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14 再開 〜英雄×王女×剣聖〜

「ひ、久しぶり」


 俺は口ごもりながら言った。


 ミルはつかつかと音を鳴らし、一直線に俺に近づいてきた。


 パチン。ぶたれた。圧倒的美女からのビンタ、ある意味貴重かもな。


 え、泣いているのか。

 

「何で、、何で帰ってきたんですか?」


 一国の王女とは思えないほど感情を露わにしたミルが涙声で言った。


「ごめん」


 俺は情けなく謝るしかできなかった。


 気まずい空気が流れ、アントンが俺たち二人を残して何も言わず去っていく。行かないでくれアントン。


 ぐすん。ぐすん。とミルの泣き声は大きくなっていく。


 綺麗な顔が台無しだ。と言いたいところだが、泣き顔も本当に可愛い。透明感のある白い肌に際立つ赤くなった鼻、そして潤んだ瞳。


 今すぐ抱きしめて頭を撫でたいが、俺にそうする権利はない。別れを切り出したのは俺なんだから。


「ごめん。元気だった?」


「‥‥‥」


「俺は元気にやってるよ」


「‥‥竜衆〈ナーガ〉を倒したの、ハローですよね」


「は、はい」


 ミルの瞳を見て、嘘をつくことはできないと観念した俺は弱々しく答えた。

 

「あの【火線〈フレア・レイ〉】の跡を見れば誰でも分かります」


 いや。分かるのは多分、お前だけだ。と言いたい気持ちを堪えて俺は頷いた。


「ところで王立騎士団〈ロイヤル・ナイツ〉もスゴイよな。あの巨大鷲〈ガルーダ〉を負傷者なしで…」

「何で帰ってきたんですか?」


 話を逸らそうとした俺の試みはミルの言葉で散った。


「ほ、本屋に寄ろうと…」


 俺がそう言うと、ミルはまた大声で泣き始めた。


「何で貴方はいつもそうなんですか。私の気持ちも知らないで。私がどれだけ、どれだけ」


 確かに本屋という答えは最悪だったと思う。


 俺は王になれない。なりたくない。だからミルに一方的に別れを告げて王都を出た。


「ごめん」


 俺はそう言うしかできなかった。


 再び気まずい沈黙が流れる。城の外で行われている凱旋パレードの音だけが遠くに聞こえる。


「行くよ」


 俺は耐えきれず言った。ミルは何も言わなかった。


「また、帰ってきてね」 

 

 部屋を出る直前、ミルが言った。

 

「いいのか?」


「うん。ヴィンセント王国王女、ヴィンセント=ミルが許可します」


 ミルはあの頃のように悪戯な笑顔を見せて言った。


「ありがとう」


 俺はそう言い残して部屋を出た。うまく笑えていただろうか。


 勝手に王都を出た俺を歓迎するというミルの優しさに、涙が出そうだった。


「あまり、王女様を泣かせるなよ」


 部屋を出ると声がした。石壁にもたれかかり、腕を組む人物は、王立騎士団〈ロイヤル・ナイツ〉騎士団長ダンテブル卿だ。


「やっぱり気付いていたんですね」


「あぁ。この隻眼から逃れられると思うなよ」


 刃のような眼光の隻眼がこちらを見る。パレードの最中に感じた視線はやはりダンテブル卿だった。


「久しいな、ハロー」


「お久しぶりです。〈無形の剣聖〉ダンテブル卿」


「お前までそう呼ぶか」


 ダンテブル卿はそう言って、ほのかに口角を上げた。


「王女様は国民のためにも気丈に振る舞っておられるが、いつでもお前を心配なさっている。お前が隠居をしたい理由も分かるが、もっと顔を出せ」


「はい。ダンテブル卿の言うことには逆らえませんね」


「やけに素直ではないか。実は私も手合わせの相手に困っていたところだ」 


「手合わせ、、ですか」


 俺は笑ってお茶を濁した。


 俺は剣術ではダンテブル卿に一度も勝ったことがない。しかも、ここ1か月以上稽古をしていない俺は、恐らく半殺しにされてしまうだろう。


「ところで王へは挨拶しないのか?」


「今日はやめておきます」


 あの人、ちょっと苦手なんだよな。話も長くなりそうだし。


「そうか。いつでも帰って来い」


「ありがとうございます。あと、巨大鷲〈ガルーダ〉討伐お疲れ様でした」


「うむ」


 そう言うとダンテブル卿はゆっくりと頷いて踵を返した。鎧の擦れる鈍い音が響く中、俺はヴィンセント城を後にした。


 こんなに嬉しい事はない。てっきり怒られると思っていたが、皆、身勝手な俺を許してくれている。時々でいいから戻ってこよう。


 俺はパレードの後片付けをする広場を心地よく闊歩した後、カルバーリョ村へと帰路についた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 俺はもう何年本気出していないだろうかってタイトルなのにタンテブル卿に一度も勝ってないとかダメだろ。剣術ではとか言っているが言い訳にしか聞こえん。 あと普通に戻ってきているが勝手にいなく…
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