17 レベルの違い
稽古の後にしばらくテンとシンに小鬼〈ゴブリン〉の生態と狩り方を教えた俺は、カルバーリョ村に戻った。
「また散歩ですか?」
どうやらリーナは俺を探していたようだ。小さい村ともなると姿を隠すのも難しい。
「森が好きなんだ」
俺は苦し紛れに言い訳した。
「何だか今日は森の方から突風が吹いていたのですが、大丈夫でしたか?」
どうやら俺の放った衝撃波はこの村にまで届いていたようだ。テンとシンに良いところを見せようと調子に乗ったせいだ。気をつけよう。
「あぁ俺は大丈夫だったよ」
「良かった。今度は私も連れて行ってくださいね。ところでコレ何だか分かりますか?」
リーナはそう言うと、手のひらサイズの透明な石を取り出した。
分かる。これは魔石から作られるレベル鑑定石だ。
田舎には存在しないと思っていたが、なぜ、リーナがこんな物を持っている。
もしこれで俺のレベルが測られると、只者でないことがバレてしまう。
「先日の行商人さんから買ったんですが、レベルというのを鑑定できるみたいなんです!」
「へぇ〜。そうなんだ」
「私は36ってでたんですけど、タロウさんも測ってみますか?」
「いや、俺はいいかな。ただの治癒者〈メディシンマン〉だから」
「あれ〜。もしかして私より低いかもしれないのが怖いんですね」
リーナはしたり顔で言った。
確かにリーナのレベル36というのは一般人の中ではかなり高い方だ。だが、俺のレベルは桁違い、流石のリーナでも違和感を持ってしまうだろう。
「まぁ、それもあるかな」
「大丈夫ですよ。レベルが低くっても村のみんなには内緒にしてあげます」
そう言うとリーナは俺にグッと歩み寄ってきた。
どうしたものか。このまま拒否し続けるのも変だし、鑑定石に反映された数値を偽装なんてしたことはない。
リーナの記憶を少し消すか。いや、それは少しやりすぎな気がする。
いっそレベルを開示した上で、口封じをお願いするか。
「あっ。あんなところにオオカミが!」
リーナが俺の後ろを指差して叫んだ。
テンとシンが俺に付いて村まで降りてきてしまったか。
俺が急いで振り返るとそこにはのどかな村の風景が広がっているだけだった。
俺が安堵の息を漏らすと、右手に冷たい鑑定石のヒヤッとした感覚がした。
ヤバい。リーナに謀られた。
俺の手に握られたレベル鑑定石は眩い閃光を放ち、小刻みに激しく振動し始めた。
「きゃっ」
リーナの叫び声と共に鑑定石は俺の魔力に耐えきれず砕け散った。
「大丈夫か?」
「はい。タロウは?」
「無事だ。すまない。レベル鑑定石が砕けてしまった」
「いえ。私こそいきなりごめんなさい。何がおこったんでしょう?」
「分からない。もしかすると不良品だったのかも」
本当は小型な鑑定石だったから俺の魔力の負荷に耐えられなかったのだろう。レベルが知られるのは避けることができたが、せっかく買った鑑定石を壊してしまったのは少し罪悪感があるな。
そう思いながら俺は砕けた鑑定石を拾い上げた。
「0」
「0」
「1」
「9」
砕けた鑑定石にはそれぞれ数字が刻まれていた。
「19ですか、本当に私より低かったんですね。タロウのことなら50ぐらいはあると思ったんですが」
俺の拾い上げた鑑定石の数字を覗き込んできたリーナがそう言った。
「買い被りすぎだ。俺はただの治癒者〈メディシンマン〉なんだ」
俺はそう言って、砕けた鑑定石を手元で本当の順番に並べた。
「1」「0」「9」「0」。
これが恐らく今の俺の本当のレベルだ。