来なきゃな。戻らなかったらナーガより怖いリーナが待ち受けている。


 俺は遠視鏡〈テレミラー〉を書斎の机に置いて、唱えた。


「【転移〈インバージョン〉】=セント・エイジス」


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