13 バレる
しばらく広場の端から王立騎士団〈ロイヤル・ナイツ〉の凱旋パレードを眺めていた俺は感慨に耽っていた。
初めて凱旋パレードをされたのはこの異世界に転移して2年ほど経った頃だった。あの時は自分が認められた気がして、嬉しかったっけな。
だけど凱旋パレードも慣れてくると、言い方は悪いがめんどくさくなってくるんだよな。
まだまだ盛況なパレードを眺めながら、広場の片隅でベンチに一人腰掛けていると、隣に老人男性が腰掛けてきた。
俺が正体がバレないように顔を俯けていると、老人はパレードを嬉しそうに眺めながら声をかけてきた。
「ハロー殿がいなくなって、一時はこの王都もどうなるかと思ったが、もう安心じゃな。王立騎士団〈ロイヤル・ナイツ〉に加え、竜衆〈ナーガ〉殺しのアントン殿もいらっしゃる」
「そうですね。本当に心強い限りです」
良かった。アントンは約束通り、俺の代わりに竜衆〈ナーガ〉殺しを名乗ってくれたようだ。
「お主も、まだ若いんじゃし、見習わねばならんぞ」
「精進します」
若い頃の武勇伝を語り出した老人の話を聞き流していると、広場の中に巨大鷲〈ガルーダ〉の頭が担がれてきた。
大人10人掛かりでやっと担ぐことのできる巨大な鷲の頭は、死んではいるものの、今にも目を開きそうな不気味さを感じさせる。
相変わらず悪趣味だな。しかし、これも伝統だから仕方ない。大昔から魔物に脅かされながらも戦ってきたヴィンセント王国では、魔物に対する敵対心が強い。というか、この異世界全体においてそれは共通だ。
だからこそ強力な魔物を倒したものには惜しみのない賞賛と栄誉が与えられ、討伐の際には祝祭が開かれる。こういう俺もただの浮浪者から国一番の英雄となったのは、魔物退治のお陰である。
「見てみよ。あの〈伝説の英雄〉ハロー殿がたった一人で金黒竜〈ファフニール〉を討伐した時なんて、三日三晩お祭り騒ぎじゃったよ」
老人が広場中央に設置されている俺の銅像を指して言った。
金黒竜〈ファフニール〉か。あれは中々に手強かったな。俺は老人に生返事をしながら、自分の銅像を眺めた。それにしても何だあの銅像のポーズ。俺はあんなポーズとった覚えはないぞ。
ところでアントンに礼を言わなければな。本屋に行く前にまた隠れて城に赴くか。
「【不可視〈インビジブル〉】」
「ところで若者よ。お主、ハロー殿に似て……ん、いつの間に」
透明になった俺を探す老人を置いて、俺は祭りの中を進み〈ヴィンセント城〉へ歩いた。
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「おい。いきなり出てくるな」
城の窓辺から凱旋パレードを見ていた近衛兵長アントンは、突然目の前に現れた俺に驚いた。
「ごめん。ごめん」
そこから俺とアントンはしばらく昔話をした。初めて出会った頃、アントンはただの近衛兵で俺は成り立ての冒険者であった。
「あの頃は、まだあんなに髪の毛があったのにな」
「うるせぇ。お前なんて小鬼〈ゴブリン〉にすらビビってたじゃないか」
アントンはスキンヘッドの頭を撫でながら言った。
「ところであの後の竜衆〈ナーガ〉はどうしたんだ」
「大変だったんだぜ。みんなからどうやって倒したんだって聞かれてよ」
「なんて答えたんだ?」
「お前が強化〈エンハンス〉した剣の切れ味を見せたら何とか納得してくれたよ」
「なるほどな。強化魔法の効果は後1ヶ月ぐらいかな」
「1ヶ月!? やっぱりお前は化物だな。普通強化魔法なんて持って5分だぞ」
アントンは呆れ顔で言った。これからはどんな魔法も出力を調整しなとな。
「あと、竜衆〈ナーガ〉の素材は全部金に変えて寄付させてもらったぞ」
「うん。ありがとう」
やっぱりアントンに頼んで良かった。こいつなら信用できる。
「この国もまだまだ復興の最中だ。ハロー、本当にありがとうな」
「何だよ水臭い。あれからもう3年だな」
「あぁ」
俺とアントンは窓から町の様子を見た。夕暮れの中、凱旋パレードはもう終盤を迎えているようだ。
広場の上空に水の柱と火の柱が上がり、螺旋状に絡み合う。王立騎士団〈ロイヤル。ナイツ〉の誰かが魔法を使ったようだ。
「ハロー!」
俺が振り返るとそこには純白のドレスを夕焼けに染めたこの国の王女、ヴィンセント=ミルが立っていた。