4 リーナ
そこから俺はしばらくリーナと話し合った。
カルバーリョ村のこと、祖母である村長のこと、少し頼りない父のこと、そして俺にまだ警戒心を抱いている大男ドリスのこと。
常に笑顔の絶やさないリーナとの会話は時を忘れさせた。国の存亡や世界の有り様ではなく、小さな村の些細な出来事について語るのがどこか新鮮に感じた。
気がつけばすっかり夜も更け、宴はすっかり終わりをむかえていた。
「こんなところにいたんですか?タロウさん」
酒に酔い、村人に肩を抱えられたサモンが陽気に話しかけてきた。
「もうお父さんったら」
申し訳なさそうにリーナは村人に代わって父であるサモンの肩を担いだ。
「あれ、リーナもいたのか。どうですタロウさん、うちのリーナはいい子でしょう?」
ご機嫌なサモンがヘラヘラと笑いながら問いかけてきた。
「はい。とても」
俺がそう返すとリーナは「やめてよ、お父さん」と言いながら少し顔を赤くした。
「そうでしょう。どうぞ嫁にもらってやって下さい。タロウさんになら安心して」
「お父さん!!」
サモンの言葉を遮ってリーナが割ってはいってきた。
「ごめんなさいタロウさん。お父さんが勝手なことを」
リーナは恥ずかしそうにそう言うと、俺は少し笑って「リーナは本当に良いお嫁さんになれると思うよ」と言い返した。
するとリーナは酒に酔ったサモンよりも顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「タロウさん。さぁさぁ家を案内しますよ」
サモンはそう言ってリーナに肩を借りて千鳥足のまま歩き始めた。
新しい家が建つまでの間、俺はしばらくサモンの家でお世話になることになっていた。ということはリーナとも同居するということになる。家へと歩いている道中、リーナがチラチラとこちらの顔を伺っていることが分かる。
「さぁさぁ着きました」
サモンの家は村長宅でもあるので、村の中では集会所に次ぐ大きさを誇っていた。それでも王国に住んでいた時の俺の屋敷の4分の1もない。
「今日は空いている客室で寝てもらいます。身の回りのことはリーナになんでもお申し付けください」
サモンはそう言い残すと「おやすみなさい」と言ってふらふらと自室へ戻っていった。
俺が家の中を見渡しているとリーナがボソッと何かを言っている。俺が聞き返すと小さい声でリーナは「私が良いお嫁になれるって本当ですか?」と言った。
「あぁ。本当だよ。リーナなら良い人が見つ…」
「本当ですか?嬉しい」
リーナは俺の言葉を最後まで聞かずに食い気味に答えた。
「じゃあ。今日からは一緒に寝ましょうね!」
「ん?」
「夫婦なんですから、一緒に寝るのは当たり前ですよね?」
リーナは目をキラキラさせて迫ってきた。
夫婦? やばい。この子、何か勘違いしている。