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19 そんな装備で大丈夫か?

 そんな装備で大丈夫か?


 そう言いたくなるほど旅に適していない格好でサモンは意気揚々と村を出た。まるで世界を救う英雄のように、使命感に燃える顔で村を振り返るサモン。間違えない、彼は自分に酔っている。


「お父さん。大丈夫かしら。一人でこの村の外を出たことすらないかもしれないのに」


 父を心配するリーナが呟いた。


「大丈夫。俺が付いて行く。その代わり婆様には内緒にしといてくれ」


「だったら私も行きます」


「ダメだ」


 俺の厳しい一言にリーナは俯いてしまった。


「リーナは村のことを頼む。俺が教えた治癒魔法で村人たちの面倒も見てやってほしい」


「…分かりました。ですが必ず帰ってきてくださいね」


「大丈夫。ただ川を上って行くだけだ。心配ない」


 俺がそう言うとリーナは少し微笑んでこくりと頷いた。


 さて、川を上って行くだけだと言ったものの、恐らくサモン一人では一週間ももたないだろう。自然というのは家に住み慣れた人間にとっては手強い。一晩夜を明かすだけでも、寝床を作り、火を起こし、さらには周囲を警戒しながら寝る技術が必要だ。


 まぁ今の俺にとってはちょっとしたキャンプみたいなものだが。


 どれぐらいの旅になるかは分からないが、テンとシンも連れて行くか。彼女たちも獣人らしく逞しく成長している。俺と同行すれば危険はないだろうし、移動民族として旅の経験は大切だろう。


「じゃあ行ってくる」


 俺は必要最低限の荷物を背負い、リーナに告げた。


「お父さんの事を頼みます」


 リーナはそう言って俺の手を両手で握りしめた。

 柔らかな感触とゆっくりと伝わる温かみ。何だか昔にもこんな事があった気がする。

 そうだ。確か大厄災〈アポロドロス〉を倒しに行く時に、ミルに手を握られた時だ。

 あの時は世界を救うための旅だったが、今回は小さな村の一人の少女の父を見守る旅だ。

 

 もちろん、リーナにとっては世界の存亡と同じくらい大切な父だ。

 俺はリーナの手を強く握り返した。


「いってきます」


「いってらっしゃい」


 いつまでも手を振り続けるリーナを背にカルバーリョ村を出た俺は、テンとシンを連れ川を登り始めた。


 旅に慣れていないサモンの事だから、そう遠くまで進んでいないだろう。おそらくこのまま歩けば今日中にでも追いつけるはずだ。


 だが問題は先に村を出たドリスだ。果たしてどこまで進んでいるのかも分からないし、実際無事なのかも分からない。まぁあの巨体だから直ぐに死ぬということはなさそうだが、無視するわけにもいかないだろう。


「遠足楽しいね」


「遠足じゃないのよ、シン」


 木の棒を持って冒険気分のテンを姉のシンが諌める。


「そうだ。周りの警戒を忘れないように。あとは天候や気温、風向きにも注意して不測の事態をできるだけ無くすようにするんだ」


「わかった。少し先に魔物の臭いがするね」


「よく分かったな。恐らく数里先に一角兎〈ホーンラビット〉の群れがいる。飯も兼ねて狩るか」


「私に狩らせて」

「僕も行きたい」


「よし。じゃあ三人で競争するか。よーい、どん」


 俺の号令と共にオオカミの獣人姉弟が飛び出した。

 さすが獣人だ。もう見えなくなってしまった。だが、師匠たるもの競争に負けるわけにはいかない。


 俺が強く踏み込むと、地面が深くめり込んだ。初速から徐々に加速し、5秒ほどでシンとテンを追い抜いた。意地になったのかテンは必死に俺に食らいつこうと頑張っている。

 そろそろ一角兎〈ホーンラビット〉が見えてくるな。気配を消して近づくか、このままの勢いで行くか。まぁ競争となると後者だな。


 俺が勢いのままに一角兎〈ホーンラビット〉の群れに突っ込むと、一角兎〈ホーンラビット〉たちは散り散りに逃げ始めた。


 少し大人気ない気もするが仕方ない。


「【土盛】〈ソイル・アップ〉」


 俺が魔法を使うと周囲20mほどの地面が盛り上がり、土壁の役割を果たし一角兎〈ホーンラビット〉たちを囲んだ。持ち前の跳躍力で10匹ほどは土壁を越えて逃げてしまったが、残りの20匹ほどを捉えることには成功した。


 逃げることを諦めた一角兎〈ホーンラビット〉たちは一斉に俺の方を向き、敵意をむき出しに突っ込んできた。

 

 俺はすっと身を翻し一角兎〈ホーンラビット〉の攻撃を避けると、立派な一本角を素手で掴んだ。

 

 うん、ちょうどいい。俺は角を片手で持ち、一角兎〈ホーンラビット〉をまるでピコピコハンマーかのように扱い、襲いかかる一角兎〈ホーンラビット〉たちを避けては叩き、次々に倒していった。


「ちょっと待ってタロウ、卑怯よ」


 あと5匹ほどになった頃にテンの声が聞こえた。


 一角兎〈ホーンラビット〉片手によくこの土壁を登れたもんだ。 

 

 俺が関心していると、テンはあっという間に残りの一角兎〈ホーンラビット〉を爪と牙で狩ってしまった。


「私は6匹だけど、この様子だと私は負けね」

「ちょっと大人気なかったな。シンは?」

「逃げた一角兎〈ホーンラビット〉を追って行ったわ。そんなに遠くには行ってないとおもうけど」


その頃、シンはサモンに出会っていた。


「æ–Œ–‡å­g-jds,-〈僕はシン、おじさんは誰?〉」


「ヒー。バケモノウサギの次は、狼人間だ」


 シンを前にしたサモンは気を失い、倒れた。


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